第30話

 6月に入って、珍しく四人で学校に来ていた。


「なんでこんなにゴーストが多いんですか?」

 優樹はあきれながら校内を進む。

「十代が一番感情の振り幅が大きいからじゃないかと言われているけど…」

 葵の作った結界に触れたゴーストが、消えた。

「確か、学校、オフィス街、住宅街の順で多いのよね」

 六花が、筆で鳥と書く。

 文字は白い鳥になって、廊下を飛び、ゴーストを消して行く。

「ストレスが多いのかな?」

 静は、虫とり網で、落ちた魔石を拾う。

「そうかもしれないね」

 のんきに四人で歩いていた時、静は反対の校舎に少女が走っているのを発見した。

「あっちに女の子がいる!」

「えっ!」

 静の指差した先に、制服姿の少女が走っている。後ろには、ゴーストが3体。

 静が、弓を構えて矢を放つ。矢はゴーストに命中し、葵が少女に叫ぶ。


「こっちだ!!」


 少女はすぐに、こちらに走ってくる。少女の後ろのコ゚ーストは、貼り付けたような笑顔で、追いかける。

「葵さん、六花さん、あの子をお願いします」

「わかった」

 葵と六花は杖と筆をだし、術を展開した。壁伝いに文字と不思議な模様が走り、コ゚ーストを拘束した。

 静が走って少女を素早く抱えて結界に戻る。

 優樹は、手早くコ゚ーストを切り捨て、湧き出した他のコ゚ーストも始末する。


「もう大丈夫よ。怖かったでしょう?」

 六花が話し掛けると、少女はカバンをギュッと抱きしめ、ボロボロと涙をこぼした。

 髪はボサボサだし、制服も薄汚れている。

「それ、誰にやられたの?」

 静が聞いた。

 三人が、少女の背中を見て、目を丸くした。

 背中、足跡がある。


 少女はぽつりと、小さな声で、話す。

 クラスの女子三人にいじめられていること、少し前は物を隠されるくらいだったが、近頃は暴力をふるわれたり、髪を切られたり、怖くて逃げたら、こうなっていたと言う。


「その子達、始末できないかしらね?」


 六花が怖い笑顔で言った。

「えっ!?」

 少女がびっくりしている。

 ハッとした六花は、冗談よ、と笑った。

「その制服って、白石中のでしょう?」

 静がニコッと笑って、ペットボトルの紅茶を渡す。

「はい」

「妹が、そこに通ってる。凪っていうの。知ってる?」

 少女の脳裏に、学校で有名なキリッとした美しい少女が浮かぶ。

「はい。あの、かっこいい人ですよね」

 その言葉に静が苦笑した。

「落ち着いた?」

「…はい」

 5人で教室に移動して、とりあえず休憩しようということになり、近くの教室に行き、持って来たお菓子を出す。

「あの、助けてくれて、ありがとうございます」

 少女が頭を下げた。

「いいのよ。こういうのは助け合いだから」

 六花が優しく言う。

 それから、お互いに自己紹介をして、お菓子を食べながら、六花がゆずに色々と説明した。

 

「皆さん、今日はありがとうございました」

 ゆずが頭を下げると、静は石をひとつ渡した。

「あの…」

「お守り。ぼくはね、世界に汚くて嫌なものもたくさんあるけど、同じくらい、綺麗で素敵なものがあるって信じてるの。

 君がそういうものに出会えるように、勇気を持てるように」

 ゆずは、手のひらにある石を見た。

 澄んだ黄色は、柔らかい日だまりを固めたみたいだ。

「大切にします」

「コ゚ーストに追いかけられたんだ、ちゃんと言い返せよ」

 コ゚ーストより、怖くないだろうと優樹が笑う。

「がんばります」

「そんなに頑張らなくていいよ。常にそうしていると、折れてしまう。ここだっていう時にがんばりなさい」

「そうですね」

「そろそろ帰りましょうか?」


 市役所まで来ると、六花と葵はゆずを家まで送るといい、そこで解散になった。


 後日、ゆずは学校で、ありったけの勇気を出して、言い返せた。

 そこに、凪が通りかかって、ゆずを助けてくれた。

 裏側の世界で、静に助けてもらったと言うと、凪は、自慢の兄だと、困り顔で話してくれた。

 今、ゆずが仕返しに怯えることがないのは、自分の運が良かったからだ。

 凪と友達になって、守られているから。あの三人は、凪を敵に回すことはない。

 凪は、有名人だから。

 裏側の世界では、凪に誘われて、セフィロトツリーに所属することになった。


 なんというか、裏側の世界に行ってから、怖いものがほとんどなくなって、ゆずの世界は、本当に変わった。

 きっと、これからも、変わっていく。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る