最初の火種
「じゃあ、実技の時間に入ろうか」
この業界に関する基礎的な知識を叩き込まれた。ホントに覚えないといけない項目を覚えて気になる点はメモをした。
独身教師用の寮に宿泊をした翌日、体育館にやって来た。体育館には俺と鯨六さんしか居ない。
「昨日、意図的に魔法とはなんなのか?と言う説明に関しては君は質問しなかったね」
「ちゃんと教えてくれると思いまして」
「まぁ、コレが漫画とかなら実戦で叩き込め!的な感じだからね……大丈夫、今時はそんな事をしないからね」
「……それで……昨日は聞きませんでしたが魔法とか呪術とかそういうのは?」
実技の段階で魔法や呪術とかを教えてもらえる。だから、昨日は教えてもらわなかった。あえて質問をしなかった。
魔法とか呪術とか色々とある……結局のところそれがなんなのか。魔力とかそういうのを使うのだろうが、具体的になにがどういう風に違うのかが分からない。
「まず、種族ごとに持っている神秘的な力がある。妖怪ならば妖力、エルフならば魔力、神ならば神通力と……人間と言う種族は霊力という力を宿している。この霊力を使った術のことを霊術と言う」
「…………呪術は?」
「生き物は肉体、魂、心を宿している。呪術のもとになっている呪力は心のエネルギー、霊力は魂のエネルギー、肉体のエネルギーを闘気と言う。この3つを完璧に組み合わせた物を一般的に氣と呼ばれるエネルギーになる」
赤、青、紫と3つのエネルギーの球を鯨六さんは作り出した。
赤は肉体の闘気、青は心の呪力、紫は魂の霊力……その3つが上手く組み合わせれば……物凄いエネルギーになる。
「仙術と呼ばれる仙人が覚える術は氣を使う……ここで覚えないといけないことは幾つかあるけど一番は使い分けだよ」
「使い分け……同じ炎を出すのでも原理が違う、とかですか?」
「それもあるけど……RPGであるでしょ?炎属性が弱点とか風属性が弱点とかそういうのが……心のエネルギーの呪力を動力にした呪術、魂のエネルギーの霊力を動力にした霊術、この2つの違いを説明すれば相手に与えれるダメージの種類が大きく異なるんだよ」
「……………闘気は肉体に物理ダメージ、呪術は精神にダメージ、霊術は魂にダメージ、ですか?」
「大まかに言えばそう……そして敵の種類によってこの攻撃方法をしっかりと変えないといけない。例えば貞子の様な呪いのビデオに入っている幽霊はどれだけ肉体と闘気を鍛え上げてもダメージは与えられない。呪術ではダメージを与えれるけど、貞子は呪われているから効果が薄い。だから魂から発するエネルギーである霊力を動力源にした霊術でダメージが一番当てられる」
「……魔力は?」
「人間が持つ霊力に自然が発する
呪力、霊力、闘気、魔力、氣……さっきさらりと言っていたがコレ以外にも妖力の概念がある。
霊力は人間が持つエネルギー、エルフは魔力を生まれながらに持っている。そうなると妖怪は妖力を持った種族、となるのか?
漫画として見れば凄く細かに設定が作り込まれているな……と言うかコレは漫画にして教えた方がいいんじゃないのか?
「人間と言う種族は霊力を持っている……が、手から炎みたいなのを出すには色々と変換しないといけない。魔力は自然の理を無視する事が出来る。霊術は自然の理を使う事で発動する。呪術は強い意思によって使える。仙術は霊力、闘気、呪力を合わせた氣を使う……ついてこれてる?ここで挫く人が結構多いんだけど」
「魔術と魔法と霊術の違いがイメージ出来ません」
「魔術は魔力を用いて自然の理を無視する物、魔法は魔力を用いて世界の理を無視する物、霊術は自然の理に則って使う物……魔術は火・水・風・土の四大元素がベース。霊術は火水土木金の五行思想がベース。例えば火を出す技がある。魔術ならば火が生まれる過程を無視していきなりポンッと火が生まれる。魔法は時間や世界や概念に干渉して火が起きたという事実を作り上げる。霊力は空気を温めて火を起こす」
同じ火を起こす系の術でもやり方が違う。
木の棒を擦って火を起こす。太陽光を黒色に浴びせて火を起こす。オイルに電気を流して引火させる。
火を操るだけでも出すだけでも過程が異なる…………
「どれが一番強い!ってのはある……精神に干渉するのは呪術、魂に干渉するのは霊術、その中間の魔術と魔法、肉体と魂と精神に全てに干渉出来るのが仙術……他にも色々とあるけれどもコレが基礎だよ」
「……なんとか飲み込めました……でも……」
「そんなにあるならなにかの拍子で誰かが気付くんじゃないのか?だよね」
SNS等の高度に発達した情報通信技術、それをこの業界の人達は使えない。
だが、それだけ神秘的な術があるのならばなにかの拍子で気付くことが出来る。そうしたら色々と情報を発信し、魔術や魔法が当たり前の世界になっている。情報や技術の独占と言うのが不可能な筈だ。
「結論から言って、パワーが足りないんだよ」
「パワーですか?」
「霊力も呪力も闘気も0な人間はこの世界には居ない、ただ殆どの人達は3とか4とかなんだ……魔法とかが出てくる漫画のバトルに使っているのは……単純な術でも最低でも100のエネルギーが必要なんだよ」
「100!?また随分とスゴいインフレですね。でも、それだけ必要ならば最初に何処かから持ってきて…………あ……」
「そう、火種を与える……最初は火起こしをしても、生まれるのは熱を帯びている種火で、その小さな種火を薪や空気を利用して段々と炎に変える。ああ、コレが霊力なのか。呪力なのか。魔力なのかと認識させる……そうすることではじめて魔法や呪術が使えるエネルギーにする……そしたら全体が底上げされる。ずっと2とか3とかが一気に100とかになる。底上げすれば何もしていなくても100が生まれるようになる。神秘異能協会はこの最初の火種を独占してるんだよ」
パワーが足りないならば何処かから持ってくればいい。
その何処かが分からない。最初の火種は誰かから与えられる物で協会はそれを独占している。だから魔法の存在なんかが認知されなくなっている。
「中にはマジなのもいるけれども、テレビに出ている霊能力者とかはこの火種を与えていない状況で生まれながらにして20や30ぐらいの力がある。だから一般的な人よりも深く力を感じ取ることが出来ている……」
「その火種は……どうすれば?」
「それは私が与えるから大丈夫、焦らない……その前に知識をしっかりと蓄えないといけない……それを無視したら、場合によっては君を殺さないといけないからね」
「っ!?」
火種をどうすれば手に入れることが出来るかと聞けば、鯨六さんが用意はしているから問題はない。
今直ぐに最初の火種を貰いたいと思っているが……にこやかな笑みで俺を場合によっては殺さないといけないと言い切った。
殺すって……いや、分かっている。そういう危ない仕事をしているのは分かっているが……。
「強い力は人を良くも悪くも歪ませちゃうの……さっきエルフが生まれたのは魔力を多く作ったからって言ったでしょ?それと同じで、肉体が持つ闘気以外の2つ、霊力と呪力を下手にパワーアップさせ過ぎれば歪んじゃうんだ。明日は体育祭だけど行きたくない、雨でも降ればいいなと思ってしまえば意識の力、呪力が無意識に働いて呪術になって……災害級の豪雨を降らせる……意識して使える力が無意識で使っちゃうのはホントに洒落にならないよ!」
「……それで、殺す……」
「うん……力が制御する事が出来ないとありとあらゆるところに迷惑かけちゃうからね……ああ、安心して。ホントの最終手段だから」
力が暴走した場合は殺す…………恐ろしいな……。
「大丈夫大丈夫、基本的には100になる事は無いから……」
「つまり何かしらの例外があると?」
「寺や神社みたいなパワースポットな場所で生まれて育つとか……聖剣みたいな不思議な力が籠っている道具に触れるとか……童子切と鬼切みたいに妖怪を退治した刀とかなら妖怪の呪力とか血が染み込んでて刀自体にチャームの効果がある。だから本物の童子切や鬼切みたいな刀や神秘的な道具は協会が独占してる」
……協会はしっかりとしている、のか?
俺が見ている知っていることだけが全て正しいというわけではないが、鯨六さんから語られる協会は悪い感じがする。
でも、そういう要素を聞けば協会はしっかりしている……物事を善と悪で判断してはいけない、か……。
「霊力、呪力、魔力、氣……神秘や異能は大体はコレ等を使っている。世間一般的に言う超能力とかも科学的に解明したらこの4つのエネルギーのどれかを使っているの」
「……成る程……なんとなくですが掴めました……火種をください」
「慌てない、慌てない……もう1つ覚えることがあるよ。君は個性も覚えないといけない」
魔法や魔術がどんなものなのかが大体は頭に入った。
理論だけは分かってたので火種を貰おうと思ったのだが、まだ覚えることがある……
「個性、ですか?」
「コレに関しては属性とも言えるね……頭のいい人、足の速い人、お腹が全然減らない人と色々な人が居る。だから火属性が得意、水属性が得意、風属性が得意、土属性が得意とある。この個性は割と大事で例えば火属性が得意ならば火属性に関する術を覚えれる。水属性も風属性も使おうと思えば使えるけど中途半端になる。1から5段階評価で得意な属性は5、中途半端な属性は2や3,苦手な属性は1や下手したら覚えられない0だ」
「……属性でなく個性という意味は?」
「同じ火属性でも精神干渉が得意、魂干渉が得意、肉体回復が得意、肉体強化が得意と色々とある……物作りに特化した種族のイメージであるドワーフは神秘異能が物作りが得意と言う個性を持っている…………問題はここだ……」
「…………聞いた限りでは正しく処理してくれていますが……」
何かしらのイベントが起きないと学習しないのでなく自主的に学習する。
鯨六さんは俺が変な方向に偏ったり間違わないように上手く説明したり処理したりすることが出来ている。
なにかおかしいところがあったのかと考えるが今のところは問題は無い。
「君が原種の日本人だから、なにが起きるか分からない……」
「その原種の日本人、と言うのは?」
「聖書とかに書いてるけど神様は自分に似ている存在として人間を作った。最初は猿みたいな人、そこから段々と成長していき今の人間になった……でも、人間は色々な問題を起こした。だから神様に反抗しなかったり神様にとって都合の良い力を持っている人間を後から作った。日本では伊邪那美と伊邪那岐の夫婦喧嘩の時に生きている人を1000人殺し、新しく1500人の人間を作ると喧嘩した……その時に殺されなかった人間で尚且つ何処かの段階で新しい人類と混じり合う事が無かった文字通り純粋な日本人、原種の日本人……先祖返りで原種の日本人と同じ状態になったのは見たことあるけど、純粋な原種の日本人なんてホントに数える程度だよ」
文字通りの日本人…………俺はそれなのか…………自分は日本人と言う自覚はあるから言われてもピンと来ないな……。
「原種に近い人であればあるほどに色々と強くて神秘的な力を使える……エルフやドワーフの様に人から別の種族になった存在の開祖は原種の人間……だから……なにが出てくるかが分からない。実際、原種の日本人に先祖返りをしている龍ちゃんの能力は説明すれば納得できて理解出来るけれども模倣出来るかと聞かれれば無理なトンチキな能力だし……」
「…………色々とああだこうだと考えていても意味は無いです……やりましょう」
「ま、それもそうだね!じゃあ、はい。オロ◯ミンC味のジュース……霊力とかそういうのを込めてるからコレを飲むだけで力は増幅するから」
「文字通りのドーピングアイテムですね…………っ!?」
コレを飲んでとジュースを託されたのでジュースを飲んだ。
ドクン、ドクンと心臓の鼓動を感じる……力を感じる。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五感が物凄く強化されていると感じ、今まで見えていなかった物を感じる。自分の中に3つの異なるエネルギーがあるのを感じ取れる。
「落ち着いてね……そこで暴走する人は多いけど、君ならいける」
力が湧いてくる……が、それと同時に感じた。
鯨六さんが……とても冷たい人間なのを……冷たいが怖いとは感じない。なにかが分からないけれども、この人は冷たい人間だと訴えかけている。だから、力を制御しないといけない……力の流れを感じ取れる
「フゥーーー」
息を全て吐いた。無理矢理出ようとしているけれども、出るのを抑える。
頭の中で2つのスイッチを作る。1つは勝手に動く。1つは完全に手動になる……。
「出来ました……」
「じゃあ、なんか出ろ!ってやってみて……上原くんが得意な属性が出てくるから」
「…………なんか出ろ!…………あれ?」
「……なにも出ない?私と同じ?……いや、私の属性が無い無属性で後から変換出来る万能属性だから…………」
自分の個性を把握する為になにか出ろ!と念じるが出なかった。
今まで手馴れた感じで説明をしていた鯨六さんはここで戸惑った。ここで何かしらの事が起きるけれども、なにも起きなかった。
「…………原種の日本人……龍ちゃんの一例もあるし、普通とは異なるのかな……」
この後に霊力、呪力のコントロール、霊術、呪術の使い方、氣や魔力の練り方を教わった。
鍵を開けたり箒に乗って空を飛んだり光学迷彩の術は使えた。全員が覚えれる基礎的な事は学んだ……けど、俺の個性が発揮しなかった。何かしらの形で発揮すると言っていた鯨六さんもよく分からないと言って途中で匙を投げかけ……2週間の研修を終えた。
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