恋が下手な私が新社長に本気の恋をした

yuzu

第1話

 



「真那、俺たち別れようか。」







 その言葉を聞いた瞬間、

世界はほんの数秒だけ、静止した。


 ショックだったわけじゃない。

 彼を引き止める方法を考えたわけでもない。


 ——私自身、その言葉を何度彼に告げようとしたか、数え切れないほどだったから。



 静寂を破ったのは亮介かれの方。


 別れを切り出されたのは私なのに

傷ついた様な表情を浮かべているのも彼の方。


(この場合、悲しいのは私じゃないのか?)


という疑問はさて置き……。




 冷え切ったカフェオレを飲み干すと、薬指にはめていた指輪を何の躊躇いもなく外して、テーブルの上に置いた。



 




 付き合って2年。

亮介は多分本気じゃなかった。


 理由は簡単。

付き合うきっかけはグループ交際の余り者同士。

「どうせ余ってるし俺たちも付き合っとくか。」

それが亮介からの告白提案。しかもチェーン店で牛丼を食べてる時。


「まぁいいけど。」

 適当な告白に対しての私の返事だって、そんなふうに適当だった。

後々に盛大な後悔をするとも知らないで。




 恋人らしい何かがあるとしたら付き合って最初の誕生日に、「これ、景品」と渡された、おもちゃみたいなシルバーリングとアパートの合鍵ぐらい。


 お互い仕事が忙しくて、デートらしいデートは殆どしたことが無かった。

……同居人に近い関係だったかもしれない。


 でも、私は私なりに、亮介の事は好きだった。じゃなきゃ、付き合ったりしない。


 スマホのロック画面には、職場のグループトークの通知が流れる様に増えていく。明後日開催する、新社長お披露目の為のレセプションパーティについてだ。


 はやく戻って資料の最終確認がしたかった私は、俯いたまま震える亮介に言った。

「じゃあ…私戻るね。今までありがとう。」

 席を立とうとする私の腕を掴んだ亮介は、眉間に皺を寄せ、睨む様に私を見ていった。


「結婚しよ。両親に結婚して家を継げって言われてる。 」




 ホラーでしか無いと思った。





 「なにそれ…私たち今、別れ話した後だよね?」


 訝しげな顔をした私に、亮介は苛立ちを含んだため息を短く吐いた。


「試したんだよ、オマエの気持ち。

 別れたくないって縋ってきたら結婚してやるって伝えるつもりだったんだけど。」


 「は?」


私は亮介との結婚を望んでないのに。




「母さんがもう隠居したいんだって。」


「え?」


「だから!母さんが嫁貰えって!農家継いで孫の顔見せろって言われたんだ。継がなきゃ仕送りもしないって…いいよな真那。」






やっぱり亮介は適当だ。(良いワケ無い)















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