第16話 おいしいものはぜーんぶメモ

「“たのしい”と、“はてしない”の両方」


ぼくはツヤツヤの分厚い紙が綴じられた、上等なノートを前にぎゅっとペンをにぎりなおした。


「ひとつずつ、おかしのしゅるいと、しょくにんさんのお名前おしえて」


目の前の侍女さんにおねがいする。超真剣。気合たっぷりだ。


「はい、サファさま」

「アン、ドゥ、ロワ、ひとりひとつずつ言っていってね」

「かしこまりました」


しょうじき、まだ3人の区別ははっきりついていない。でも、3人そろっているから、全員呼べば間違える心配はなし。


「まずは、お花畑のケーキと12色のデコールプチケーキ。職人は王宮菓子職人のケークア様その他の職人たち」

「ケークアさん。はい」

ケーキの、ケークアさん。王宮っと。ノートにしっかり書き込んで。間違いないか確認。


「……? あれ?」

「どうかなさいましたか?」

「あ、ううん」

ケーキのケークアさん! ケーキっぽい名前でとってもわかりやすい!たすかる!


「つぎは?」

「はい。チョコレート全般は同じく王宮菓子職人のカカオール様たち」

「……! チョコレートのカカオールさん!」

「はい。さようでございます」

すごい。専門分野にあったお名前!


