16.「二つの手掛かり(2)」

 マヴァヌのアジトが火山の中にあると聞いて、驚愕に目を剥く仲間たちの中で、僕は口角を上げる。


「ぐへへ。魔法に長けたダークエルフで、しかも魔神を復活させるほどの腕を持ち、尚且つ千歳を超える猛者だ。マグマや炎など、熱に対する耐性を魔法で会得しているのかもしれん」

「確かに、それが出来れば、天然の最強要塞になるし……」


 同じダークエルフとして、カカスが複雑な表情を浮かべる。


「二つ目ですが、こちらは、アジトではなく、とある重要人物の情報です」

「重要人物っすか?」

「はい。その人物は、ベーダイン皇国の南隣の国――ロマスニズリ王国に行けば会えるらしいのですが」


 頷くと、メイフォルさんは言葉を継いだ。


「〝ダークエルフ探しのプロ〟だそうです」

「!」


※―※―※


「ぐへへ。有益な情報、感謝する」

「本当、ありがとうっす!」

「いえいえ、微力ながらお力になれたなら光栄です!」


 メイフォルさんに挨拶した後、彼が扉を閉める直前に。


「無事に辿り着けると良いですね……フフフッ」

「い、今笑ったっすよ! あの商人みたいに!」

「ぐへへ。俺様たちの力になれて嬉しかったんだろう。気にするな」

「うう……そうっすかねぇ? まぁ、確かに他ならぬあのメイフォルさんっすもんね……」


 そんなやり取りをしながら、僕たちは帝都を後にした。


※―※―※


「ぐへへ。待たせたな。飯だ」

「一杯食べてね!」

「ガァッ!」

「ゴアッ!」

「グルッ!」

「ピイッ!」


 実は、三時間の待機中に、中央通りの複数のレストランに頼んで、ばかでかいステーキを大量に頼んでおき、メイフォルさんと別れた後に僕はそれらを受け取り、風魔法で一緒に飛びつつ、城外へと運んだのだ。


 透明化を解いたブラドラ、ベベア、フェリリ、グフォンが夢中で齧り付く。

 

 本当、ドラゴンが部下って、悪役っぽいくて良いよね!


