第6話 救済と依存

 事故のあとも、何度か奏多に呼び出された。

 仕事が終わってスマホを見ると、奏多からメールが来てた。


『助けて』

 ── は?


 仕方ないから電話する。……出ない。


「……なんだよ、マジで」


 ブツブツ言いながら電話を切ると、メールの着信が鳴った。

 見ると、奏多から知らない住所が送られてきてる。


 駅近のマンション。号室まで書いてある。


 ── “来い”ってこと?


 その日はバイトがなかったので、気は乗らないけど行くことにした。


 ── だって、内容が内容だし……。


 エントランスキーが開いて、部屋の前まで行く。

 扉を開けると、よろめきながら、奏多が前のめりに倒れてきた。


「……どしたの?」

「……殴られた」


 ── え?


 そのまま部屋の中に押し込み、シャツをめくる。身体のあちこちが赤く腫れている。


「マジか……」

 出た言葉が、それだった。


「どうする? 湿布ある? それとも病院?」


 すると、力なく首を横に振った。

「……湿布、ない……」


 仕方ないから、そのままバイクに乗せて病院まで連れて行った。


 後ろで何か言ってたが、聞こえなかった。


 ── というか、俺、何やってんだろ。


 エンジンの音が、沈黙を飲み込んだ。


◆◆


 とりあえず、ケンカという内容で受診した。

 腫れてはいたが、骨折はなかった。

 帰りにコンビニに寄って、奏多の部屋に戻った。


「こういうの、よくあるの?」


 そう聞くと、奏多は少し俯いて、小さな声で話し始めた。


「事故のこと、聞きにきたんだ。義兄が道路に突き飛ばしたって言った。

 そしたら、原因作った俺が悪いって」


「は? いや、あれはどう考えても突き飛ばした方が……」


 俺の言葉に重ねるように、奏多が早口で言った。


「下手に大事にして、こんなことが世間にバレたらどうするんだって、一番上の義兄が」


 半分泣きそうな声で、奏多が状況を説明した。


「いや、お前悪くないって……」

「そう言ったよ! そしたら反抗するなって……殴られた」


「いや、それにしても、一発じゃなくて何発もって……」


 ── うーん……。


 状況がわからなすぎて、俺は言葉を失った。


「……なあ、この部屋、室内カメラとかないの?」

 俺がそう言うと、奏多が驚いた。


「え?」

「だって、そんなんなら、証拠あった方がいいじゃん。お前、金あるんだし。付けとけよ」


 奏多はしばらく黙ってから、小さく言った。

「……そうする。いつ行きます?」


「は?」

 ── 俺も一緒に買いに行くの?


 と言っても、コイツ頼れる人いなさそうだし……。


 ため息を吐いて、頭を掻く。


「わかったから。バイトがない日な」

「はい!」

 奏多の声が、少し明るくなった。


── 俺はコイツに、どこまで付き合われるんだろ。

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