第10話 ゴブリン村と筋肉祭り
ルムナ湖を出て三日。
ユウトとゴルドは、森の中の獣道を歩いていた。
朝露が光り、鳥の声が高く響く。
「……なあ、静かすぎないか?」
『スライムがいねぇからだろ。あいつ、しゃべり声がBGMだったしな。』
「確かに。……ちょっと寂しいな。」
その時――。
『お待たせしましたぁ〜♡ やっぱり、ついていきます♡』
「――えっ!?」
後ろから、ぷるぷると揺れる青い影。
ピリィが陽の光を浴びて跳ねていた。
「ピ、ピリィ!? 残ってたんじゃ――」
『お母さんが言ってくれたんです。“行きたいところに行きなさい”って♡
だから、わたしの居場所はここです♡』
ゴルドが吹き出した。
『いい母ちゃんだな。俺なんか“筋肉の道を歩め”って言われたぞ。』
「お前の母ちゃん何者だよ。」
『筋肉の母だ。』
「説明になってねぇ!!」
ピリィが笑いながら跳ねる。
『というわけで♡ またお世話になります♡』
「こちらこそ。……賑やかさが戻ってきたな。」
⸻
そして三人(?)は、南の森を抜け、ゴルドの故郷――
“グラッグ・ゴブリン村”へと到着した。
木製の門には、大きく筆で書かれた文字が躍っている。
「祝・筋肉祭り開催!!」
「……嫌な予感しかしないんだが。」
『ははっ、最高のタイミングじゃねぇか!』
『筋肉祭り……♡ ぷるっとワクワクします♡』
「ぷるっとワクワクってなに!? それ擬音で気持ち表現すんな!」
⸻
村の中では、半裸のゴブリンたちが丸太を担ぎ、腕立て伏せをしながら叫んでいた。
『力こそ正義!!』
『腹筋は誇り!!』
『筋肉は神!!』
「宗教だなこれもう!!」
『違ぇよ。文化だ。』
「文化なら筋トレしながら太鼓叩くな!」
太鼓の音に合わせ、子どもゴブリンたちが腕立てを数えている。
しかも全員リズム感が完璧だった。
『いちッ! にッ! さんッ! ごッ! ろく! あれ四は!?』
『忘れたぷる♡』
『ぷるじゃねぇ!! なんでお前まで混ざってんだピリィ!!』
⸻
その時、村の奥から低い声が響いた。
『……ゴルドか。』
姿を現したのは、ひときわ大きなゴブリン――
灰色の髪を後ろで束ね、片目に傷跡を持つ男。
腕は岩のように太く、存在そのものが筋肉。
『親父……!』
『お前、生きてたか。どうせ途中で倒れて死んでると思ってたぞ。』
『なぜ野垂れ死前提!?』
ユウトが小声で呟く。
「やっぱツンデレ親父……」
『親子の絆♡ 素敵です♡』
『やかましい!!』
⸻
ゴルドは胸を張って紹介した。
『紹介するぜ、勇者ユウトだ! そしてぷるっとしてるのがピリィだ!』
『ぷるっと!?♡』
「紹介が雑!」
グラン親父(ゴルドの父)はユウトをじろりと見た。
『人間か。……昔の勇者どもは俺たちを狩っていた。
だが、お前の目は違う。筋肉が足りねぇ。』
「褒められてるのかけなされてるのか分からん!!」
『よし、筋肉祭り出ろ。』
「話早すぎる!!」
⸻
第一競技「丸太スクワット対決!」
広場の中央。太鼓のリズムが鳴り響く。
参加者全員、肩に丸太を乗せ、スクワットを始めた。
「……これ、何回やるんだ?」
『限界の向こう側までだ!!』
「その説明一番怖ぇ!」
ユウトは悲鳴を上げながらスクワットする。
隣ではピリィが、丸太の上でぷるぷる揺れて応援していた。
『がんばれユウトさん♡ ぷる筋♡ ぷる筋♡』
「筋肉の名前勝手に付けるなああぁ!!!」
⸻
第二競技「丸太担ぎリレー!」
ゴルドが丸太を担ぎ、全速力で村を一周。
ユウトはついていけず、背中に乗る羽目に。
『振り落とされんなよ勇者ァ!!』
「今どっちが勇者かわかんねぇ!!」
『ぷる♡ 速い♡ ぷる♡』
『実況するなピリィ!!』
観客が爆笑し、太鼓のテンポが上がっていく。
走り終えたゴルドが丸太を投げ捨て、ポーズを決めた。
『筋肉は……裏切らねぇ!!』
「なんで名言っぽく締めるの!?」
⸻
最終競技「筋肉相撲」
丸太の上で向かい合うゴルドとライバル・バルド。
どちらも全身が金色に輝くほどオイルでぬらぬらしている。
『勝負だゴルド!!』
『上等だコノヤロウ!!』
どすん! どすん! ぐわぁぁ!!
――丸太、真っ二つ。
『勝負つかねぇぷる♡』
『いや丸太が死んだ!!』
観客が大爆笑。
審査員席のグラン親父が大声で宣言した。
『勝者――筋肉!!』
「どっちだよぉぉぉ!!!」
⸻
祭りの後、村の広場で宴が開かれた。
肉の香ばしい匂いが漂い、樽酒が回る。
『お前……勇者なのに、筋肉祭り楽しんでたな。』
「まあ……こういう平和なの、悪くないね。」
グランが焚き火の向こうで笑った。
『お前は、昔の勇者たちとは違う。
お前の“弱さ”が、他の奴らにはない強さを生む。』
「……それ、ピリィにも似たようなこと言われた。」
『ぷる♡ それは正解です♡』
⸻
夜更け。
ユウトは焚き火の前で、ふと遠い空を見上げた。
満天の星。
その奥に、どこかで見た竜の影を思い出す。
『……なぁ、ゴルド。竜王のときさ――』
『ああ?』
「心を読もうとした時、炎みたいな感情が流れたんだ。
怒りと……寂しさ。
でも、その奥は読めなかった。」
『竜にも、心があるのか。』
「あると思う。たぶん、誰かを失った怒りだった。」
ゴルドが空を見上げる。
『……お前が感じたんなら、そうなんだろうな。
俺には見えねぇもんが、お前には見える。
その力、誇れよ。』
「ありがとう。お前の筋肉も誇れよ。」
『当然だ!』
⸻
その時、風が吹いた。
木々が揺れ、夜空に赤い光が流れる。
ユウトの胸が熱くなった。
『……人の子よ。柔らかき心、いずれ試されよう。』
――竜王の声だ。
遠く、確かに聞こえた。
「……また、お前か。」
ピリィが不思議そうに首をかしげる。
『どうかしましたぁ?♡』
「いや、なんでもない。……また少し、旅が騒がしくなりそうだ。」
ゴルドが豪快に笑う。
『上等だ! 次は誰が相手でも筋肉で――』
「いや、それはやめとけ。」
『ぷる♡ 次は心で戦いましょう♡』
「お前ら方向性バラバラ!!」
三人の笑い声が、森の夜に響き渡った。
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