俺の童貞を奪ったお姉さんから逃げたのに、なぜか同棲することになって毎晩イジられるようになった
柊咲
第1話 性癖が歪んだ日
子供の頃は土日が嫌いだった。
小学校の友達はお父さんとお母さんと一緒に出掛けるのが楽しいって言っていたけど、当時の俺にはそんな感覚はなかった。
なにせ土日は決まって父さんも母さんも家で塾の講師をしているから。
生徒は中学生から高校生で、教えている勉強も、小学生の俺には何も理解できなかった。
それに自宅兼塾だから、生徒は我が物顔で家にやってくる。
小学生の俺と中高生の生徒たち。そんなに年も離れていないのに、一緒にいても楽しくなかった。
だから家にいたくない。
だけど出掛けようにも、友達はみんな家族と遊んでいる。
小学生が一人で出掛けて楽しい場所なんてなかった。
それに両親も、一人で出歩くなといつも怒る。
小学生の頃の俺は、土日が大嫌いだった。
──あの出会いの日まで。
「あれ、君……たしか瀬川さん家の」
家にいることに限界を迎えたある日、俺は一人の女性と出会った。
その人の第一印象は”綺麗な人”だった。
「えっと、うん……」
「どうかしたの? お父さんとお母さんは?」
「……仕事」
「そっか。だけど一人で出歩いたら危ないよ? この辺り車の通りが激しいから」
また、見下された気がした。
低学年だけど、もう小学生だ。
一人で外で遊んだっていいじゃないか。
「別に、お姉ちゃんに関係ないじゃん!」
そう言って走り出した。
お父さんとお母さんが危ないからダメだって言うから、一人で遠くに出掛けたことなんてなかった。
別に一人で平気だ。
そう思ったのに、気付けば俺は迷子になってしまっていた。
知らない街。
知らない人。
少しずつ暗くなっていく空。
威勢良く走り出したのに、今は涙を浮かべていた。
すっかり暗くなった夜道。
俺は知らない公園のすべり台に体育座りでうずくまっていた。
寒い。
お腹空いた。
お家に帰りたい。
そう考えるとまた、涙が勝手にこぼれる。
誰か、助けて──。
「──大丈夫?」
そう願った瞬間、優しい声に全身が包まれた。
振り返ると、さっきのお姉さんがにこりと微笑んだ。
自分のマフラーを俺に巻いてくれたお姉さんの頬も鼻先も、俺と同じで赤くなっていた。
「寒かったでしょ、もう大丈夫だからね」
そんな優しさが嬉しくて、俺は大泣きした。
お姉さんに抱き着き、わんわんと泣いた。
「よしよし、お姉さんが一緒にいるからもう大丈夫だからね」
これが隣の家に住む、当時中学生だった
「──そっか、それじゃあ、お家にいるの辛いよね」
優菜さんと手を繋がぎながら話した。
「じゃあ、土日はお姉さんのお家に遊びにおいで」
「えっ、お姉ちゃんのお家?」
「うん」
そう言ってもらったことで、その日から土曜と日曜は決まって優菜さんの家へ遊びに行くようになった。
お話をしたり、絵本を読んだり、ゲームしたり。
それまで退屈だった土日が、気付くと楽しいと感じられた。
だから毎週。
その次も、またその次も、俺は優菜さんの家に遊びに行った。
──だけどいつからか、今の状況が変だと感じてしまった。
出会った当時、俺は小学生の低学年だった。
小学生の低学年の俺と、中学生の優菜さん。
小学生の高学年の俺と、高校生の優菜さん。
中学生へとなった俺と、大学生の優菜さん。
そうして日々が過ぎていくごとに、俺の優菜さんの見る目が”隣の家の優しいお姉ちゃん”から”隣の家の綺麗なお姉さん”に変わり、気付くと、
──異性として好きなお姉さん。
そう変わっていった。
それに時が経つにつれ、お互いに心も体も成長する。
ただ優しいお姉ちゃんと思っていた優菜さんを、いつからか性的な目で見てしまうようになっていった。
なにせ優菜さんは、おっとりとした性格に聖母のような笑顔、そして誰もが見惚れてしまうほど整った容姿に男なら意識してしまう魅惑的な身体付きをしている。
そんな女性と毎週一緒にいる。
しかも向こうは俺に一切の警戒心を持たず、無防備な姿を晒している。
太腿も谷間も、なんなら下着姿だって見てしまったことも一度や二度じゃない。そんな誰もが意識する女性の優菜さんに邪な気持ちを抱くのは必然だ。
「あ、あの……そろそろ、その、優菜さんも大学で忙しくなってきたから、こうして土日に家に行くのは、その……止めよう、かなって」
中学生のある日。
俺はこの気持ちが恋なのだと理解した。
だけど中学生の俺と大学生の優菜さん。結ばれるわけはない、だったら、辛くても距離をとろうと思って彼女に伝えた。
だけど、
「ん、ダメだよ」
優菜さんは俺の気持ちを知ってか知らずか、それはわからないけど、俺の苦しんで吐き出した決断を簡単に、それも何の間も空けずに断った。
「だ、だけど、俺だってもう中学生だから……そ、その」
「どうしたの? ……もしかして、お姉さんのこと女として意識しちゃう?」
「ッ!? そ、そうだよ! だからもう──」
「──いいよ、意識しても」
優菜さんはにっこりと微笑み、俺の手を握った。
鼓動が速く、汗が全身から溢れ出す俺を、優菜さんは普段と何も変わらない笑顔のまま見つめる。
「どうしてダメだと思うの? 私を女として意識するの、なんでいけないと思うの?」
「え、だって、優菜さんは大人で……俺は、子供だから」
優菜さんは俺の唇に人差し指を立て、
「じゃあ、奏汰くんも大人になればいいんだよね」
「え……?」
「みんなには内緒で、私が君を大人の男にしてあげよっか?」
「え、それ、どういう」
「こっち、おいで……」
大人にしてあげる。
それが何を意味するのか。
頭ではその行為について思い浮かんだ。だけど実際に思い浮かんだ展開になるとは思わない、思うわけがない。
わかっているのに、俺は期待していた。
そして優菜さんの部屋に連れて来られた俺は彼女に押され、力無くベッドに背中から倒れた。
「緊張してる? 大丈夫……ぜんぶ、お姉さんに任せて。ねえ?」
優菜さんの甘い言葉が、猛毒のように俺の全身の動きを縛り付ける。
絡み合った指も、重ねられた唇も、密着した身体の全てに優菜さんの熱を感じた。
優菜さんが動くたびに悲鳴を上げるベッド。
その日、優菜さんは俺が見たこともない初めて表情を何度も見せてくれた。
俺はその表情を、一度たりとも忘れたことはない。
──そして幸せを感じたその日、俺は完全に堕ちた。
「
中学校の卒業式。
俺は学校で一番かわいいと噂される子に告白された。
絶対に断ることはないはずの告白。
それなのに、
「……ごめん」
俺は断ってしまった。
その選択に友達からは馬鹿だと言われた。
自分でもそう思う。だけど、
「──卒業おめでとう、奏汰くん。それじゃあ、帰って二人っきりでお祝いしよっか」
「……ありがとう、優菜さん」
あの日から俺は、たった一人の女性にしか性欲を感じなくなってしまったんだ。
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