第2話 秋の三品の料理
□秋の三品の料理
わたしはいとこの詩人、彗ちゃんに、秋の三品をごちそうになった。
場所は彼のマンション。
窓の外には街の灯りが遠く瞬き、
小さなキャンドルの炎が揺れるだけの静かな夜。
ポルチーニ茸とアーモンドのポタージュを口に含むと、
森の薫りがふわりと広がり、思わず息をつく。
彗ちゃんはただ、微笑みながらそばに座っている。
言葉はなくても、存在が心地よく、
静かな空気にすっかり溶け込んでいるようだった。
洋梨とクルミのサラダを出すとき、
「これ、食べてみて」
短い声がやさしく響く。
わたしは頷き、フォークを伸ばす。
深紅のバルサミコが光を受けて、ほんの少し香る。
言葉はなくても、笑い合うよりも自然に心が通う。
じゃがいものガレットが焼きあがると、
カリカリという音だけが静かに部屋に響く。
「熱いから気をつけて」
短く言う彗ちゃんに、わたしはただ「うん」と返す。
その間も、沈黙が不思議に落ち着いて、
呼吸を合わせるように時間が流れる。
キャンドルの灯りに照らされた彼の横顔は、
柔らかく、安心感に満ちている。
言葉よりも、視線や仕草、そして静寂が
ふたりの距離をやさしく縮めていった。
──夜はゆっくり更けていく。
街のざわめきも、ポタージュやサラダの香りも、
すべてが静かに溶け合い、
わたしたちは沈黙の中で、ただ存在を分かち合っていた。
それは、言葉では表せない親密さ。
笑いも冗談もなくても、心は温かく、
秋の夜はふたりだけの、濃密で穏やかな時間に満ちていた。
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