第43話 これはもぉほんと、とっても困るよぉ

神聖歴579年 秋の終わり月 23日



「今年も一年、お疲れ様でした」


「おつかれさまでしたー」


「お疲れさま。去年もやったけど、これなに?」


「仕事納めだよ」


「しごとおさめ? ふーん」



 今年の薬草摘みが終わった。いや、少し語弊があるな。冒険者ギルドで受けられる薬草摘みの依頼が終わった、と言うべきか。個人で森に入って薬草を探すという事は行っても良いんだが、この薬草摘みという依頼がない期間は摘んできた薬草をギルドが買い取ってくれないのだ。


 なぜこうなってるかというと冬の間も採取できる薬草自体が非常に少ないのと、その少ない薬草の奪い合いが過去に起き、その時に結構な数の死傷者が出たかららしい。そもそも冬の森は危険なのだ。薬草摘み主体の冒険者が入っていい場所ではない。


 まぁ、人が少なくなるからこそ、森によからぬものが入り込んだりもするんだけどね。狩人たちはむしろこの時期からが忙しくなるらしいから、狩人と年中忙しい薬師の娘であるネネには仕事納めって感覚はないかもしれない。



「そういえばーことしもタロゥはきこりするのー?」


「木こりじゃなくて伐採な。神父様に聞かないといけないけど、今年はやらないんじゃないか? 俺、道場あるし」


「木こり祭り、楽しみにしてるのに。冬場は薬作るしかやることないもの」


「作るだけ金になって笑いが止まらないんだろ?」


「ん。でもお金は儲かっても冬場の娯楽は儲けた以上にお金が必要。劇場に通うとあっという間にお金ないなっちゃう。でもラドクリフ様の王子様スタイルを見たい!」


「ラドクリフさまってなにー?」


「サニム公立劇場の看板役者。踊り手のカーマ様と並ぶ公立劇場の双璧。超、超、カッコいいんだから」



 劇場。ネネからその名前が飛び出して、レイラさんから「いつでもうちの劇場見に来なよ! タロゥなら大歓迎だよ!」って言われていたのを思い出した。お願いすれば妹の分のタダ券でももらえないかな。やっぱり妹の教育の為にも教養というか、芸術方面の知見は持たせるべきだと思うんだよな。


 そういえばこの世界の物語ものってどんなものがあるんだろうか。両親が語ってくれた物語はそれほどなくて、唯一覚えてるものは何十年も前に世を騒がせた魔王を討伐した『百人の勇者』くらいだ。


 その『百人の勇者』も語ってくれたのが素人の両親だから結構曖昧な部分があって、百人のスゲー強い戦士が魔王って呼ばれる超強い魔物を囲んでボコボコにしたって事しか分からなかった。いや、もっとこう。物語っていうんだからあるだろ、語る事が。



「ネネは劇場でどんな話をするか知ってるのか?」


「お。聞く? うちにそれ聞いちゃう?」


「あ、やっぱいいや」



 半ば興味本位でそう尋ねると、ネネは被った帽子のふちをかりかりと弄りながらニマニマと笑って俺を見てくる。瞬間的にこれはめんどくさい奴だと理解し、俺は質問を取りやめた。取りやめたって言ってるだろうが勝手に話すな。





 この世界にはこの世界の物語があるんだなぁ。勝手に語り始めたネネの話を聞いて幾つかの物語を知ったが、それらを聞いた感想は前世の昔話を耳にした時に似た感覚だ。ネネは劇場に通っているというだけあって博識で、彼女が語る物語は語り口こそ素人のため拙いものだったが話の全体像を理解するには十分なものだった。


 そして、それらを踏まえた上で理解した事がある。この世界、というかこの街近辺か。


 伝わってる物語の数、全然ないわ。



「知識人よりのネネですら両手の数くらいしか知らないんだから、そもそもの数が少ないって事だろうな」


「心外。うちは同年代でも1,2番くらいには劇場に通ってる」


「うん。そのネネでもそのくらいだから少ないなって。民間伝承とかの小さな話とかも全然ないみたいだし」



 これは多分、物語がないんじゃなくて伝承されなかった物語が多いって事なんだろうな。ネネに話を聴く感じだと、物語は吟遊詩人や劇場で見たり耳にするものって認識らしいからインパクトの強い話以外は廃れてしまったんじゃないかな。


