四章 愛する者たち

 予想外すぎるレイラの提案に、アズラエラの涙が止まる。


「姫様と……いっしょに……?」

「えぇ。アズラエラは嫌?」

「そ、そそそそそそそんな滅相もござ、ござざざ……」


 驚愕で固まった瞬間を、レイラは見逃さない。

アズラエラの両頬に手を当てて、親指で涙を拭う。


それは同時に、顔の向きを固定する。


アズラエラが何よりレイラの手のひらに温もりを感じている事、それを振り払うなどあり得ない事を熟知しているが故の束縛。


「私ね、実はずっと寂しかったの。広いベッドで独り眠るのは、いつも寂しかった。

本で読んだような、誰かと寝ることに憧れていたの。

だから今朝は、アズラエラについ甘えちゃった……」


アズラエラの目をジッと見つめて、言い聞かせるように、ゆっくりと告げる。


目を合わせるのは心を通わせるための手法であると同時に、目線の主導権を奪い取る手法でもある。


レイラから目を背けることは許されない。


己の内に目を向けることなど許されない。


レイラの瞳に釘付けになったアズラエラは、レイラと対話するしかない。


そこに、自責の念など介在することはもはや不可能。


 アズラエラの脳みそは、自分を責める機能を完全に停止した。


(アズラエラの涙が止まった。とりあえず落ち着いたみたいね。

そうなると、次にアズラエラが気にすることは……)


「マリーとポピーにも、時々甘えて良いかしら?」

「で、殿下がお望みとあれば……」

「も、もちろんなのです!」


突如自分達に振られて面食らいつつも、マリーとポピーも同意する。


アズラエラの口が僅かに開いた。


表情筋が少し緩んだのである。


つまり、無意識に安堵したのだ。


(やっぱり、マリーとポピーへの遠慮があったのね。

アズラエラ、マリー、ポピーの3人は、意識的に私との距離感を揃えている。

さあ、これでアナタたち3人が、それぞれ私と寝る当番を担うことになった。

格差無し、同衾は平等に割り当てられた。

これでも自分を責めるの?アズラエラ)


 こうまでされては、アズラエラに切腹の理由は消え失せる。


レイラと寝るのは"役割"となり、存在しない"失敗"と"不敬"はその虚無を取り戻す。


アズラエラから見ても、誰から見ても、今朝のアズラエラに謝罪するべき罪は存在しない。


土下座のために畳み込んでいた身体から力が抜けて、ぺたりと座り込むカタチとなったアズラエラの頬を優しく撫でて、立ち上がる。


「さあ、朝ごはんにしましょう。アズラエラも、それでいい?」

「は、はい……姫様……」



 アズラエラの罪悪感を拭うため、レイラはまた一層"罪"を重ねた。

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