第6話 テ〇ソダー!(火おこし)
神聖歴578年 春の始め月 30日
毎日森を歩いていたら流石に慣れてくるもので、最近はザンムが籠を一杯にするまでに8割を超えるくらいには薪を拾えるようになってきた。
「タローはあるくのうまくなったねー」
「そう?」
「うんー。オレは―いちねんくらいかかったー」
ザンムはのんびりとした口調でそう言って、罠にかかっていたアホ鳥を生で齧り始める。前世の価値観だとかなり血生臭い場面のはずだが、流石に5年も異世界生活を送っていると「よく生で食えるなー」という感想しか出てこない。ザンムのような熊人は普人種よりも腹が頑丈らしく、こういった生食も問題ないらしい。
アホ鳥というのはこの近隣で一番多くいる鳥で、正式な名称はなんとかバードとかそういうのだったはずだ。じゃあアホ鳥なんて名前はどっからきたのかというと、俺たちが作る罠に毎回仲間がかかってるのに懲りずにかかってくるもんだから、俺とザンムが勝手にそう呼んでいるだけである。
このアホ鳥どもは鳥頭の極致みたいな知能をしているが、そこそこに肉がついていて焼いて食べると美味い。近くに生えていた樹から採取したねばねばを使った疑似鳥もち罠を開発してからは、昼飯は大体こいつを串にさして火で焙ったものを食べている。
火。そう、火だ。ここ最近の一番大きな進歩は、火が扱えるようになった事だろう。
「タロー。かれはあつめたー」
「うん。じゃあ、やるよ」
火おこしのためにザンムが集めた葉っぱの前で腰をかがめ、籠の中から一本の筒を取り出した。それを枯れ葉に向け、俺は一言言葉を紡ぐ。
「テ〇ソダー!」
言葉と共に指でトリガーを引くと、カチッとした音と共に筒の先から火が出てくる。呪文は特に意味がない。
「おおー。やっぱりまほーみたいー」
「まほーじゃないよ。ちゃっかぼうずくんだよ」
「へー」
先日、ついにラーメン屋以外の夢を見た。キャンプに行きたいわと言い出しておいて設営に調理まで押し付けてきたお局様のご機嫌取りに終始走り回るというクソみてぇな内容の夢だったが、この夢には非常に。ひじょーに役に立つ物品が数々出てきたのだ。
その一つがこれ。キャンプのお供、どこでも火をつけられるバーナータイプのライター着火ぼうずくんだ。お値段は400円弱。信力4で購入出来る優れものである。火をつけるというのは結構な重労働で、火種がないとまぁ本当に時間も手間もかかるのだ。これを孤児院の炊事洗濯を担当してるエリザに渡したら泣いて喜んでくれたなぁ。
そして次に大事なのは調味料! 取り出したるはアウトドアスパイスお値段778円! 信力にして8消費とラーメン半チャーセットと同等のお値段だが、こいつが本当にいい仕事をする。さっと振りかけるだけでただのアホ鳥の素焼きが料理店の串焼きに進化するのだ。
「うめっ……うめっ……」
「どんどんかけろ。おかわりもあるぞっ!」
余りの美味しさにうめうめマシーンと化したザンムに、「墜ちたな」とほくそ笑みながら俺はそう言った。別になにか悪だくみをしてるわけじゃない。ザンムにはこの1月本当に世話になったからそのお礼と、気持ちよく今後も世話してくれる理由を作ってあげただけだ。
俺を手伝ったらうまいものにありつけるとザンムが思ってくれれば完ぺきだな。胃袋を掴むのが人と人とのコミュニケーションにおいて最強なのだ。
生力9 (9.3)
信力13-9 (13.5)
知力4 (4.2)
腕力3 (3.0)
速さ4 (4.5)
器用4 (4.6)
魅力3 (3.8)
幸運2 (2.1)
体力4 (4.0)
技能
市民 レベル1 (19/100)
商人 レベル0 (21/100)
狩人 レベル0 (57/100)
調理師 レベル0(37/100)
スキル
夢想具現 レベル1 (32/100)
