第39話 生きれるようになる。自分の力で

 神聖歴579年 秋の中月 19日



「ふんふーん♪」


「ふんふーん♪」


「ご機嫌だな……二人とも」



 おニューの帽子と鎖兜を身に着けたネネとザンムは、終始ご機嫌な様子で薬草を摘んでいる。よっぽど嬉しかったんだろうな。こういう一品物は値段が高いからそうそう買えるものでもないし。



「母様がね! 似合ってるって言ってくれたの、綺麗な黒い猫耳とバランスが取れてる、お洒落だって!」


「こじいんのみんながーうらやましがってーおれもうれしくなったんだー」


「そうかそうか」



 話を向けるとすぐさま食いついてきて家族から褒められただの街行く人の視線が違うだのといった事を語り始める二人に、思わず苦笑を浮かべながら話を聞く。ここまで喜んでもらえたならプレゼントした甲斐があったというものだ。


 プレゼントといえば、あの後女将さんから勧められた店でリボンを買っていったら、妹から非常に喜ばれたな。女性へのプレゼントはお高いバッグだと思っていたからカッチン工房でバッグを買おうと思ってたんだが、初めてのプレゼントならもっと細かくてすぐに使えるものが良いと言われたんだ。ネネもそれが良いと言ってたから信じたんだが、大正解だったらしい。



『兄ちゃ、だいすき!』


「ああ。俺も大好きだよシスティ……!」


「……急にどしたの、こいつ」


「タロゥはたまにこーなるよーこじいんでも」



 妹の笑顔を思い浮かべると、体中の疲れが一気に抜けていくのを感じる。この癒し効果はたぶんその内、難病にも効果を発揮するはずだ。ラーメンで体の栄養を取り、妹の笑顔で心の栄養を得る。毎日辛い労働を生き抜くためにはこの二つはかかせないだろう。



「そういえばータロゥは10になったらかじやになるのー?」


「いんや、断ったよ」



 ふと思い出したというように尋ねてくるザンムに、そう応える。カッチン工房の人たちは良い人たちだ。夢想具現スキルが出てこなければあそこの人間になるのもやぶさかじゃなかったと思う。もしも両親が生きていたら……大きくなった時に俺はあそこの人間になったかもしれない。


 けれど、今はそうじゃない。それにカッチンさんからは罪悪感のようなものが見えた。2年間放っておいた。そんな意識が会話の節々で見え隠れしたのだ。孤児を預ける際に、孤児が騙されやすいからと両親の関係者は接触を控えるように言われるらしいから、これをカッチンさんは律儀に守ってたわけだ。


 両親の事を思い出すからとか、物心つかない子供が騙されないようにだとか色々理由はあるらしいのだが、多分これ中抜きをしてた役人たちが理由をつけてつくった現場ルール的なものだと思う。俺が孤児院周りを調べた時、こんな規則なんて存在しなかったからな。孤児院への町からの寄付なんかも全て役人たちの所で止まって懐に入ってたらしいから、彼らにとってはこれらの寄付関連は良い小遣い稼ぎだったのだろう。


 その小遣い稼ぎで死にかけた身としては、色々思う所もある。別にカッチンさんが悪いわけではないんだけど、こう。死にかけた身としては色々思う所もある。故に改めてこう強く決意した。



「生きる。生きれるようになる。自分の力で」



 一連の騒動をなんとなく理解してきたからこそ、そう強く思う。独り立ちできる力があれば孤児院に入る事もなく、妹を困窮させることもなく、なんなら両親が死ぬこと自体無かったかもしれない。ようは俺が幼く弱かったから、これらの出来事に抗う力が無かったから俺は死にかけたのだ。その死にかけた経験が原因で前世と、恐らく夢想具現という能力に目覚めたのは……まぁ、良かったことではあるんだけどな。これがなかったらあそこで多分俺は死んでたろうし。


 




「うぐぎぎぎぎぎぎ」


「……あれ。タロゥ、なにかあった?」



 今日も今日とて道場で型稽古とは名ばかりの重量挙げポージングをしていると、コーケンさんが不意にそう声をかけてきた。なにかってなんだよと思うが、応えると力が抜けてしまうため返事が出来ない。


 訝しむように首をかしげながら俺をじろじろみるコーケンさんは、鍛錬が終わった後も終始怪訝そうに俺を見てきて「もしなにかあるなら1日2日くらいは休んで良いからな」と心配そうに言ってきた。この数か月ひたすら俺が苦しむ姿をにこにこ笑って見てた人とは思えない言葉に、逆に怖くなった。


 俺もしかして死病でも患ったのか? それをコーケンさんが達人の眼力で見抜いたとか?



「ししし神父様! 俺、もしかして死にますか!? こう、達人アイで見たら!?」


「達人アイとは? 体調が悪いんですか、タロゥ」



 慌てて孤児院に戻ってレンツェル神父に相談すると、レンツェル神父はよく意味が分からないという風に小首をかしげた後、真剣な表情で手のひらにぽぅんと光の球を浮かべて、その光の球を俺の周りでぐるぐると回らせ始める。おお、リアル魔法だ。


 前にロゼッタが連れてきた水魔法使いが伐採した樹木の水抜きをやってくれてたが、あれ絵面がめちゃめちゃ地味だったからなぁ。あ、俺の夢想具現も一応魔法になるんか。


 そう思ってぼーっとレンツェル神父の光の球を眺めていると、レンツェル神父は真剣な表情から一転。にこにこと笑顔を浮かべた。



「うん、体に異常はないよ。病気とかそういうものは一切ない健康体だね」


「ああ……良かった。いやぁ、パチン・コ流のコーケンさんがなにかあったのか聞いてきたからてっきり」


「ああ。多分、昨日よりタロゥが成長したから、それが急激すぎて違和感があったのかもね」



 あとでステータスを見てみると良いよ! そう朗らかに笑ってレンツェル神父は箒を持って孤児院から出ていった。一日三度孤児院前を掃き掃除をするのがレンツェル神父のルーティンなのだ。


 しかし、ステータスか。いきなり成長と言われても、俺には実感はなんもないんだけどなぁ。そう思って周囲に誰もいないことを確認し、ステータスを右手に表示させる。


 夢想具現のレベルが上がっていた。



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すくすくさん、@atomoki0426さん、@TOTOcalさんコメントありがとうございます。


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タロゥ(6歳・普人種男) 


生力24 (24.0)

信力80 (80.0)

知力23 (23.0)

腕力26 (26.0)

速さ24 (24.0)

器用23  (23.0)

魅力23 (23.0)

幸運13  (13.0)

体力24 (24.0)


技能

市民 レベル3 (62/100)

商人 レベル2 (97/100)

狩人 レベル3 (46/100)

調理師 レベル3 (89/100)

地図士 レベル2 (15/100)

薬師  レベル1 (49/100)

我流剣士 レベル2 (6/100)

木こり レベル1 (96/100)

楽士 レベル1 (61/100)

教師 レベル1 (3/100)

パチン・コ流戦闘術 レベル1 (71/100)UP

鍛冶師 LOST


スキル

夢想具現 レベル2 (0/100)UP

直感 レベル2  (9/100)UP

格闘術 レベル0  (57/100)UP

剣術 レベル2  (54/100)UP

弓術 レベル1  (11/100)UP

小剣術 レベル1 (11/100)UP

暗器術 レベル1 (11/100)UP

フォークダンス レベル5(20/100)

フォークマスター  レベル0 (20/100)

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