第4話 運ハントと、黒い不審者
「よし、行くか!」
翌日。
俺は意気揚々と、バイト先の最寄り駅とは逆方向の電車に乗っていた。
隣には、当然のように美月。
今日の彼女は白いブラウスにネイビーのフレアスカート。
腰まである艶やかな黒髪が、歩くたびにさらりと揺れる。
マジで、どっかのモデルか女優みたいだ。
……そんな超弩級の美人が、俺の監視役ねぇ。人生って不思議だ。
「それで、本日はどちらへ?」
「決まってんだろ。効率のいい猟場ハントばだよ!」
俺はドヤ顔で人差し指を立てる。
「大学のキャンパスは、試験とか恋愛とかで、学生どもの不幸が渦巻いてんだ。
青い運を見つけるには絶好の場所。名付けて――運ハント!」
美月の目が、一瞬で冷凍庫モードに切り替わった。
「……運ハント、ですか。品性の欠片も感じられない、実にあなたらしい命名ですね」
手厳しいことで。
キャンパスに到着。
俺は集中モードに入る。
……が、隣から美月の囁きが飛んでくる。
「何をしているんですか」
「女子大生の絶望を漁る気ですか。最低ですね」
集中できるかボケぇ。
「あーもう! 多分だけど、ストレスとか感じると運ってこぼれ落ちやすいんだよ!
詳しい理屈は知らねぇけど!」
「“多分”で片付けるんですね。科学的根拠は皆無と」
「お前、ほんっと柔らかくディスるの得意だな……!」
そんな不毛なやり取りをしていた、その時。
俺の視界に“完璧な不審者”が入ってきた。
全身黒ずくめのロングコート。
顔にはゴテゴテのSFゴーグル。
通報案件だ。
「うおっ、なんだアイツ……」
「……完全に変質者ですね」
息の合ったツッコミである。
その男――黒木玄くろき げんは、
ベンチで落ち込んでいる男子学生には目もくれず、
その足元に落ちた青い光を凝視していた。
「おお……! 素晴らしい!
この安定した幸運素ラッキオンの波長は、間違いなく青色等級ブルー・クラス!
ポイントは68pt……! 私のシュミレーション通りだ!」
「……ヤバい人です」
美月が小声で後ずさる。
だが俺は、その黒木の視線の先――
自分が狙っていた青い運に気づいた。
「ま、待て白鳥! あいつ、まさか……!」
黒木は、ピンセットでその青い光を摘まみ、
『サンプルNo.74』と書かれたガラスケースにそっと収納した。
横から獲物をかっさらわれた俺は、思わず叫んだ。
「おい、てめぇ! 人のモンに何しやがる!」
「人の物だと?」
黒木が初めて俺たちに気づき、訝しげにこちらを見る。
そして、興味本位でゴーグルを美月に向けた。
ピピッ――。
「なっ……! 運の総量が……998pt!?
ほぼ最大値だと……! こんな完璧な『幸運保有体』が実在したとは……!」
「……え?」
美月、完全にポカン。
次に黒木はゴーグルを俺に向け――
ピピピピピッ!!
「計測不能!? なんだ、貴様のその異常な数値は……!
私のデバイスがエラーを起こすだと!?」
「いや、俺に聞くなよ!」
黒木は、俺が何の観測機器も持たずに“運”を察知した事実に震えていた。
そして、完全に勘違いモードに突入する。
「貴様……どこの研究機関の人間だ?」
「はぁ?」
「……もう結構です。警察、呼びますね」
「待て待て待てぇぇぇ!!」
全員、話が噛み合ってない。
それぞれ違う方向に暴走している。
こうして、三者の奇妙な邂逅が果たされた。
◇
その頃田中は、コンビニで昼食の弁当をどれにするか、真剣に悩んでいた。
実に興味深い……! 私は黒木玄。量子エネルギー力学と幸運素(ラッキオン)を研究する者だ。
君たち、★やフォローで観測支援を頼む。データが増えるほど、真理に近づけるのだから。
(美月)……本当に喋り続けますね。科学者よりも、もはや実況者です。
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