妹に家系ラーメンライスセットを食べさせながら、自分のステータスを眺める。家系ラーメンはラーメン単独ではなくご飯を共に食べるためのラーメンと言っても過言ではないだろう。レンゲで掬ったスープをご飯に吸わせるもよし、ごはんを乗せてスープにひたすもよし。このスープとライスにほうれん草とノリ、卵にチャーシューと定番のトッピングと麺まで付いてくるのだからお値段信力9でも十分以上の価値があるだろう。更に追加トッピングでほうれん草をたっぷり乗せれば食物繊維まで取れてしまう、とってもヘルシーなラーメンだ。
「おいしいか?」
「おいひい!」
「そうかそうか。ラーメンはおいしいからな」
順調にラーメンの魅力を知っていく妹を眺めて、頬が緩むのを感じながら再び視線をステータスに移す。毎日薪売りをしているが、商人レベルは一向に経験値が溜まらないようだ。狩人どころか後から出てきた調理師にまで経験値を抜かれてしまっている。やはり元々向いていないと考えるべきなのだろうか。
まぁ、伸びない技能についてはまた考えるとして。現状、狩人以上の速度で伸びている調理師についてだ。恐らく捕らえたアホ鳥を焼いて食べているのが経験値になっているのだろうが、そのくらいしかやっていないのに経験値は溜まっている。これはレンツェル神父が言っていた技能の習熟方法とは大きく異なるものだ。
大体の調理師。料理人は店舗などで下積みをして少しずつ経験を積み、それこそ年単位をかけてようやく技能レベルが現れるらしい。それが鳥の素焼きばっかりしているだけで技能レベルが出てきて、この調子だと半年もせずに調理師のレベルが上がってしまう事になる。
そして調理師という分かりやすい技能を取得したおかげか、この技能レベルの効果というべきものも分かってきたかもしれない。調理師レベルを取得した後は、料理全般においての手際が明らかに上がっているからだ。
たとえば皿の盛り付けや配膳などでもそうだ。孤児院の炊事担当をしているエリザの手伝いは以前からなんどか行っていたが、調理師レベルを取得してからはテキパキとこなすことが出来るようになった。次に何をすればいいのか、自然と体が動いてくれるのだ。
よくよく考えれば商人レベルを取得した時もそうだった。初めての薪売りの時、スムーズに売買が出来たのは、もしかしたらこの商人レベルがあったからかもしれない。また狩人レベルを取得してからは森歩きも楽になっていた。これも技能レベルの恩恵なのだろう。
レベル0とはいえ、技能レベルは間違いなく俺にその恩恵を与えてくれている。それは間違いない事実だ。
そして、この技能レベルの習得の速さは、明らかに異常だという事も間違いのない事実だ。
「しんちょうにならないと」
成長が早いのは喜ばしい事ではある。しかし、異常なまでに速いとなると少し話が変わってくる。異常というのは排斥されたり悪意にさらされたりする可能性を孕んでいるからだ。特に両親という庇護者が居ない俺は、一度悪意ある誰かに目を付けられた時に身を守る事が難しい。
庇護者という点でいうとレンツェル神父は信用できる人だ。ただ、この技能は異常です! 異端! とかいって異端審問にかけられるかもと思うだけでちょっと震えてくるのも事実。実際にそんなことをする人じゃないと分かっているが、あの技能の数々を見ると信頼しきることができないんだよなぁ。
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@winter2022さん、@b0008さんコメントありがとうございます。
タロゥ(5歳・普人種男)
生力9 (9.3)
信力13 (13.5)
知力4 (4.2)
腕力3 (3.0)
速さ4 (4.5)
器用4 (4.6)
魅力3 (3.8)
幸運2 (2.1)
体力4 (4.0)
技能
市民 レベル1 (19/100)
商人 レベル0 (21/100)
狩人 レベル0 (57/100)
調理師 レベル0(37/100)
スキル
夢想具現 レベル1 (32/100)
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