生き方とかそんなの聞いてないし、私は転生者なのだから邪魔するなら消す。
止ヒ糸ケン(むらさきけん)
第一枚 型破り精神参上しました
頭が割れそうな気分だ。手作業である理由がない仕事を、私は淡々と、有無も言わずにやり遂げる。何故かって?今までに努力という言葉は私の中には注がれてなかったからさ。
受験期にはまともに頑張らなくても普通に受かれたし、テスト結果も赤点をとったこともない。
大人になってから嫌われたことなんか一度たりともない、だって話す人間を絞るようにしたから。そうだろ?なんせ意味のないグループに所属しているくらいなら孤独な方が楽しい。
鞄を手に取り肩に担ぎ、そそくさと家の道まで足を運ぶ。取り柄のない、主役を張るほどでもない彼の名前をここで語ることなど、今更遅い。
もう予言された運命。
車の入り乱れる交差点に交えて人が寄って集って散り散りに。彼もまたその群衆の一部でしか無く、それこそが彼の人生そのもの。
踏み外した大車輪。舞い上がる身体。
血反吐吐き捨て骨は粉。最悪な痛みと最上の現実逃避がやっと始まるこの瞬間。
最高
うすら眠い目を手で擦り付け瞼を幾度か下ろす。眼前に広がるは未だかつてないほど雄大な自然そのもの。
異臭ではない何か嗅いだことのない独特な香水のような花のようなナニカ。
重くなった足取りで乾いてきた喉元を潤せるほど美しい水に顔を近づけ飲もうとしたところでやっと自分を見た。
私が犬になってる
いやはやその見た目では考えられない。何せ先ほどまで人であったのだ。きっと夢だそう夢だ。早計に結論付けてとりあえず乾きをなくす。
さて夢だとわかった。では何をしようか。
夢といえば自由なことができる。今私は明晰夢を見ていることになるな。
明晰夢は夢の中で自分が夢にいるということを認識した状態のこと、そしてその状態では夢をコントロールできるそうだ。
じゃああの頃見ていた怪獣ブレスを真似て見るとしよう。
なんとなく口を開いて見せてそこに放たれるという意識が集中すると同時に、体から湧き上がる魂の悦びのような自然な気持ちが沸りを起こし、光線並みの火とも呼べず線となって放たれた。
パチパチチチち…
無作為な力は周辺木々を粉微塵に粉砕し、火木臭漂い熱気を帯びる。
「私の想像した通りだ。正に夢心地。……何故今の今までこの夢を見なかった?」
いやその前に、この場所は夢であるのか?思い返してみれば家に着いた記憶がない。
確実ではっきりとしたことといえば自分が宙に浮いて赤い液体が散布していたくらい…
「私は死んだのだな。
そうか。」
どうってことはない。愛人もいなければ親愛なる家族もいない。友人は数える程度だったが正直嫌いな連中。むしろ好奇だ。このチャンスをみすみす逃す訳にはいくまい。
だが疑問がまだ増えるな。先程私は光線を放った。これが夢でないとしたら実際の炎ということ。
なるほど、魔法だなこれは。よくある話だな。
人間が死に、転生したのち魔法世界に住んで俺最強と謳うあの魔法。私の番というわけか
だが困った。
先程写し出した水辺の顔は犬、いや狼に近い。
これでは女性にもてはやされるというあのテンプレが起こりうることがないではないか。
途方に暮れるでも無くただ気の向くままに歩みを続ける。先に見えたのは石垣の鉄板に小さく乗せられた盾。まるで誇りが耐えるかのようなその凛々しさは今すぐに壊してしまいたくなるほど美しい錆を会得していた。
「貰ってもよろしいだろうな。だが腕がないから意味がないか。まぁよい」
鋭くない牙で噛みつき、背負う。
私の体がでかいからか、はたまたこの盾が小さいのか、少し物足りない感覚だ。
未だに人間らしき影を見つけられず、好奇心の赴くまま森を縦横無尽に進む。属性がある魔法のようなものをどれだけ使っても不快感はなく疲れすらも引き起こされない。この世界はそういうルールなのだろう。
「あの頃の名前嫌いだったなぁ。名前変えよ。
んー、素敵な名前がいいよな。でもセンスが必要か。じゃあ」
アイデアをいくつか出すか。
ウルファー。狼風の名前。微妙 ボツ
スターワイルド。 安直 ボツ
アンドロメダ。 厨二病臭い ボツ
ジェリファー。 捻りがない ボツ
はぁ、やっぱりセンスがないな。私は死んで、この世界に来た。一般的にこの展開は異世界転生と言う。私は主人公のような立場に置かれたのだ。私は主人公…私は異世界…私は…主人公……私は………
私は転生者だ
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