乙女ゲームの断罪の場に転生した俺は悪役令嬢に一目惚れしたので、シナリオをぶち壊してみました!【連載版】

たまふひ

第一話(攻略対象の俺と悪役令嬢の恋)

1-1(断罪の場に転生する).

 あらすじにも書きましたが、この小説は投稿済みの連作短編3つ統合して、さらに新しく中編程度の4つ目のエピソードを付け加えて完結とする予定の作品です。多少の修正などを加えますが最初の3つのエピソードは基本的に短編と同じ内容なのでご注意願います。

 今日から、見直しができた部分から順番に投稿します。




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 トラックに轢かれた俺は気がついたら転生していた。


 目の前には高校生くらいの多くの少年少女がいる。そして全員中世ヨーロッパ風の服装をしている。いや、これが本当に中世ヨーロッパ風なのかは分からない。だけど、アニメやゲームなどで見慣れた光景であるのは間違いない。それにしても既視感が強い。


 ああ、そうか・・・。


 ここは乙女ゲーム『心優しき令嬢の復讐』の世界だ。


 そして場面はクライマックスを迎えている!


 学園の卒業パーティーの会場で、今まさに、悪役令嬢エカテリーナ・ボルジアが断罪されようとしていた。 


「エカテリーナ・ボルジア! 僕、オーギュスト・デナウはお前との婚約を破棄する!」


 卒業生の一人でデナウ王国の王太子であるオーギュストの言葉に、エカテリーナはカッと目を見開くと悪女らしい笑みを浮かべた。


 俺は、そんなエカテリーナに見惚れていた。エカテリーナは悪役令嬢ものでよくある金髪縦ロールではない艶のある黒髪だ。エカテリーナという名前に黒髪は合わないような気もするが、それはエカテリーナのキリっとした顔立ちによく似あっていた。実際、今この瞬間に薄く笑みを浮かべている生意気そうエカテリーナを美しいと俺は思った。そんなエカテリーナは王太子オーギュストに一歩も引かずに言い返した。


「殿下、そんな勝手なことができるとでも。大体、私の父上がそんなことを許すはずがありませんわ。それに殿下のお父上でもある我がデナウ王国のザイラス王はご存知なのですか?」


 オーギュストのほうも引く気はないようだ。 


「エカテリーナ、お前が、ここにいるサーシャを虐めていたのはとっくにバレている。昨日はサーシャを階段から突き落とそうとしたらしいじゃないか」


 サーシャ・ミグル、ミグル男爵令嬢だ。ミグル男爵が侍女に産ませた子供で、ミグル男爵夫人が亡くなったのを契機に正式にミグル男爵の娘として引き取られたため、貴族としてのマナーに若干疎い傾向のある令嬢だ。だが一生懸命に学園に馴染もうとする姿勢が多くの男子生徒に受け入れられ人気が高い。女性徒からの人気は、まあ普通だ。

 ふわっとしたピンクの髪でやや童顔、これまた乙女ゲームにはよくあるタイプだ。サーシャを見た俺は、この世界だとピンク髪も意外と違和感がないな、などと考えていた。


 それにしても何の工夫もないベタな設定だ。乙女ゲーム『心優しき令嬢の復讐』は決して世間の評価が高い作品でなかった。だがその王道の展開が安心感もありそれなりに人気があった。


 サーシャは、オーギュストの隣に立ち、胸の前で両手を握ってオーギュストを見上げている。童顔に巨乳、それにピンク髪、なるほど、俺の好みとはちょっと違うが、可愛いのは認めよう。


 サーシャはもちろん、このゲームの主人公だ!


「もう我慢の限界だ!」

「私がサーシャを虐めていた? 証拠はあるんですの?」


 なおも、エカテリーナは引かない。


「俺はエカテリーナがサーシャの教科書を隠しているのを見た」


 そう言ったのは、この国の宰相の嫡男でオーギュストの側近候補でもあるジルベール・コーエン、インテリ眼鏡枠の攻略対象だ。攻略対象のスペックは総じて高いが、ジルベールは中でも頭が最も良いという設定だ。


 ジルベールの言葉にサーシャはコクコクと頷いている。ちょっとあざといが確かに可愛い。


「ぼ、僕はエカテリーナ様が、サーシャ嬢をお茶会から仲間外れにするよう他のご令嬢たちに圧力をかけていたのを知っています」


 そう言ったのは宮廷魔導士の息子の・・・確かエロール・デビアだと思う。


 ジルベールと同じくオーギュストの側近候補だ。こいつは年下可愛い系男子でやはり攻略対象だ。エロールはオーギュストたちより一年後輩だ。おどおどした外見とは異なり、攻略対象の中で最も魔法が得意で、王都の近くで主人公たちが魔物に遭遇するちょっとしたイベントでは大活躍だったはずだ。


 エロールの言葉にサーシャは、そうなの、とでも言うように頷いている。うーん、やっぱりあざとい。


「僕は昨日、エカテリーナがサーシャを階段から突き落とそうとしたのを見た。僕が声をかけなかったら大怪我をしてたかもしれない。そうだよね、アレク」


 そう言って俺の方を見たのは、オーギュストの従兄弟にあたるセイン・ウィドマーク、ウィドマーク公爵の三男だ。こいつは、うーん、至って常識人でバランスの取れた性格だが、やはり攻略対象だ。


 サーシャは怖かったと肩を震わせオーギュストを上目づかいで見た。オーギュストは、大丈夫だよ、というようにサーシャの肩を抱いた。


 乙女ゲーム「心優しき令嬢の復讐」は妹が愛好していた乙女ゲームだ。そして、今の俺はオーギュストの側近候補の一人、騎士団長の息子アレクセイ・ギルロイだ。まあ、脳筋枠の攻略対象ってやつだ。脳筋ではあるが、その分真っすぐで憎めない性格でもある。

 妹は、俺の彼女だったヒトからこのゲームを勧められて、かなりハマっていた。彼女との付き合いは長かったので妹とも知り合いになっていた。最後のほうはむしろ俺より妹とよく話していた気さえする。

 彼女が妹に勧めた乙女ゲーム「心優しき令嬢の復讐」はあまり捻りのないストーリーではあったが隠れ攻略対象もいたりして意外にやりごたえがあった。もっとも俺はいくら妹に尻を叩かれても隠れ攻略対象に出会うことすらできなかった。


 くそー! 妹に罵倒された嫌な記憶が蘇ってきた。


 まあ、とにかく、そんなこんだで妹に無理やり攻略を手伝わされていた俺は乙女ゲーム「心優しき令嬢の復讐」の内容をよく知っている。加えて俺の頭の中にはアレクセイとしての記憶もある。今の俺は日本人としての記憶とアレクセイの記憶の両方を持っている。


 頭の中にあるアレクセイとしての記憶を探ると、確かに昨日の昼頃、エカテリーナが俺たち最上級生の教室がある3階から2階へ降りるところの踊り場でサーシャの背中に両手を突き出したのを見た。セインが慌ててサーシャに声をかけたことにより狙いが外れて、サーシャはちょっとよろけただけで済んだ。

 

 さて、次はいよいよ俺の番だ。確か俺のセリフは「俺も確かにエカテリーナ侯爵令嬢がミグル男爵令嬢の背中を押すのを見た」だったと思う。そして、それは真実だ。 


 しかし、俺の口から出たセリフは、自分でも思いがけないものだった。


「俺は確かにセインと一緒だった。だが、エカテリーナはサーシャの背中など押してない!」


 その場を一瞬沈黙が支配した。


「あ、アレクなんでそんな嘘を!」


 セインが驚くのは無理もない。だって俺はセインの言う通り嘘をついているのだから。脳筋だが真っすぐな性格のアレクセイであればありえないことだ。


 でもな、セイン、エカテリーナってこんなに美人なんだぜ。俺は可愛いサーシャよりちょっときつめの美人であるエカテリーナのほうが好みだ。


「おい、さっき言ってたことと違うじゃないか?」


 学究肌で普段冷静なジルベールがかなり怒っている。無理もない。さっきまでの打ち合わせは何だったんだと思っているのだろう。侯爵令嬢を断罪しよというのだ。当然、念入りに打ち合わせをしている。


 すまん、ジルベール。でもエカテリーナって美人ってだけじゃなくてスタイルだって凄いぞ!


「アレク先輩、もしかしてボルジア侯爵に何か頼まれたとか?」


 エロールがそう疑うのも無理はない。ボルジア侯爵は軍務大臣なので騎士団長をしている俺の親父の上司に当たる。


「アレクどういうつもりだ」


 オーギュスト殿下が俺を睨んでいる。


「俺は、ただ本当のことを言っただけだ」

「それは、セインが嘘をついていると言っているのと同じだぞ!」


 実際に嘘をついているのは俺のほうだ。ただ俺は勢いで言っただけだ。


 それに俺は妹と一緒にこのゲームをしていたので、エカテリーナが本当にサーシャを虐めていたことも、階段から突き落とそうとしたことが真実であることも知っている。そもそもゲームのことを知らなくても、セインの言う通り、今はアレクセイである俺自身がこの目で見た。アレクセイの記憶から判断すると、サーシャは、ちょっとあざといと感じる部分はあるものの、ゲームの主人公らしくとても性格がいい。


 俺に庇われた正真正銘の悪役令嬢エカテリーナが最も驚いた顔をしていた。唖然とするとはこのことだろう。


 エカテリーナの後ろにいる令嬢も同じように驚いている。あれは、誰だっただろうか? エカテリーナの取り巻きにあんな令嬢がいただろうか? アレクセイの記憶を探っても思い出せない。


 とにかく、そのあと卒業パーティーの場は大混乱となった。なんせ、王太子殿下が、デナウ王国の有力貴族にして軍務大臣であるボルジア侯爵の娘に婚約破棄を突き付けたのだ。しかもオーギュスト殿下の友人にして側近候補でもある4人のうち3人は、エカテリーナがサーシャを虐めていたとのオーギュスト殿下の言葉を肯定し、一人は否定した。


 否定したのは俺で、俺は嘘をついている。


 そして卒業パーティーは収集のつかない間に終了したのだった。


 その後、俺は4人の友人から絶交を告げられた。まあ、もともと利害関係ありきで集まっていただけだから、どうでもいい。それに俺は転生してきたばかりで、王国での出世とか、考える気にもなれなかった。


 なんか疲れた。

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