第9話 計画通り?

「ただいまー」


 もうすぐ5月も終わり、中間テストという単語を校内で耳にする機会が増えて若干憂鬱な頃。

 僕が買い物を済ませて帰宅すると、いつも通り安奈あんながリビングでくつろいでいた。


「おかえり」


 スマホでSNSでも見てるんだろう。

 顔は上げず、安奈は短く言う。


 不機嫌って感じじゃない。

 話すなら今がちょうどいい気がする。


「ねえ安奈」

「なに?」

「この前見てもらったアニメ、実は前日譚があるんだ」

「前日譚?」

「そう。動画サイトの公式チャンネルで見れるよ」

「……ふーん」


 それだけ言って、僕は夕飯の支度を始める。

 すると、安奈がイヤホンをつけ始めた。


 さっそく見てくれてるのか、それとも単に音楽を聴こうとしているだけなのか。

 気になったけど追及するのはやめておく。





「安奈。……安奈―」


 夕飯の支度が終わって声をかけたけど、イヤホンのせいか聞こえてないらしい。

 僕は安奈の近くに立って、ひらひらと顔の前で手を振る。


「……あ、できた?」

「うん、食べよっか」


 今日のメインは生姜焼きだ。


「いただきます」

「いただきます」


 食べ始めて少しの間は、いつも通り無言だった。

 けど珍しく、安奈の方から沈黙を破ってきた。


「さっき言ってた前日譚、見たよ」

「どうだった?」

「面白かった」

「そっか。よかった」


 安堵していると、安奈は僕を見つめている目を細める。


「あのアニメ、面白かったけどさ。正直なんか、意外だったんだよね」

「もっとオタクっぽいやつ見せられると思ってた?」

「そう。ああいうの趣味じゃなくない?」

「まぁそうだね。けどアニメの良さって作画……絵柄だけじゃないからさ。テンポの良さとかギャグシーンの面白さとか、そういうところは気に入ってるよ」

「ふーん……」


 安奈はどこか納得しきっていない様子だ。


「まぁ……白状すると、安奈に勧めたのは友達が教えてくれたからなんだけどね」

「あのアニメを?」

「そう。1話の時間も短いし、3DCGだから萌えっぽい……えっと、いかにもアニメって感じの作風じゃないから、忌避感も少ないだろうしって」

「あー……なるほどね」


 やっと安奈は納得がいったという風に頷いて、それから僅かに首を傾げる。


「その友達って坂本? いつも一緒にいるけど」

「いや、後輩の子」


 言うと、安奈は珍しく目を見開いて硬直した。

 それから目を瞬かせると、生姜焼きを口に運ぶ。


 ……今のリアクション、なに?


「アンタ、後輩に友達とかいるんだ」

「え、うん。……あ、今の驚いてたの?」

「うん。だって、ただでさえ友達の少ないアンタに後輩の友達ができるなんて」

「失礼じゃない? さすがに」


 友達が少ないのは事実だけどさ。


「去年の冬くらいに知り合ったんだ。その子、模試の帰り道だったんだけど、まぁいろいろあって」

「ふーん。……女の子?」

「うん……って、なんで分かったの?」


 性別を特定できるような情報、言ってないと思うけど。


「勘。なんかそんな気がしただけ」


 女の勘、ってやつだろうか。


「アンタのことだから、どうせまたその子にいろいろ聞いてるんでしょ?」

「え?」

「次に見せるならなにがいい、みたいなこと」

「え、えっとー……」


 安奈のジト目に、僕は思わず目をそらす。


「図星でしょ。バレバレだから」

「あー……はい、聞いてます」

「だと思った」


 また女の勘ってやつだろうか。


「アンタのことだから、またなにか考えてるんだろうなって気がしてたの」


 違った。

 幼馴染としての経験則だった。


「……どうせ見せるなら、面白いやつにしてよね」

「え?」

「だーかーら、次のやつ」

「見てくれるの?」


 安奈からリクエスト──というにはアバウトかもしれないけど、あんなことを言い出すなんて。


「前のやつは面白かったし。それに、アンタのことだからまた何かしら理由をつけて見させようとしてるんでしょ」

「えっとー……まぁ、うん。もちろん安奈にとって得のある条件を提示するつもりだったけど」

「やっぱり。……ま、私の方でも考えとくから。アンタの趣味に付き合う条件」


 そう言う安奈は、少しだけ意地悪っぽい笑顔を浮かべていた。

 一体どんな条件を突き出してくるつもりなんだ……。

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