「次に。同じく王宮菓子職人、キャンディはすべてキャンディス様方」

「えっ、キャンディスさん!?」

「はい。サブレとクッキー類は、王宮菓子職人のサブリナ様方」

「わあ!」

「マカロンは、城下のマカロン専門店のマカロッタ様」

「ジェリー類は、同じく城下の菓子店ジュリオー様」

「すごい!」


1ページに1つずつ書いたそれぞれの名前と担当のお菓子。ノートをペラペラめくったり戻したり。まじまじ見てしまう。

「ぜんぶだ」

ぜんぶ、専門分野のお菓子に合わせたみたいなお名前。すごくわかりやすい。ぜったい取り違えたりしないやつ。


「はい。今回、陛下からいただいたお菓子の制作者はこちらで以上です」

「全部お書きになれましたね」

「うん! もらったお菓子の種類と、その絵も描くんだー」

「まあ、それは素敵ですわね」

「みんな、まだ手伝ってくれる?」

「もちろんですわ」

「なんなりと」


たすかる。そしてこれが終わったら……いや、これの前に――


「でも、その前に、へーかにありがとうのおてがみ書かないととおもって!」

「まぁっ! それは素晴らしいですわ」

「……でも、上手にかけるかしんぱい」

なにしろ相手はこの国の王だ。プレッシャーがとんでもない。


「大丈夫ですわ。先日の王太子殿下のときも、たいそう立派なお手紙をお書きだったではありませんか」

「そぉかなぁ……」

王太子様のときとも、緊張感ぜんぜん違う。ぜったい手がふるえる。

「ええ、本当に……殿下も私たちも、本当に胸を打たれましたわ」

「もうぅ、みんなおおげさなんだからぁぁ」

そこまで言われると、なんか大丈夫かな?みたいな気になってくる。だし、てれる。えへへ。


「大袈裟じゃありませんわ。それに、心がこもっていれば、立派なお手紙でなくても、きっと感謝のお気持ちが陛下に伝わりますわ」

「……うん。そうだよね」

礼儀がなってなーい!とか怒られる可能性を考えて出さない、はさすがに選択肢にないよなぁ。ポンコツでもありがとう言ったほうが絶対いい。


なんたって、王様がわざわざあんなすんごいお菓子を山盛り贈ってくれたんだもん。お手紙くらいがんばって書かないとね。

「しんぱいだけど……がんばる」

「はい。私たちもなんでもお手伝いいたしますわ」



えええと、まずはぁ……


「しんあいなる、こくおうへいか」

えっとえっと、それから……


「このたびは、めちゃめちゃおいしいおかしを――」

あ、じゃなくって! えっとえっと……


「たいへんすばらしいおくりものをちょうだいし――」


うん、こうかな。それでえ……



***


「ふぅぅぅぅ……」

ぼくは、書き物机からそっと離れて、長椅子にぐたっと倒れ込んだ。

「終わったぁぁぁ」

お行儀悪い。でも今はゆるして。ほんとのほんとに1日がかりの大仕事だった。


「お疲れさまでございました。サファさま」

「さあさ、すぐお茶がはいりますので、お菓子をいただきましょうね」

「んーー」


そう。そのお菓子を贈ってくれた王様へのお手紙を書くのに、ぼくは翌日のまるまる一日がんばったってわけだ。


「へーか、お手紙、よんでくれるかなぁ……」

正直、書く前は読んでくれなくても、お、ちゃんとお礼の手紙を送ってよこしたな。って思ってもらえればぜんぜんOKって考えてたけど。

「できればよんでほしいかも」

一日かけてがんばったからね。……まぁ、読んで気に入らない!ってなる可能性を考えると、読まなくても、とは思うけど。


「もちろん読んでくださいますわ」

「ふふ。きっと喜んでくださいますわね」

「本当に今日はずっとがんばってらっしゃいましたものね」

「んー。アン、ドゥ、ロワもお手伝いありがとう」


代わる代わる見守っててくれて、紙を補充してくれたり、インクで汚れた手を拭いてくれたり、はげましてくれたり。はじめての王様への手紙は、ひとりでは乗りこえられなかった壁だと思う。


「いいえそんな。私どもはおそばに控えていただけですわ」

「本当にぜんぶご自分で考えて、お書きになって」

「大変ご立派です」

「えへへ……ありがと」

「さあさ、お茶が入りましたわ。今日はなんのお菓子になさいますか?」

ぐたっとした長椅子から軽々かかえ起こされ、お菓子の山のもとに連れて行かれる。


「えっとねええ……今日はぁ……」


迷う。


「マカロンはいかがでしょう? 12色もありますからお好きなのを1つ2つ」

「いぃぃぃねーー」

「チョコレートの箱もお持ちしましょうね」

「うん! いろいろの形のやつね。たのしみぃ」

「カラフルなボンボンもありますわ」

「デコレーションのプチケーキも」

「動物の形のクッキーは――」

「宝石のムースケーキが――」

「焼き菓子のセットも――」


「わぁぁぁ。まようぅぅ」

次から次っ!

たたみかけてくるぅぅ!


「うぅぅぅ、どうしよぉぉぉ」

お菓子がモリモリに飾られたテーブルのまわりをぐるぐるぐるぐる。

「ふふふ、サファさま、お顔がすごいことになっていますわよ」

「ふふっ、眉間のシワが」

「だってぇ」

「そうですわよねえ、決められませんわよね」

「全部、すこーしずつお持ちしましょうか」

「うん、それ! それでお願い!」

「承知しました。すぐ準備いたしますね」

「はーい!」


***


「お願いがあります!」

「はい。なんでございましょう?」

「きれいなカードがほしいの」


絶品お菓子にすっかり満足したぼくは、もう一つやることを思い出した。


「はい。どんなカードでしょう?」

「おかしをつくってくれた人たちに、お礼を書くの」

「まぁ……メッセージカードですわね。素敵ですわ!」

「そう、それ!」


こんなすごいお菓子を作ってくれた職人さんには、ぜひともお礼を言わなくては。

めちゃかわいくてめちゃおいしいよ、って伝えたら、これからもおいしいお菓子をたくさん作ってくれるかもしれないし。そしたら、またぼくも、食べられる機会があるかもしれないし!


