第2話 大韓民国
亜音「無事に飛び立てたわね」
粉雪が舞い始めた中、無事に香港行きの315便は飛び立った。エーテルの流れが止まったためか、気流が乱れないのはありがたい。
さて、香港までは3時間。機内で再度状況をチェックしておこう。
***
まずは、エーテルが止まったことで、それを力の根源とする魔術使いの能力が弱まった。
ーー久音姉さん
幻影系の魔術を使えるのだが、元々根源はエーテル。つまり、今は魔術に関しては無能だ。
久音「ヒドイですぅ〜」
ーーマヤ
元々魔術士の血筋で、エーテルなどは関係無しに才能がある。フルに能力を使える貴重な存在だ。日本の守護者として残してきて正解。
ーーロイズ
クィンシーだが、そもそも魔術が使えない。
論外……でも、最強超人だから心配は皆無だ。
ーーユーレカ
元々身に付いていた援護系魔術は使える。が、エーテルの生み出すゲートを利用した転移の魔術は使えない。
ーーカティー
彼女も元々身に付いていた千里眼の魔術は使える。が、エーテルを起源とした回復系の魔術は使えない。ちなみに、ゲームプレイに関しては魔術はご法度の超堅実派だ。ゲームの腕には支障は無いだろう。とは言え、全く意味は無いけれど。
ーージル
ジルが魔術を使ったところは見たことが無い。そもそも、アサシンブレードを使った暗殺を得意としているから、戦力としては問題無さそうだ。
ーー先輩
正直、全く予想がつかない。
恐らくエーテルが無くても最強…かも。
ーーイライザと綾音さん
イライザは強化系魔術を使っていたが、ほとんど補助的。本職はガチガチの傭兵だから、基本は物理攻撃専門なので心配無い。綾音さんも同様。
***
亜音「と、言うことで、私と姉さんは物理攻撃オンリーのメンバーなわけですよ」
久音「ですねぇ。だから武器さえ手に入れば何とかなりますよ~」
窓の外を見るが、特に変わった感じもない。穏やかな雲海と昼の太陽が遠くに見える。
***
そして、私達の最終目的地は英国ロンドン。
エーテルの乱れの発端がそこにありそうなのだ。
姉さんの先輩さんの話だと、世界中の自然界に存在する微量なエーテルが、ゆっくりとロンドンに向けて流れているらしい。自然界のエーテルを吸収する存在は、“悪魔”と呼ばれているとの事。
そして、そこには一度滅んだはずの“ミストヴェイル財閥”が街を再建して、事実上ロンドンを乗っ取っているとの事。その急速な復興も、怪しさ満載なのだ。
だが、現在はこのおかしな気象の中で、航空機の飛行距離規制がかかってしまっている。その為、日本からは香港までが精一杯なのだ。
だったのだが……
***
私達の乗ったA315便は、飛び立って間もなく、香港では無く韓国の釜山国際空港へ緊急着陸してしまった。
機内放送では、計器の故障との事で、別の便を待つ事になりそうだ。
久音「これは、磁場の影響だと思います。どうも平衡感覚が微妙におかしいというか…」
一般人には分からないが、数km先のターゲットを狙うスナイパーには、そのわずかなズレが感覚で分かるようだ。
亜音「だとしたら、次の便は期待しない方がいいわね。まあ、海を渡って来れただけでも、良しとしましょうか」
そう、今は海路は使えない。
この異常気象で気流と海流が弱まったため、世界中の海上で濃霧が留まって船の航行が出来ない。それに、先ほどから起こりだした磁場の狂い。きっと航行システムも使えないだろう。
久音「でもここは韓国ですから、陸路を使うにも旧北朝鮮を抜ける必要がありますけど」
亜音「国が滅んで国境が無くなったとしても、物理的に厳しそうね。でも進むしか道はない」
数ヶ月前、ロシアから世界中に発射されてしまった弾道ミサイル。ほとんどの国が迎撃に成功した。そして、一過性のものに過ぎないと各国は判断し、報復攻撃は行わなかった。
ただ1国を除いて。
亜音「報復攻撃の繰り返しで、国土も滅茶苦茶だし、汚染は酷いし…まあ、ガイガーカウンターで確認しながらゆっくり進むしかないわね。別に海に沈んだわけじゃないんだし」
まずは移動手段の確保からだ。
鉄道は繋がっていない。と言うと、やはり車しかない。被害が少ないと思われる山岳路を進むか。
久音「車って、すぐ買えるものなんですかね?」
亜音「買えなければ奪えばいいのよ」
久音「それは…犯罪ですよぉ」
暗殺者が、なにかほざいている。
亜音「まあ、まずは今日寝るところね。その後、装備を整えましょう。車は最後」
***
ーー翌朝
釜山市内の高級ホテルに空きがあって助かった。
おかげで凍えること無く、夜を明かせた。
姉さんと2人、街の外れの雑居ビルの立ち並ぶ間を、縫うように作られた市場に来た。総菜とICチップが隣同士の露店で売られている。なかなかにカオスだ。
ここでガイガーカウンターや防護服を調達する。思ったよりも簡単に手に入った。隣国の惨事のおかげだろう。
亜音「あとは武器ね」
久音「では、首都まで移動しましょう」
クィンシーは世界中に独自の武器の調達ルートを持っている。当然、韓国にも。
タクシーで移動すること、4時間。
私達は首都ソウルに到着した。心做しか、空気が淀んで感じる。手元の仕入れたてのガイガーカウンターを確認する。800ミリシーベルト。まあ、大丈夫そうだ。
ふと、頭から全身すっぽりレインコートを被った人物がすれ違った。その瞬間、軽い目眩。ガイガーカウンターが一瞬で1500まで上がった。あの人、汚染されている……
亜音「マズイわね。ここは北朝鮮に近づき過ぎている。常に警戒しないと」
久音「そうですね。早く行きましょうか」
街の外れ、大きな川沿いにある倉庫のような建物に来た。裏口に周り、暗証番号入力式のドアの前に立つ。
姉さんがスマホを取り出して何やらメールを打って、ドアの上を見る。そこには薄暗い蛍光灯があったのだが、よく見ると隅に監視カメラのような物があり、微かに赤く光った。
すぐに返信があり、スマホ画面に映された番号を打ち込む。
久音「さあ、入りましょう」
中に入ってドアを閉めると、真っ暗な倉庫の中に明かりが灯った。
外から見た雰囲気とは完全に別物だ。白く照らし出された壁と棚には、アサルトライフルやハンドガンが無数に並ぶ。
亜音「まるでSFのスパイ映画ね」
姉さんはニコッと笑って「好きなものを選んでください」と言った。
***
姉さんは相変わらず、M700とM19 2.5inchだ。M700はロングレンジモデルとのことで、26inchバレル搭載の軍用精密狙撃用。
私はAM-17と、CZ shadow2。
本当はAKS74Uが使い慣れていて良かったのだが、流石に古すぎなのか置いていなかった。CZは、完全に趣味だ。
姉さんが部屋の奥からキャリングケースと大型のボストンバッグを持ってきた。その中に銃器とありったけの弾丸を詰め込む。
久音「これでいいですか?」
キャリングケースを抱えた姉さんが聞く。
私はボストンバッグを持って、無言で頷いた。
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