第19話 規格外
そしてタイミングのよいことに今日さっそく体育の時間がある。
急遽瑞穂先生が用意してくれていた教室を使用してひとりぼっちで着替えをすることになった。
3階の隅の普段物置になっている使われていない空き教室。
着替えが終わるとなぜかクラスメートの男子が迎えに来てくれていた。2階にある2年生の教室を使って着替えているクラスメートが本来ここにいるはずはないのだけど。
さすがに鈍いわたしでもここまで露骨に周囲をうろつかれるとなんとなく真意を察してしまう。
たかだか体操服だっていうのに男っていう生き物はまったく。……まさか覗こうとしてないよね……?いくらわたしの容姿がこんなんでもさすがにそこまで血迷わないでほしい。
気を確かに持ってくれよ、男子生徒諸君。
今日の授業内容は体育館でバレーボールらしい。
野球やバスケはアメリカでもやっていたけど、バレーボールはアメリカの授業ではやらなかったので人生初体験。
ルールも良く分かってないけど相手がサーブしてきたボールを3タッチ以内に相手コートへ打ち返さないといけないということだけは知っている。
「わたしバレーボールやるのはじめて!上手くできるかわかんないけど楽しみだなぁ」
わたしがそう言うとバレー部の田村君がはりきって基礎から教えてくれた。サーブのやり方からレシーブ、トス、アタックまで基本的なことをコーチしてくれたので後は授業の中で覚えていけるだろう。
やけに熱心で文字通り手取り足取り教えてくれた。
のはいいんだけど、その後他の男子から殴る蹴るの暴行を受けていたのは大丈夫なのかな?本人はそれでも満足げな顔をしてるから平気か。
まずは基礎的な練習を少しやった後、いくつかのチームに分かれて対抗戦をやることになった。
わたしが初心者だからという理由で田村君がわたしと同じチームに入ってくれることになったけど、また他の生徒から蹴られてる。いじめじゃないよね?
いよいよわたしたちのチームが試合をする番に。最初は勝手がわからないので他の人たちのプレーを見て学んでいたんだけど、すぐにわたしがサーブをする番が回ってきてしまった。サーブをするのも順番なんだね。
位置についてボールを上に放り投げる。
力加減を間違えて高く上げすぎてしまったので落ちてくるまで時間がかかってしまう。
待つのめんどくさいな。
そういえばサーブは体のバネを使って打ち込むと威力が出るって田村君が言っていたな。どうせなら全身のバネを使った方がいいやと、思い切ってジャンプ。
体全体を大きく反らせて、落ちてくるボールに合わせて水面を叩くエビをイメージしながら体を弾けさせ、思いっきり相手コートに向けてたたきつけた。
思ったより威力が出て、相手チームの誰も反応ができずサービスエースって言うやつで得点ゲット。やった!
わたし史上初得点!チームに貢献することもできたし、得点したことを他のチームメイトももっと喜んでくれるだろうと思っていたらなんだかみんな相手チームの人も含めてぽかんとしている。
田村君が一番驚いた顔をしていて「ジャンプサーブ……しかもあの威力……」って言いながら呆然。あれ、ちょっとやりすぎちゃったかなぁ……。
同じチームの澤北君が呆れ顔で近づいてきて「本当にバレーやったことないの?」って聞いてきたので正真正銘今日が初めてって答えた。
「マジかよ。運動神経には俺も自信あるけど初プレイであんな強烈なジャンプサーブとか無理だわ」と苦笑しているので、どうも少し張り切りすぎたみたい。
自分の運動神経が規格外なのは自覚してるからあまり目立ちすぎないようにしようと思っていたんだけど、どうもそのへんの加減が難しい。
「アハハ、わたしも運動神経には自信あるし、武道のおかげで動体視力がけっこういいからそれでうまくいったんじゃないかな」って笑って誤魔化したけど、周囲に目を向けると体育館の隣半分で授業していた3年生の女子の方々もこっちを見て大騒ぎしてた。
あ、あか姉もいたんだ。なんか無表情でこっちをジッと見てるから手を振っておいた。あれはどんな感情なんだろう。さすがのわたしもわかんない。
その後も試合は続き、運動神経についてはどうせすぐバレるだろうからと全力でバレーを楽しむことにした。
相手チームからのボールをバンバン拾って守備にも貢献、攻撃時にはジャンプ力を活かして高い位置からの強烈なアタックで拾える人はほぼいない。3試合して攻守ともに大活躍で全戦全勝へと導きMVPはわたしという結果に。
隣の3年生女子は熱烈な声援を送ってくれていたけど、先輩方、授業は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます