幼馴染と付き合う方法

しゆう

第1話 勝原 伊織(かどはら いおり)の場合

ぼくは勝原 伊織、高校2年生です。

ぼくにはずっと好きな子がいます。

女の子の名前は 宮崎 鈴奈(みやざき りんな)。

大きな病院の一人娘で、ストレートに伸ばした黒に近い茶色の髪がきれいで、目は澄んだ夜景のような色をしている一見ちょっと冷たそうに見える女の子。

だけど、話し始めると表情がころころ変わって、思わず見惚れてしまうほどかわいい!


あ~・・・えっと、

ぼくたちは家が近所で幼稚園からずっと一緒にいる、いわゆる幼馴染というやつです。

なんか気づけば、いつも隣にいて、何かするにも一緒で、それが特別だとは思ってませんでした。


でも、中学に上がったあたりから、なんか、違うなって思うようになったんです。

たとえば、前より少し髪が長くなったなとか、笑うときの声が柔らかくなったなとか。

そんな、誰も気にしないようなことが、ぼくには全部特別に見えたりして。

クラスでほかの男子と話してるのを見ると、なんか胸の奥がざわついたりして。


高校に上がってから自分でもだんだんこの気持ちの正体に気が付いてきて、

これは「友達」に持つ思いなんかじゃないっていうことがわかってきて。

だけど、怖かった。「幼馴染」っていう言葉が、壊れるのが。

もしぼくがこの気持ちを言葉にしたら、彼女はどうするんだろうって。

笑ってくれるのか、それとも距離を取るのか。

もう想像するだけで、息が詰まる思いがしていたんです。


だって、彼女は成績はずっと学年上位で、運動もできる。中学ではテニス部の部長もしていた。それに比べてぼくは成績も良くて中の上、運動も普通。小学校からやってるバスケだってどんなに頑張っても、一度もレギュラーになれたことはない。

外見も身長は170センチそこそこだし、細見でヒョロっとしてるし、顔だってイケメンとはいいがたい・・・というより普通。

家も彼女の親は医者でお金持ちで、僕の親は普通の会社員。

なにもかもがぜんぜん釣り合わない。

そんな僕が告白したって、一緒にいる時間が長い分、彼女も困るんじゃないかってそう思ってたんです。


あの日までは・・・


あの高校1年生最後の日、終業式が終わって帰り支度をしているとき、鈴奈に声をかけようと思ったら、教室を見渡しても彼女はいなかったんです。

そしたら、彼女の友達の野口 心結(のぐち みゆ)と渡辺 梢衣(わたなべ こずえ)が話してるのがちらっと聞こえたんです。

彼女がサッカー部の1年生のエース 野 孝黎(ひばりの こうり)に呼び出されたって。

場所はいまは使われていない3階の一番東側の教室。正門から一番遠い場所。

告白する場所としては校舎裏の次に有名な場所。

それにサッカー部の野(ひばりの)といえば、全国でも通用すると言われているエース。

優秀な選手でチームを勝利に導く司令塔。おまけに超イケメンで成績も超優秀。

ぼくもまあまあ仲のいい同級生で、普段の性格はすごく穏やかで優しい。

親は確かどこかの会社の取締役とか言ってたような・・・

確かに彼なら鈴奈に釣り合うかもしれない。

そして、そんな男子に告白されたら・・・絶対落ちるに決まってる。

終わった・・・・・そう思いました。


ぼく、何やってたんだろう。

ずっと隣にいたのに。

放課後に一緒に帰って、笑い合って、コンビニ寄って、そんな日々を「当たり前」だと思ってた。

「幼馴染」っていう言葉の下に、ずっと隠してたんだ。

気づかれたくない、でも忘れたくない気持ちを。

それでも「幼馴染」って言葉に逃げて、本当の気持ちを誤魔化してた。

それが、こんな形で自分に返ってくるなんて。


もう鈴奈と一緒にいられない?


他の誰かが鈴奈に想いを伝えるっていうのを聞いた瞬間、ぼくの全部が壊れた。

胸の奥が締め付けられて、息ができなくなった。

嫉妬なんて、ぼくには関係ないと思ってたのに。

こんなにも怖いんだなって、鈴奈が誰かのものになるって想像するだけで。


気づいたら、足が勝手に動いてた。

廊下を走って、角を曲がって、

夕焼けの光が差し込む階段を駆け上がる。

息が苦しい。けど、止まれない。

「もう、間に合わないかもしれない」

そう思った瞬間、胸が焼けるように痛くて。

自分がどれだけ鈴奈を想ってたか、やっとわかった。


廊下の先、夕焼けの光が長く伸びている。

走るたびに靴音が反響して、胸の鼓動と混ざっていく。

息が苦しい。それでも、絶対止まらない。


「もう遅いかもしれない」——そんな言葉が何度も頭をよぎる。

でも、それでも行かなきゃ。

その場所に行って、鈴奈に言わなきゃ。


階段を駆け上がる。

見慣れた廊下、放課後の匂い、窓の外の空の色。

すべてがいつもと同じなのに、

今だけは違って見えた。


曲がり角を抜けた先、一番東の教室の夕焼けの光の中。

鈴奈がいた。

そして、その前にあいつも。


二人の間に流れる静かな空気。

ぼくの足音に、鈴奈がはっと顔を上げた。


一瞬、世界が止まった。

何も考えられなくて、気づいたら声が出ていた。


「ちょっと!……待って!」


息が荒くて、喉が焼けるように痛い。

けど、それでも言葉を続けた。


「ぼく……ずっと言えなかったけど、

 鈴奈のことが好きだ!」


震える声。

でも、心の奥の迷いはもうなかった。


「誰かが鈴奈に想いを伝えるのを聞いて、

 初めて気づいたんだ。

 ぼく、本気で鈴奈が好きなんだって」


鈴奈が驚いたように目を見開いて、

ほんの少しだけ笑った。

それが涙ぐんでいるように見えて、

胸が締めつけられた。


「ごめん、遅くなった。

 でも、どうしても言いたかったんだ。

 鈴奈の隣にいたいって」


風が吹いて、鈴奈の髪が揺れた。

その瞬間、鈴奈の口がゆっくりと動く。


「もぉ~なによ……遅いよ、バ~カ。。。。」


その声を聞いた瞬間、

すべてが報われた気がした。

息も涙も、もう止められなかった。


鈴奈が笑ってくれる、それだけでいい。

今日、やっと言えた。


「好きだ」って。

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