 実際にネネが語った『百人の勇者』とかは非常にインパクトの強い、記憶に残るような話だった。人に語って聞かせるならそういう話ばっかりになるのは、まぁしょうがないだろう。良いんだけどな、民間伝承。教訓とか色々ためになる事も伝えられたりしてるから。



「タローはシスティにーいろんなはなしきかせてるもんねー。おれ、ももからうまれたタローのはなしすきー」


「モモタロな。そこと同一視されるのは恐れ多すぎる」


「え。なにそれなにそれ聞きたい」



 元日本人として流石にそれはちょっと、なザンムの言葉を否定していると猫耳をピンと立てたネネが興味深そうに尋ねてくる。お、聞きたい? 聞きたいのか? そうかそうか、ではこの紙芝居の太郎ちゃんと呼ばれた俺の語りを存分に聞かせてやろうじゃないか。


 ごほん、ごほん。えー、むか~しむかしあるところに巨大な桃が…………



「……そして悪い鬼どもをしたたかにぶちのめしたモモタロさんは手下の畜生どもを引き連れ、鬼から略奪した金銀財宝を道行く町々でバラまきながら故郷へ凱旋したのでした。めでたしめでたし」


「わっはっはっはっーあいかわらずおもしれー」


「男らしすぎる。うち、うちモモタロさんのファンになっちゃいそう」


「ああ。男に生まれたらかくあるべしだなぁ」


「俺ぁ旅に出る時の口上が気に入ったぜ! 『天が俺を呼んでいる』! くぅ~、シビれるぅ!」



 俺が語り終えると、ザンムやネネだけではなく話を聞いていた冒険者たちからもやんややんやの大喝采が沸き起こった。語っている最中は集中しているため気付かなかったが、結構な人数が俺のモモタロさんを聞いていたみたいだ。



「なぁ、お前さん。確かタロゥだったよな、レンツェル神父様んとこの。今の話を最初からもう一回やっちゃくれねぇか?」


「頼むよ! 金なら払うからよ。俺ぁじい様が山でシヴァを狩ってる所から聴いたからその前が知りてぇんだ」


「あ、それなら俺も払うからよ! 婆さんが川の上を歩いて流れる巨大な桃を抱きとめる前はどんな話なんだ?」



 そしてまさかのアンコール要請。ヤバいな、途中から興が乗ってどんどん適当な話を混ぜてたからどういう話か自分でも覚えてないぞ。



「ちょっとタロゥくん。困るよぉ、これは。これはもぉほんと、とっても困るよぉ」


「あ、すみませ――」



 思わぬ事態にほとほと困り果てていると、ポンっと肩を叩かれて声を掛けられる。困るという事はギルド職員かな。確かに、受付前が冒険者でごった返してしまっているから随分と邪魔だろうなぁ。そう反射的に考えて、謝罪しながら振り返る。


 そこには芸能ギルドの長、レイラ・カルホトラ氏が、満面の笑みを浮かべて立っていた。



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タロゥ(6歳・普人種男) 


生力25 (25.0)

信力86 (86.9)UP

知力24 (24.0)

腕力28 (28.0)UP

速さ25 (25.0)

器用24  (24.0)

魅力24 (24.0)

幸運15  (15.0)

体力27 (27.0)UP


技能

市民 レベル3 (85/100)UP

商人 レベル3 (19/100)UP

狩人 レベル3 (58/100)UP

調理師 レベル3 (100/100)ー

地図士 レベル2 (27/100)UP

薬師  レベル1 (67/100)UP

我流剣士 レベル2 (43/100)UP

木こり レベル2 (1/100)UP

楽士 レベル1 (77/100)UP

教師 レベル1 (16/100)UP

パチン・コ流戦闘術 レベル2 (9/100)UP



スキル

夢想具現 レベル2 (18/100)UP

直感 レベル2  (23/100)UP

格闘術 レベル0  (92/100)UP

剣術 レベル2  (89/100)UP

弓術 レベル1  (59/100)UP

小剣術 レベル1 (59/100)UP

暗器術 レベル1 (59/100)UP

フォークダンス レベル5(25/100)UP

フォークマスター  レベル0 (25/100)UP

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