第9話

「雪の花を採取する道具は、どこで買ったらいいですか?」

「僕のおすすめは、大黒屋かな…」

 葵は海に近い橋の近くに ある店だと教えた。

「バスで行く方がいいでしょうか?」

「そうだね、イレーヌさんのやり方で集めるなら、荷物が多くなりそうだし、僕達も行こうか?」

 1日くらい休んでもいいと言うと、静は駄目だという。

「六等星の定休日は水曜日なのだから、駄目ですよ。ただ買い物に行くだけです。心配なら、ゆうちゃんに来てもらうから、大丈夫ですよ」

「優樹君が来るなら、まぁ…」

 大黒屋は、安全とは言い難い場所にある。バスに乗れば、乗っている間は安全だ。何しろ、バスを走らせているのは、神様なのだから。

 でも、バスを降りたら、安全ではない。海が近いから、本当に危ない。

 それでも、大黒屋があそこにあるのは、人が逃げ込めるように、休めるように作られた。

「ぼく、雪の花を見たことないです。砂漠の薔薇みたいなものですか?」

「これが、雪の花」

 葵が棚から、小さな花の入ったビンを出す。薔薇に似た花は白い色で、特に香りはない。

「この花を、氷の代わりに酒やジュースに入れる人もいるけど、僕は加工するのに使ってる」

「何になるんですか?」

「加工した石を魔石と呼ぶのだけど、魔石にする時に一緒に入れると、氷属性の魔石が出来るんだ」

 説明しながら、透明なガラスのような花を見せた。

「綺麗ですね。これ欲しいです」

「花が採取出来たら、作ってあげるよ」

「お願いします」


 夕方、歩いて思う。こっちも向こうと、あまり変わらない。

 違うのは、夜、外出しないことくらいだ。夜は、人外の時間。10時過ぎたら、出ていいのはベランダくらい。

 家に帰って、優樹に日曜日に買い物に付き合って欲しいと連絡したら、いいよ、と言ってくれた。


 日曜日。

「葵さんか六花さんは、来れなかったのか?」

「二人は、休みでも忙しいよ。注文された品を作らなきゃいけないから」

「あぁ、そうか」

 団長も依頼していた。

「もしかして、迷惑だった?」

「それは、絶対にない」

 静のお願いは、何より優先されるべきものだ。子供の頃から、それは絶対だった。

「ありがとう」

 静が笑う。それだけでうれしい。

 それに、静がこうして頼み事をするのは、自分だけだとちゃんと知っている。

 バスを降りて、歩道橋を渡っていて、まわりを見る。ほとんどの店や家は壊れているのに、綺麗に残っているものもある。

 店に入ると、一階はイスやテーブル自動販売機があって、二階に衣類、食料、道具類の売り場があった。

「いらっしゃいませ」

 眼鏡を掛けた、シュッとした青年が立っていた。

「あの、採取用の道具がここで揃うと教えてもらって来たのですが、ありますか?」

「物によります」

「これなんです」

 メモを見せた。

「あぁ、これなら、ございます」

「良かった…」

 しかし、すぐハッとした。

「…お金、足りるかな…」

 心配そうな静に、青年が言った。

「素材と交換でも、大丈夫ですよ」

「いいんですか?」

「物によります」

 静は、少し考えて、リュックの中から箱を出して青年に渡した。

「これは?」

「石が入ってます」

 小さい箱だ。

 何か、凄い物が入っているようには、見えない。

「……」

 フタを開けて目を丸くした。

 石が4つ入っている。

 形も大きさも違うが、どれも、美しい。

 赤い夕日のような石、緑の石の内側には、光が宿っている。青い石には魚が住んでいるし、透明な石は月の雫だった。

 すべてもらったら貰い過ぎ、こちらが代金を払わなくてはいけない。

「足りないですか?」

「いいえ、十分足りてますよ」

 道具は良いものがいいかと、尋ねると少年は頷いた。

「少々、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「はい」

「どなたに採取方法を教わったのでしょうか?」

「セフィロトツリーのイレーヌさんです」

「そうですか…」

 セフィロトツリーにイレーヌは一人しかいない。あの、緑の魔女に教わったのなら、いい物が採取出来るだろう。

「少々、お待ちください」

 青年は二人をカウンターに案内し、お茶を出してバックヤードに行った。

 奥の棚から、久しぶりに銀色のはさみと銀色のじょうろ、花を採取するのに必要な黒い布と木枠を出して、大輪の花専用の木箱と小さい花専用のビンを紙袋に入れた。

 箱3、ビン10くらいだろうか?

 箱の中の石がキラキラと光る。

 月の雫は高すぎる、赤、青、緑のどれかにすべきだろうか?でも、青い石には、魚が住んでいるのだ。

 どれも欲しいが、今は赤い石だろう。買いたいと言っていた客がいた。

「……。」

 無言でフタを閉めて、道具がすべて入っているのを確認すると、カウンターへ行く。

「お待たせしました。こちらがお品物です」

 念の為、三人で確認して、赤い石を受け取り尋ねた。

「他の石の買取は、可能でしょうか?」

「六等星のサイトか店に来て頂ければ、お売り出来ますよ」

「…君達は、セフィロトツリーの方では、ないのですか?」

 三人は首を傾げた。

「ぼくは、六等星の者ですけど」

「俺は、太陽騎士団です」

 青年は、内心驚いた。二人は、セフィロトツリーの関係者かと思ったのだ。

 他人に技術を教えないイレーヌが、よそのクランの人間に技術を教えるとは、思わなかった。

「わかりました。葵に話してみますので、石は誰にも売らないで頂けますか?」

「かしこまりました」

 箱に大黒屋さん予約済とペンで書く。

「それと、花を採取出来たら、少しでいいので、売って頂けますか?」

「わかりました。上手く採取出来たら、お分けします。でも、イレーヌさんにも分けるので、たくさんは、無理かもしれません」

 それでも良いなら、店に問い合わせて欲しいと言う。

「必ず問い合わせます。本日はご利用頂きありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」


「何を採取するんだ?」

「雪の花。雪の日の夜にしか、採取出来ないんだって。雪が降ったら採取するんだ」

 雪の日は平日だった。

「…俺も見たかったなぁ」

 残念そうだ。

「今回は無理でも、次見れるよ」

「そうだな」

 生きていれば、大丈夫。

「どこに運べはいいの?」

「ぼくの家。ベランダで大丈夫なんだって」

「それなら安心だな」

 ベランダなら、コ゚ーストに襲われることもない。 

 

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