第13話 お月さまー! こっちむいてー!
「だからね、ミーミ。きみのたいせつなことを思い出したいときは、空を見あげてお願いしてごらん」
「お昼でも、ぼくが空に見えなくても、ずっとそこにいるよ。きみがおもいだしたいときは、いつでもこのポケットからだしてあげるからね」
***
「わぁぁぁ……」
絵本のさいごのページを、ぼくの目は、勝手にいったりきたり。お月さまの言葉を、ゆっくりかみしめるように、なんどもなんども。
「たいせつなこと、お月さまがだいじに持っててくれる……!」
すごい。
ぼくはそーっとベッドを出て、おおきなガラス窓へ近づいた。
「――あ、いた!」
お月さまは、夜空でまんまるに浮かんで、こっちを見ている。
「話しかけてくれないかな」
じーっと見ていても、絵本の中のようにはニッコリしてくれない。
「ポケット、見えないなぁ」
うんと背伸びをして目を凝らしても、お月さまのポケットは見つからない。
「――サファさま、どうかなさいましたか?」
「……!」
そのとき部屋の向こうから、侍女さんの呼ぶ声がした。
「あ、あのね!」
ぼくは走っていって、侍女さんの手を取った。
「お月さまのポケットが見えないかなっておもって、さがしてたの!」
「おつきさまの……?」
不思議そうに首をかしげた侍女さんは、
ふと、ぼくのベッドに置いたままの絵本に目をやり、ああ、とうなずいた。
「今日お選びになった絵本ですね」
「そう!」
「お月さまはね、おなかにポケットがあって、なかにみんなの“楽しい”とか“うれしい”をみーんなお星さまにして、しまってるんだって!」
「まぁ、そうなんですね!」
「それでね、夜にはお空に浮かべて、お昼はポケットにしまってるの!」
「あら、素敵ですこと!」
「だから、お月さまにお願いしたら、いつでも“楽しい”とか“うれしい”を思い出せるんだよ!」
「まぁまぁ!」
「すごいでしょ?」
「ええ、本当に」
驚いたり目を輝かせたりしながら熱心に話を聞いてくれる侍女さんにすっかり気を良くしている間に、ぼくはいつの間にかまたベッドの中。
侍女さんいつの間に運んだ? それともぼくがとんできた?
「では、それで窓からお月さまを見てらしたんですね?」
「そうなの。でも、ポケット見えなかった……」
慣れた手つきでなんなくぼくをベッドにしまい込んだ侍女さんは、ふかふかのおふとんを掛けながら、うんうん、とぼくの話に耳をかたむけてくれる。
「お月さま、今日はあちらを向いているのかもしれませんわ」
「……!」
「それとも、ポケットのことは内緒なのかもしれませんね」
「そっかぁ……」
侍女さんはうさたんをぼくの横に寝かせて、子守唄みたいな声で言う。
「でも、ぐっすりお休みになれば、きっとお月さまがもっててくださる嬉しい思い出の夢が見られますわよ」
「……そっかぁ、そうだね!」
「ええ。だからもうお休みなさいませ」
「うん。おやすみ」
おやすみ……アンか、ドゥか、ロワ……。
ほんとに、お月さまが持っててくれる夢、見れるかなぁ。見れるとい――
――ん? あれれれ?
ぼく……絵本に引っ張られすぎじゃない!?
この感じだと、シンプルにただの5才だけど!?
どんどん5才に寄ってくの、やめよー?
15才の前世のぼくの自我、がんばって! どっかいかないで!
今から、華麗に冤罪回避して、平和に生き延びないといけないんだからー!
特に賢くないノーマルタイプ頭脳の15才でも、5才よりだいぶ……
だいぶま……んん……むにゃ……
まし……なんだか、ら……すぅーー
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