その少女、最強につき――病弱少女は異世界で剣豪を目指す!チートな身体で無双したら、なぜか欠陥王女様を救い、懐かれました
Nazy
異邦の剣豪と欠陥王女
第1話 病弱少女、異世界に転生す。
「でやぁああああああ!」
雄叫びが、異世界の森に響き渡る。
私の手にした刃が、咆哮する魔物を一刀両断に斬り裂いた。
つい先程、異世界転生したばかりだというのに、自分自身、驚くほど冷静だと思う。
ここが異世界であることは、本能的に理解できた。
日本で、静かに息を引き取ったはずの私が、いまこの世界で、第二の人生を歩み始めたのだと。
かつての世界では、私は“虚弱体質”という曖昧な病名に縛られていた。
明確な病を患っているわけでもない。ただ、生まれつき体が弱く――弱すすぎたのだ。
外にも出られず、走ることも、跳ねることも許されず、人生のほとんどをベッドの上で過ごした。
病ではないゆえに治ることもない、と言われた――それは私にとって、軽い絶望そのものだった。
そして、十と半ばを過ぎたころ、私の最初の人生は幕を閉じた。
もし次があるのなら、ただひたすらに願った。
――この足で、全力で駆けられる体がほしい。
――この手で、剣を振るえる力がほしい。
――病室の窓から眺める空のように、どこまでも自由に、この体で世界を駆け巡りたい。
いまになって思えば、もっと莫大な富や、魔法の才能、はたまた異性との華やかな出会いを願っておけばよかった……などと一瞬よぎる。
だが――それは考えても仕方ない。
私はいま、望み通りの――いや、想像を絶するほどの、完璧な五体満足、いやいや、それすらも超える「脅威の身体」を得てしまったらしい。
ザンッ!
群れをなす魔物――見るからに醜悪な、おそらくゴブリンとかそういう類だろう――を、ドミノ倒しのように切り伏せる。
ぎーぎー、びーびーと甲高く、そして鈍い悲鳴を上げながら、ゴブリンたちが地に伏す。
視線の端。少し離れた場所で、へたり込む一人の少女がいた。
彼女の周囲には、すでに倒された護衛らしき者たちの姿があった。おそらく護衛が壊滅し、彼女一人になってしまったのだろう。
――おそらくその悲劇の際の耳をつんざくような悲鳴が、私をこの場所へ導いたのだ。
ぎーーーっ!!
味方が減っていくことに危機感を覚えたのか、ひときわ高い声を立てながら、残りのゴブリンどもが一斉に襲いかかってきた。
が、私は手にした一本の剣で、彼奴等の突進をまるで無かったかのように受け流し、薙ぎ払い、斬り伏せ、そして寸分違わず両断する。
(思い通りに、いや、それ以上に動く――!! 身体の全てが、剣と一体だ!)
刃が肉を断ち、骨を砕く感触。
返り血を浴びながら、薄く笑みが浮かぶ。
その姿は、周囲の者から見れば狂気的で、気味が悪いかもしれない。
だが、自由自在どころか、まるで身体の奥底から無限の力が湧き上がってくるかのように、ありえないほど機敏に動く自分の体。
その感覚にゾクゾクと心が震え立つのを抑えられない。
風を切り裂く音、地面を蹴る足裏の反発、そして全身の筋肉が躍動する、その全てが、私にとって極上の快感だった。
――ああ、ここなら……この体となら、かつての夢を叶えられるかもしれない。
病弱な少女が病床で夢見ていたのは、絵本に出てくるような王子様との出会いでも、煌びやかな王宮での日々でもなかった。
ただひたすらに、剣豪、だった。
病床で、なぜか父が持ってきてくれたのは剣豪小説だった。その小説にドハマリした。
来る日も来る日も、食い入るように読みふけった。新作をねだり、古本を求め、定番を貪った。
そこに描かれる剣客の生き様、武将たちの戦術論、武芸者の知恵……そのすべてが楽しかった。
そして、いつしか「剣客として最強を目指す」ことが、私にとって何よりも尊い夢となっていたのだ。
「病弱な子が、馬鹿なことを」――そう思うだろう。
しかし、一歩も歩けない、外の世界すら知らぬ日々で、せめて夢まで縛りつけることだけはご容赦願いたい。
この世界に転生した時、私の脳裏には、ある種の「走馬灯」のように、しかし明確に、自分が日々思い描いていた剣豪としての修練の日々が、全て経験として刻まれていた。
数百、数千回と、夢の中で刀を振り続けた剣の理合、体得したはずの技の数々。そのすべてが、いまの自分の身に、まるで元からあったかのように刻み込まれている。
(魔物が跋扈する世界というのは夢の中を含めても初めてだけど……)
いや。そのほうが面白い。
なにもかもが思い通りの、無難な世界など、退屈で仕方がない。
前世も前世で、私は私なりに幸せだった。
悔やむことはない。ただ、今の人生を、この剣と共に、全力で全うしよう。
ザンッ!!!
十数匹の魔物の群れを、たった一本の剣によって、瞬く間に両断し尽くした。
ふぅ、と私は息をつき、成り行きとはいえ、自身が救った少女へと向き直った。
少女は、まだゴブリンの残骸から目を離せず、恐怖に震えていた。
こちらが近づくとゆっくりと顔を上げる。そして、彼女の視線が、返り血を浴びた自分の顔とその手にある刃に注がれた瞬間、その瞳に驚愕と、そして、まるで希望の光を見たかのような輝きが宿ったように見えた。
言葉にならない感動とでもいうのだろうか。そんな感情がその表情に現れている。
「あなたは……?」
震える声でそう問われ、私は静かに、しかし力強く、自らがこの世界で目指す道を告げる。
「ユイ・ムサシ。――【剣豪】を目指す者だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます