第5話:準備万端
情報屋の白雪姫から情報を買ったフリッツとあいりは、ダンジョン踏破の準備のため冒険者ギルドへと戻る。
フリッツはギルドマスターの男へ、五人組のパーティーを組む必要性を説き、パーティー編成の許可を求めた。
「……やむを得ん」
ギルドマスターの許可が出た。
マスターはフリッツ以下四人のメンバーを指名した。
まず医師のギルドから派遣された
その次がドワーフのアドルフ。
それから同じ冒険者のリチャード。
そして登録販売者のあいり!
「いや、なんで!?」
指名されたあいりが叫ぶ。
回復役がいるならあいりの出番はないだろう。というか、医師でも薬剤師でもない登録販売者の自分が出来ることといえば、市販薬の鑑定と販売しかない。
「なんでって、薬師のギルドからの依頼だから、そこから一名はパーティーに入れなければならんだろう」
「だったらせめて薬師を入れるべきでは?」
「今回の依頼の発端はお前の意見からだ。なら本人をパーティーに入れて何が悪い?」
「いや、なんのお役にもたてないと思いますが……」
あいりは、パーティーの皆の顔を見た。
優れた治癒魔法の使い手であり医師でもあるアウラは、プラチナブロンドが魅力的な女性だ。柔和な雰囲気を纏っている。
小柄なアドルフは、何種類もの魔法を使える手先が器用なドワーフだ。あいりは、この世界に人間以外の人種がいることに軽く驚く。
リチャードは、フリッツと同じ冒険者ギルドに属する優秀な冒険者であった。攻撃の要になりそうだ。
そして登録販売者の自分! スキルは市販薬の鑑定のみ! 以上!
「なんでよぉ……」
一旦薬師のギルドに戻ったあいりは、涙目で状況を薬局長に説明する。薬局長は苦笑しながら「それも経験のうちだ」とあいりを宥めた。
「ギルドからも薬を提供するから、頑張れよ」
ギルド長はそう言いながら、第三類のポーションと第二類の痛み止めのロキソニンと包帯、絆創膏、ガーゼをくれた。ロキソニンてドワーフにも効くのかしら?
バッグにそれらを一通り詰めて、あいりは冒険者ギルドへと戻る。
フリッツを含めた四人は、すでに準備が出来ていた。既に何度もダンジョン探索の依頼を受けていた彼らは準備も慣れていて、マントを纏い、武器も持っていた。
「マレビト。その格好じゃあ探索にいけない。着替えてこい」
言われてあいりは自分の格好を見る。
ここに飛ばされた時に着ていたTシャツとジーパンから、薬屋で用意されたワンピースに着替えていたが、この格好では動きにくいのだろう。靴もパンプスだし。
ギルドマスターから女冒険者の洋服と鎧を貰ってトイレで着替えたあいりは、自身の格好に軽く感動を覚えた。おお、ゲームに出てくる女騎士みたい! 所持品は市販薬のみだけど。
「それでは、この五人でダンジョンへと向かいます」
リーダーであるフリッツがそう言い、五人パーティーは情報のあったダンジョンへと向かう。
そこは森の奥にあった。深い木々をくぐり抜け、ダンジョンが展開している洞窟に着いたとき、他の冒険者パーティーが何人も出入りしていて、辺りには露天まで立っていた。ちょっとした祭りのようだ。
(ダンジョンには人の出入りが盛んだから、商売を始めるのも不思議じゃ無いけどさ)
あいりは露天の串焼きを見て美味しそうだなと呑気な思いを抱いていたが、それはフリッツの言葉によって遮られる。
「よし、ダンジョンに入る前に装備の確認をする。各自、己の持ち物を出してくれ」
そう言われて四人は、マントの内側から所持品を出した。
回復役のアウラは医師と兼任して聖職者でもあるようで、祈祷書やポーション、簡易医療パックを出した。武器は魔法のステッキのみだ。
ドワーフのアドルフは、いくつもの武器を出した。短刀にメイス、斧に盾などバリエーション豊かだ。手先の器用なドワーフらしい。
リチャードは立派な大剣と取り出した。大きい。こんなに大きい武器を扱えるのだから、彼は怪力の持ち主なのだろう。
「あとはマレビト。お前だ」
「私はこれ」
「なんだこれは?」
「痛み止めのロキソニンと、包帯と絆創膏、体力回復のポーション……」
「アウラのと被っているな」
「仕方ないでしょ。私は登録販売者なんだから」
「魔法も使えず武器を一切持っていないとすぐに死んでしまうぞ。せめて短刀は持っていろ」
そう言うとフリッツは、腰から己の短刀を外してあいりに渡した。
ぶっきらぼうだが、これが彼なりの優しさなのかもしれない。
「よし、とりあえず装備は揃った。これからダンジョンに潜る。今日は第十層まで潜るぞ」
登録販売者を含めた五人のパーティーは、こうしてダンジョンへと向かっていった。
……大丈夫だよね? 私死なないよね?
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