「承知しました。すぐにご用意しますわね」

「うん、よろしくねぇ」



「ええと、まずはぁ――」

ぼくは、準備してもらったカードを前に、意気揚々とノートを開いた。


「まずはぁ、王宮のしょくにんさんたち!」

お菓子のお礼と、感想。また食べられたら嬉しいなぁって、一言加えておくのも忘れない。ぼくが、このお菓子を好きだよ、ってアピールしておこう、うん。


「こっちはぁ、まちのしょくにんさんたち!」

わからなくならないように、別のカードに書く。


ひとつひとつの感想と、だいすきポイントを書いておく。ここでこのノートが役に立つってこと。全部食べちゃう前にイラストも描いておきたいなぁ。


***


「で~きたっ!」

ふーっとのびをしてから、もう一度、机に向き直る。メッセージカードを順番に並べて――

「いち、にぃ、さん、よん、ご……」

よし、数はおっけー。

「ねえ、ぼく、ノートから名前を読むから、カードがちゃんとあるか見ててくれる?」

「はい、承知しましたわ」

手伝ってもらって、ノートの記録とカードの照合。たくさんあるから、ダブルチェック。これで万が一ひとりだけ忘れてたとかなったら、たいへん。念入りな確認が大事ね。


「――はい、これで最後」

「はい。全部ございましたわ」

「よかったー。ありがと」

よし、あとは届けるだけ。


「まちのしょくにんさんに、これ届けられるぅ?」

「はい。配達人にわたるよう手配いたしますわ」

「よかったぁ。じゃあお願い」

「承知しましたわ。では。確かに5通、お預かりします」

「うん! それからこっちは……」

王宮の職人さんたちの分は、できれば――


「ねえ、こっちは届けに行けるかなぁ?」

「はい。お預かりして、お届けしますわ」

「あ、うん。ありがと。でも……」

どうしよう。お願いしちゃったほうがいいかな。迷惑になるといけないし。


「どうかなさいましたか?」

「……うん、あのね」

一応、聞くだけ聞いてみようか。


「あの、できればなんだけど、ちょくせつとどけに行けたらなぁって思って……」

「まぁ……」

「あら、まぁ……」

「まぁまぁ……」


え、なになに?

侍女さんたち、3人そろって言葉のままの「まぁ」の顔で目配せしはじめちゃったんだけど。

あっ、ぼくもしかして調子にのっちゃった? ワガママはダメ、絶対しない、ってかたーく決心してたのに……もしかして、これ、ダメなやつだった?


「あの、あの、もしダメなら――」


「「「すばらしいですわっ!」」」

急な唱和。さすが、息ぴったり。


「え、大丈夫、そう……?」

「もっちろんですわ! サファさま、なんて思いやり深いのでしょう!」


おお、勢いがすごい。にしても、ワガママにならないなら、安心安心。


「本当に……最近のサファさまはどうなさったのでしょう?」

「えっ」

「あの悪夢を見られたという日から、急に信じられないほど思いやり深く思慮深くなられて……」


あっ……


「まるで、お人が変わったようですわ」

「ええ」


ぎくぅっ!

まさかこれ、バ、バレたりとか……?


(……あれ?)

これって、バレたらまずいのか? なんか前と別人だよな~ってなったら。もしかしたら、なんか企んでる!とか疑われる?


(とはいえぼく、一応5才だしな)

悪巧みで別人演じる5才は……まぁ、いなくもないか。

前世の幼稚園とかでも、先生のいないとこで意地悪して、先生の前でいい子ぶる嫌なやつとかいたしな。

……ってことは、まずい、かも?

(ど……どどど、どうしようっ!? なんて言い訳したら疑われずにすむ?)


「あ、あのぅ……」

そろーっと3人を見る。


「ずっとお寂しかったんですよね。当然ですわ」

「う、うん……」

「でも、ようやく少しずつお心をひらいてくださって」

「う、ん……」

少しずつやればよかったのか。うっかり、記憶戻った同時に別人になっちゃったからな……。

あ、でも、侍女さんたちの記憶の中では、少しずつ心を開いたことになってるのか。じゃ、いっか。


「本当に嬉しいです。サファさまのおそばでお仕えできて」

「えぇ、そんな……」

やだもう、みんなおおげさなんだからぁ。


「あら、もじもじされて」

「まぁ、お可愛らしい」

「も、もぉー」

「ふふふ」


ちょっとすねたふりなどしつつ。なんか侍女さんたちの中では、うまいことストーリーができてるみたいなので、別人になった件はひとまずおっけーと。


(ふぅ、今度は気をつけよう)

何に気をつけてばいいのかっていうと、いまいちわかんないけど。まぁ、なんかいろいろと? うん、とにかくがんばろー。

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