救国のBASIC
竹笛パンダ
おっさん、お歳暮になる
第1話 名誉部長
僕は、大手IT企業に勤めていた。コンピューターとはもう40年以上の付き合い。
主な仕事はパソコンのソフトにVBを組み込んで、業務改善をすること。これでも頑張ってきた方なんだけど、時代にはすっかり置いていかれて、もうついていけなくなった。
昔僕がプログラミングしたマクロも、今じゃ当たり前のように使われて、もっと便利に更新されている。
新しいプログラミング言語も開発されて、もはや僕のところに相談に来る人もいなくなった。
だから今では、若い人たちの仕事を眺めているだけの、「名誉部長」なんだ。
「はあ、もう役には立たないのだな……。」
いつもの帰り道、とぼとぼと一人で歩いていると、横断歩道で暴走車が突っ込んできた。
その瞬間、死を覚悟した……。
「割と人間って、あっけなく死ぬんだよな。」
【HLA型一致 魂の過去は「イイヅカハルノブ」】
「うそ、なんで55年物を選ぶかな。」
【情報演算能力 Sクラス 取り扱い言語 BASIC】
「BASIC? マイクラの時代に? それしかできないの?」
【選定理由:ニューロ経路パターンが理想的な制御構造を形成可能】
【NEWMON推定:10年以内に対象が指導した文明は3.5世代進化】
「まあ、脳筋世界じゃ、それぐらいがちょうどいいわね……。」
ふと、そんな声が聞こえた気がして僕は目覚めた。
「……何だ? ここ。」
そりゃ、確かに僕が「おじさん」と言われるようになったころには、生活にコンピューターがかかせなくなっていたよ。
でも、まさか神様までスパコン使ってるなんて。
なぜかそこに、8畳ほどの畳の部屋にこたつ。ミカンと古いテレビがあった。
スパコンとは似合わない部屋に、どてらを着た美少女がこたつに入っていた。
「管理人室」って、ここの……かな?
宙に浮いたウィンドウ画面には、横断歩道の映像が流れていた。
「さっきまであんたがいたところだよ。
横断歩道にいたあんたは、今は存在しない。
会社にももう存在しない人になっている。」
「どういうことでしょうか?」
「あの世界でのあんたの役割はもう終わったの。
さっき自分でも言っていたじゃない。
『もう、役には立たないのだな。』って。」
「ええ、たしかに。」
「だから、あんたには違う世界で役に立って欲しいわけ。
ちょうどあんたみたいのを探してくれって依頼があったのよ。
そしたらスパコン『KAGUYA』が、あんたがいいって答えを出したのよ。」
【両親死亡・未婚・社会的孤立・感情劣化・退職間近・窓際名誉部長】
「うわ、ぼっちの要介護フラグじゃん……でも効率はいいか。」
「はぁ?」と僕は疑り深い顔をしていた。
それがわかったかのように、少女は話を続けた。
「あたし? あたしは神の電算室の管理人、かぐやだよ。
ほら、あんたって独身で両親も他界したボッチでしょ。
会社でも特にやることもなく、いるだけ部長だったし。
会社から家に帰って寝るだけの生活をして、いなくなっても最小限の影響で済むでしょ。」
「いや、確かにそうですけど。
これはいったい何が起きているのでしょうか。」
「あ~っ、面倒ね。
いい、あんた。
AIの「NEWMON」を使って、KAGUYAがHLA型解析して、一番被害が少ないやつ探したら、アンタだったわけ。」
「はまり役か? ついに!」
「大好きな冒険ファンタジーの始まりと言ったらこれでしょうが。
異世界転生の定番展開、お約束のやつ。
わかった?」
「ああ、ついに神に選ばれしものになったのですね。」
「ちょうど影響が最小限な人物を探し当てただけよ。
そのほうが助かるから。」
「それで……神は我に何を望むか。」
【精神不安要素 加算】
「あんた、人を上手に使っていたわね、パソコン使って。」
「業務省力化です。」
「あんたが仕事をすると、人が上手に動けるようになるじゃない。
自分の世界にもそういう知恵者が欲しいって、異世界の神様やっている娘が言うのよ。
誰かいい人いない? 紹介してって。」
【適合者にして影響最小限 やや言動に難あり 厨二気質にも適合】
「ほっとけ……。」
「まぁ私もその娘には世話になっているし、ここで恩を返しておきたいのよ。それであんたを贈るのよ、ちょうどお歳暮のシーズンだし。」
「はい? で、お歳暮ギフトの僕は具体的に何をすればよろしいのでしょうか?」
「あんたが行くところはね、力こそがすべてという価値観が支配するところで、上手に文明が発達しないのよ。
魔法があって、便利な生活にすっかり慣れてしまって、現状で満足してしまうの。
だから、若者としてその世界で暮らして、刺激がほしいのよ。
もちろんあんたの知識を生かしてね。」
「わかりました。
それでは行きましょうか。」
「まって、あなたは15歳で王都の官職の試験を受けるの。
名前はそうねぇ『カイト』はどうかしら。
平民だから苗字はないのよ。」
「15歳で『カイト』……ですね? どうしてその名を?」
かぐや様はテレビのリモコンを操作した。
映し出されたのはアイドルグループの美少年達。
ああ、なるほどね。
「かっこいい名前を頂戴し、ありがとうございます。」
「でしょ、でしょ?
それじゃ、がんばってね。」
僕の周りに光の粒が集まった。
それはやがて僕を包んで、飛ぶように僕を連れ去った。
気が付くと森の中にいた。森を抜けると、目の前には大きな城壁がそびえていた。
「そう言えば官職の試験に行くのだったな。」
服装は普通の布の服にマント、腰には皮の袋が下がっている。
「武器は、なしか……。」
僕は大きな城門に向かって歩いて行った。
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