第22話 架け橋
翌日の午前中。
リナは隊長室に呼び出された。
「シヴァ。何か御用ですか?」
「リナか。まあ、座れ」
リナはシヴァに言われて椅子に座る。
「リナ。もうすぐ研修期間が終わる。そのためお前に訊いておきたいことがある」
「はい。何でしょうか?」
リナは姿勢を正した。
「リナはなぜ十六夜になりたいのだ?」
「はい。父が十六夜だったことも影響が大きいでしょうが、私は小さい頃日本国で育ちました。日本国で学校に行ってた頃日本人と帝国人のハーフということでいじめられていたんです」
「それで?」
「父に相談したら『馬鹿にする奴より身も心も強くなれ。お前の体には誇り高き日本国と第二日本帝国の両方の血が流れているんだ。自分のことを誇れるように努力しろ』と言われました」
「なるほど」
シヴァは何か考えながらリナの話を聞いている。
「私が得意なのは武術でしたから武人になろうと決意したんです。日本国でも第二日本帝国でも武人は尊敬と憧れの存在でしたから」
リナは少し間をおいて話の続きを言う。
「でも十六夜の仕事をするようになって第二日本帝国のことを知る度に日本国と第二日本帝国の架け橋に自分がなれたらいいなと思います」
「架け橋か」
「はい。それは両方の血を引く私ならできるのではないかと。未だに日本国と第二日本帝国の間には文化の差があり差別意識を持つ者もいます。一つの国なのにそれは悲しいことです」
「そうだな。第二日本帝国は日本の一部だが未だに我々帝国人を『異界人』として見る者もいる」
「ええ。だからその差別意識を無くす手伝いをしたいのです。十六夜に純粋な帝国人以外が採用されたのは初めてですし女性が採用されたのも初めてですし帝国は少しずつ変わる必要があると思います」
「リナにはそれができると?」
「できるかどうかは分かりません。でも努力するつもりです」
リナは真っ直ぐな目でシヴァを見た。
その瞳に曇りはない。
「なるほど。リナの意志は分かった。近い内に正式採用かどうか決まると思うから最後まで気合い入れて頑張れよ」
「はい。ありがとうございます」
リナは頭を下げて隊長室を出て行く。
シヴァは溜息をついた。
日本人と帝国人のハーフに生まれた者にしか分からない苦労をリナはしてきたようだ。
それでもリナは日本国も第二日本帝国も好きらしい。
帝国人はこの世界では同じ帝国人か日本人との間にしか子供が産まれない。
それがなぜなのかはまだ原因は分かっていない。
リナのような存在は貴重だ。
リナも言っていたとおり日本国と第二日本帝国の架け橋に彼女がなってくれるならこんなに喜ばしいことはない。
シヴァはリナの正式採用の書類を完成させると皇帝の決裁を貰いに皇帝の執務室に向かった。
シヴァは皇帝の執務室の扉をノックする。
中から扉が開き当番のケインが顔を出してシヴァを確認して陛下に声をかける。
「陛下。シヴァが来てますが入室させてもいいでしょうか?」
「ああ」
陛下の許しを得てシヴァは皇帝の執務室に入る。
「どうした?シヴァ」
「はい。陛下。リナ・キサラギ・ファインの十六夜の正式採用の件について報告書をお持ちしました」
「ああ。そうか。もう研修期間が終わるのだな」
シヴァはネアルダークに書類を渡す。
ネアルダークは報告書に目を通すと書類を机に置いた。
「なるほど。六武衆のメンバーは全会一致で正式採用に賛成か」
「はい。戦闘技術も十六夜として申し分ありませんし。女性であるリナを十六夜に入れるメリットを考えると正式採用がよろしいかと」
「そうだな。女性の活躍は今後増えて行くだろうしな」
そう言うとネアルダークは書類にサインする。
その書類はリナの正式採用の決定文書だ。
「リナは十六夜に正式採用するとする。今後も精進せよと伝えよ」
「は!承知いたしました」
シヴァは決定文書を受け取り執務室を退室する。
シヴァは決裁の下りた決定文書を手にリナの喜ぶ顔を想像して自分自身も喜んでいることを自覚せざる負えなかった。
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