第3話 釣れる幼馴染
オタクに優しいギャル育成計画をスタートさせて1週間。
その間に成果があったかと言うと、これが全くない。
手を変え品を変え
さてどうしたものか。
そんなことを考えながら教室に入ると、もう来ていた坂本くんが寄ってくる。
「はよっす、
「おはよ、坂本くん」
「ロキちゃんの昨日の配信見た?」
「途中までなら見たよ。0時すぎくらいにさすがに中断して寝ちゃったけど」
「はー? 勿体ねぇ~。あそこからもっと面白かったんだぜ?」
笑いながら言うと、坂本はおおあくびをする。
そうならないために見るのをやめて寝たんだ。
この前授業中の睡魔に危うく負けかけたから。
「……そういやまだVtuberは勧めてないな」
「なんの話?」
「最近あ……る人にアニメや漫画を勧めててさ」
「ある人? 誰?」
「内緒」
「はー?」
危ない危ない。
普段から気を付けてはいるけど、この話題では特に安奈の名前は出せない。
ちらりと、クラスメイトと話している安奈に目を向ける。
ああしてクラスの陽キャグループにいる彼女にアニメや漫画を勧めているなんて知られたら、どういう関係なんだと根掘り葉掘り聞かれるに違いない。
「とにかくキミの知ってる人じゃないから。ネットの知り合い」
「あーね。そういう」
納得してくれたようで、坂本は頷いてくれた。
「その人さ、普段アニメとか漫画とかまったく見ない人なんだけどさ。まぁちょっと、いろいろ訳があって勧めてるんだ」
「ほーん。で、なに勧めてんの?」
僕はこの1週間で勧めた作品名を挙げる。
どれもここ最近放送されたり漫画を連載したりしている作品だ。
「その辺がイマイチな反応だったからVtuberも勧めてみようかなー……って、さっきの流れで思ったんだよ」
そう言うと、坂本は見るからに微妙というか、渋い表情を浮かべる。
「そいつはやめといた方がいいと思うぜ? その手の人って、Vtuberにあんまいいイメージ持たなそうな感じがすんだよなぁ」
「あー……まぁ、その可能性はあるね」
かくいう僕も、Vtuberという存在が世に出始めてしばらくは懐疑的な目を向けていたオタクだ。
オタクの僕ですらそうだったんだから、オタクじゃない安奈からしたら──……。
「よし、やめとこう」
「賢明な判断だよ、隠」
「ただそうなると……。はぁ~……」
溜息を吐きながら、僕は目線を向けないまま安奈たちの方に耳をすませる。
安奈はよく一緒にいるクラスメイトの女の子──たしか
「ねー安奈、帰りに駅前のカフェ寄ってかない?」
「駅前……あぁ、前に話してた新しくオープンしたっていう」
「そうそう! ちょっと値段張るみたいだけど、ケーキとかめっちゃ美味しいんだって!」
高瀬さんの言葉に、安奈は珍しく迷うような表情を見せる。
いつもは即断即決というか、あんまり人の誘いに迷うことなんてないのに。
すぐ断るから。
「んー……ごめん、パス。私今月あんまお金なくてさー。奢ってくれるんだったら行ってあげてもいいけど」
「うぐっ。2人分は……ま、まぁ出せなくはないし? いいよ、奢ったげる……っ」
「じょーだん、無理しなくていいから。また今度誘ってよ」
ぎゅっと目を閉じてお財布を取り出す高瀬さんを、安奈は苦笑しながら慰める。
「……かくなる上は、か……」
「どしたー、隠」
「いや、ちょっと覚悟を決めてた」
「覚悟? なんの」
「……財布の中身とお別れする覚悟、かな」
「は?」
この手は使いたくなかったけど、仕方がない。
タイミングとしてはばっちりだし。
僕は最終手段を取る覚悟を決めて、その日の授業を乗り切ることに専念する。
そして──。
──いつも通り夕飯を食べ終え、安奈はソファでのんびりしている。
洗い物を済ませた僕は、そんな彼女に声をかけた。
「安奈、この後なにかやることある?」
「別にないけど」
僕には目を向けることもしないまま、安奈は答える。
「なら一緒にアニメ見ない?」
「またそのはな──……一緒に?」
聞き流そうとして処理しきれなかったか、間を空けてから安奈は振り返った。
「いきなりなに?」
「そのままの意味だけど。もし暇してるなら、一緒にアニメでも見ない?」
「いや、そうじゃなくて……」
とぼけているのを分かってるんだろう。
安奈は少しだけ不機嫌そうに肩をすくめ、呆れたように琥珀色の目を細める。
「ここ最近、やたらとアニメの話振ってくるけど……急になんなの?」
「安奈にも見てほしいくらい面白い作品があるんだって」
「はぁ? ……やめとく。興味ないし」
言いながら、安奈はポケットからイヤホンを取り出そうとする。
一筋縄でいかないのはこの1週間で分かってた。
けど僕には秘策がある。
都合の良いタイミングで降ってわいた、タイムリーな秘策が……!
「駅前のカフェのケーキ」
「……え?」
ニヤリと笑いながら、僕は冷蔵庫を指差した。
「駅前の新しくオープンしたカフェ、あそこのケーキ買ってあるんだ。アニメ一緒に見てくれるなら、今から出すけど──どう?」
僕の言葉に、安奈は分かりやすく顔を顰める。
「アンタ、また盗み聞きしてたの? 趣味悪っ、マジでキモいんだけど……!」
「それについてはごめん」
素直に謝ると、安奈は僕を睨みつける。
そもそも教室で話してるんだから、盗み聞きもなにも周りから聞かれ放題に決まってるだろ、というツッコミは心の内にとどめておくことにした。
「ていうか、私は別にケーキ食べたいなんて一言も──」
「嘘吐け。キミ甘いもの好きだし、本当は食べに行きたかったんでしょ?」
「そんなこと……っ」
安奈は言葉を詰まらせると、つんとした表情を浮かべてそっぽを向いた。
グラタンのときもそうだけど、相変わらずだ。
図星を突かれると、すぐそっぽ向いたり目をそらしたりするんだから。
それと、変わらないのはそこだけじゃない。
残念なことがあったとき、安奈は笑うんだ。
両親が忙しくて、楽しみにしていたテーマパークに行けなくなったときも、誕生日にどうしてもお父さんが帰ってこれなかったときもそうだった。
そこも昔からずっと変わらない。
「条件を呑んでくれれば僕の奢りだ。ま、いらないっていうなら僕が2人分食べるだけ──」
「待って」
食い気味に言葉を被せると、安奈は観念したと言わんばかりにため息きを吐く。
「分かった、見てあげる。だからとっとと出して。ケーキ」
「はい、喜んで。イチゴとチョコどっちがい」
「チョコ」
これまた食い気味な返事に苦笑しながら、僕は冷蔵庫からケーキを取り出す。
モノで釣る卑怯な手を取ってしまったのは心苦しいけど、これも計画のため……!
ようやく第一歩を踏み出せたことに安堵しながら、僕はリビングにケーキを運んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます