終末世界で"掃除屋"やってます。 in ゾンビ・アポカリプス

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一章

【プロローグ】

 


 西暦20XX年──世界は終わりを迎えた。


「きゃぁぁっ!!」

「やめ、来るな!ひっ……ぐあぁぁぁ……」

「ガァァァァッ!!」


 阿鼻叫喚。絶叫と混乱。飛び散る赤い飛沫。

 死者が生者に襲いかかり、感染を広げる負の連鎖──

 《死の災厄》──いわゆるゾンビパンデミックが人類を襲ったのは、三年前の夏だった。

 人類はどうしようもなく絶望的な状況に追い込まれた。

 だが、そんな地獄を生き延びた者もわずかながら存在している。


 俺──早坂はやさか じんもその一人。

 ……と言っていいものか。

 正確に言えば、俺はもう普通の人間ではない。

 感染後、ウイルスに体が適合したからだ。

 半分ゾンビの《亜人デミ・ヒューマン》。

 それが今の俺だ。

 俺みたいな存在を「生き残り」にカウントするか、「バケモノ」と呼ぶかは人によるだろう。


 だが、他人がどう思うかなんて、考えたってしょーがない。

 現実は変わんない訳だし。

 だから、俺は自分を"人間"だと思うことにしていた。

 自分が何者かを決められるのは、自分だけ。

 同じく《亜人》だった恩人の教えだ。

 俺はその教えを心に刻んで、終りかけた世界を生き延びてきた。


 そんで色々あったけど。

 平凡な大学生だった俺は、終末世界で“掃除屋"をやっている。



 ◇◇◇



 あの日、世界の崩壊は突然やってきた。

 まさに青天の霹靂ってやつ。

 とあるウイルスが研究所から漏れだしたことが原因だった。


 だが、そのウイルスが人類の脅威になるなんて、当時は誰も思ってなかった。というか、むしろ逆で。

 ギリシャ語で「楽園」の名を冠したウイルス──《エデムウイルス》は、不老不死を叶えるかもしれない奇跡の新薬として、世界中から脚光を浴びていた。

 ニュースを見ない俺でも知ってたくらいだから、相当有名だったんだろう。


 開発したのは、ゼノス・バイオテック。

 世界的な製薬企業だった。まあ、かつては、だな。

 その研究には、《プロジェクト・エデム》と名前がつけられていた。

 研究内容をざっくり要約すると、「遺伝子改変したウイルスを体内に取り込むことで、不老不死に近い体になれる」というものだった。


 曰く、細胞の老化を止める。

 強靭な肉体に作り変える。

 再生力を飛躍的に高める。


 これが実現すれば、人類は寿命や老化から解放されるかもしれない、という触れ込みだった。


 《エデムウイルス》の開発プロジェクトは順調に進んでいると誰もが思ってた。

 動物実験も成功し、次はいよいよ人への投与──計画の最終段階へ。

 そうして人類は、不老不死に王手をかけた……はずだった。


 だがここにきて、《エデムウイルス》に予期せぬ変異が起こる。

 不老不死をもたらすはずのウイルスは、おそるべき能力──すなわち、人間を“死なない怪物”に変え、感染を拡大させていく、という性質を獲得してしまったんだ。

 ウイルスは感染者を狂暴化させ、理性を奪い、非感染者を襲う。

 そうしてあっという間に感染が拡大。

 人類の夢は、自らを喰らう悪夢となった。


 当然、ゼノス社の連中はパニックに陥った。

 ここで正直に公表し、まともに対策すれば良かったものを、あいつらは考えうる限り最悪の手段を選んでしまう。

 要は、隠蔽を図りやがったのだ。


 当然、ゼノス社の証拠隠滅は失敗に終わった。

 奴らが保身に走ってる間に、世界中で感染が拡大。

 パンデミックが始まってからの半年で、全人口の八割が消えた。

 ……不老不死を望んで世界を終わらせるとか、皮肉が利きすぎて笑えねーよ、本当にな。


 各国の政府は機能不全に陥り、水や電気は途絶えた。

 あらゆる通信は使えなくなり、情報伝達の手段は江戸時代以下のアナログに戻った。

 都市部は、ゾンビが徘徊する死の街と化した。


 そうして人類の文明は滅びた。


 愚かとしか言いようがないが、歴史とはきっとそんなものの繰り返しなんだろう。

 この先、人類に未来があれば、の話だが。


 ……まあ、そんな終末世界でも、生き残った人々は逞しくも何とかやっている。

 これは、そんな人間たちの物語だ。


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