※―※―※


「ぐへへ。ここからは、当初の予定通り、二手に分かれる」

「サユ、二人っきりだからって、ヴィラゴさまに手を出しちゃ駄目よ!」

「ハッ! 胸からして淫乱間違いないからねぇ。油断も隙もあったもんじゃない」

「夜の相手をして欲しければ、ナフィがいくらでもしてあげるの! だから、ヴィラゴさま、淫乱女と浮気は駄目なの!」

「自分はサユのことよく知らないし。でも、確かに、淫乱そうな見た目してるし!」

「みんな、自分のこと何だと思ってるっすか!? 一応勇者っすよ!」


 レピアたちに好き放題言われて、心外だとサユが抗議する。


「……二人きりじゃないワン……我もいるワン……」


 どこか切なそうに、魔王ターサが呟いた。


※―※―※


 その後。


 レピア・ファーラ・ナフィ・カカスが、レイビット帝国の西隣のリンティグーデ皇国の火山へと向かった。


 レピアの氷魔法でマグマを全て凍らせて、その上で内部に侵入する、という寸法だ。


 そして、僕・サユ・魔王ターサが、ベーダイン皇国の南隣の国であるロマスニズリ王国へと向かうことになった。


※―※―※


「ぐへへ。到着だ」

「はぁ、はぁ、はぁ……恐ろしく速かったっすね! 風圧で呼吸がし辛かったっすよ!」


 大空を超高速で飛翔するブラドラのおかげで、馬車ならば一週間は掛かる道のりを、数時間で到着できた。


「もう、すっかり夜っすね」

「ぐへへ。俺様たちが行く場所のことを考えると、時間としては丁度良い」


 ロマスニズリ王国王都の手前でブラドラには透明化してもらい、待機を命じた。


 城門で銀貨一枚を通行料として支払い、王都の中へと入る。


「まずは宿っすよね? えっと、その……自分は別に、同じ部屋でも良いっすよ?」

「いや、取り敢えずは目的の店へと行く。宿は後だ。それと、俺様とお前は勿論違う部屋だ」

「あ、そうなんすね……」


 溜息をつくサユ。

 きっと、悪役貴族の僕と同じ部屋にならなくて良かったという、安堵の溜息だろう。


「ぐへへ。では、行くぞ」


 メイフォルさんの情報によると、場末の酒場〝フェイタル・エンカウント〟に行けば、〝ダークエルフ探しのプロ〟と出会えるとのことだった。


 その人なら、ダークエルフであるマヴァヌも見付けられるのではないか、ということだ。


「ぐへへ。中々趣のある外観だな」

「有り過ぎっすよ!」


 中央通りの煌びやかな店とは違って、寂れた印象のその酒場は、〝フェイタル・エンカウント〟という看板が老朽化で斜めになり、取れ掛かっている。


《〝ナイフで斬られて失血死エンド〟のフラグが立ちました。気を付けて、ヴィラゴ! ただの酒場だと油断しないで!》

「うん、分かった! サポさん、教えてくれてありがとう!」


 脳内に突如響いた声に対して、僕は口の中で小さく返事をする。


「……はぁ……好きなとこに座りな……はぁ……」


 薄暗い店内に入ると、カウンター内の店主らしき老婆が、気怠そうに呟く。


 こちらは犬を連れているというのに、全く気にする様子もない(メイフォルさんと会った帝都では、犬も入店可のレストランは限られていたのだ)。


 メイフォルさんに言われた通り、一番奥のテーブルにつく。


「……はぁ……うちはこれしかないからね……銀貨二枚出しな……はぁ……」


 頼んでもいないのに、エールが二杯来た。

 銀貨を渡すと、老婆は杖をつきつつ、気怠そうにカウンター内へと戻っていく。


 他に客はおらず、いるのは客に興味が無さそうな店主の老婆一人。

 確かに、ここなら、誰かと密会するには適しているかもしれない。


「自分、まだ未成年っすから、お酒は絶対に飲まないっすからね!」


 こんな時まで、サユは真面目だ。


「ぐへへ。問題ない。俺様たちがここに来たのは、あくまで、〝ダークエルフ探しのプロ〟とやらに会うためだからな」


 実は、メイフォルさんに聞いた〝ダークエルフ探しのプロ〟に会うための条件は、この場所以外に、もう一つあった。


 それは、〝ダークエルフの仲間を連れていくこと〟だった。


「ダークエルフを探してるのに、〝ダークエルフ探しのプロ〟と会うためには別のダークエルフを連れていかないといけないって、滅茶苦茶っすよ!」


 その条件を聞いた直後にサユがした指摘は、もっともだった。


「それなら、あーしが行くし!」

 

 カカスがそう提案してくれたのだが、「いや」と、僕は首を横に振った。


 まず、僕らの部下のモンスターたちの中で一番機動力があるのが、ブラックドラゴンなので、二つの内より遠い南方の国に行くには、ブラドラが適任だ。


 が、彼は僕の部下であり、僕が一緒にいるのが望ましい。


 とすると、僕とカカスが一緒に行くことになるのだが、そうすると、呪術魔法を使える者が各グループに一人はいないといけない、という条件をクリアするためには、もう一つのグループに魔王を入れることとなる。


 無論、仲間たちに危害を加えられない、という呪いは掛けてあるが、一応監視という意味も込めて、魔王は僕の傍に置いておきたい。


 どうするべきかと思っていたが、ふと、その時妙案を思いついた。


「ぐへへ。お前、犬に変化しているってことは、変身魔法が使えるんだよな?」

「我を誰だと思っているワン? その程度、出来ない訳がないワン。しかし、貴様に力を貸してやる義理はないワン――ワオン! 骨だワン! ……ハッ!」


 呪いの力によって魔王ターサを従わせた僕は、彼の力で自分とサユをダークエルフに変身させる、という計画を立てた。


 ちなみに、魔王ターサは犬のままで、ダークエルフには変身しないようだ。


 他者へは使えるが、僕たちに敗れて死に掛けた際に〝とある姿〟になるのを回避するために選んだこの犬の容姿は、そう簡単に変えられるものではないらしい。


「その〝とある姿〟ってのが、よっぽど嫌なんすね。そんなにかっこ悪いんすか? みんな気にしないと思うっすよ? それに、『こんな見た目は自分だけだ』、って思っても、案外、他にもそういう見た目の人はいるかもしれないっすし」


 それは、勇者が魔王に優しい言葉を掛けるという不思議な光景だった。

 本来犬猿の仲のはずだが、少しずつ距離が近付いている感じがする。


 魔王ターサは意外な返答をした。


「見た目の問題ではないワン。むしろ、人間どもは〝美しい〟と言うだろうワン。だが、そういう問題じゃないワン。あの姿は、我にとっては忘れたいものワン。それと、〝他にもそういう見た目の者が何人かいる〟のは、分かっているワン」


 よく分からないけど、まぁ、無理強いすることでもないしね。


「ヴィラゴぉ~、自分のこと、どう思ってるっすかぁ~?」

「!?」


 声を掛けられて、意識が現在に戻る。

 さっきまで対面だったサユが何故か僕の横に座っており、その顔は真っ赤で、目がとろんとしていた。


「ぐへへ。完全に酔ってるな。さてはお前、飲んだな? あれだけ飲まないと言っていたのに――」


 って、全然飲んでない!


 え?

 もしかして、匂いを嗅いだだけ? それで酔うの?

 酒に弱いってレベルじゃないよ、それ!


「全然酔ってないっすよぉ~!」


 いや、酔ってる人の台詞!


「そんなことより~、自分のこと、どう思ってるっすかぁ~? 確かに自分は勇者っすけどぉ、自分だって女の子なんすよぉ~?」


 ……うん、取り敢えず放置して、仕事をしよう!


 無視するって、すごく悪役っぽいしね!


「ぐへへ。ターサ。やれ」

「じゅるり。魔王遣いが荒い人間だワン。仕方がないワン」


 革袋の中の骨をチラつかせると、涎を垂らしながら、魔王ターサが応じた。


「『変身トランスフォーメーション』!」


 ターサの声に呼応して、僕たちの姿が、人間からダークエルフへと変化する。


 カウンターの老婆は、特に反応しない。


 よし、これで、条件は揃った!

 でも、ここからどうするんだろう?


「ヴィラゴぉ~、話聞いてるんすかぁ~? んちゅ~!」

「!」


 ダークエルフになって更に美少女振りに磨きが掛かったサユが、僕に抱き着き、柔らかそうな唇が迫る。


 ま、待って――


「死ぬのだ、ダークエルフうううううううううう!」

「!」


 突如テーブルに、ハイエルフの少女が出現、サユを庇った僕の頭に、ナイフが振り下ろされた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※


(※お読みいただきありがとうございます! お餅ミトコンドリアです。


現在、カクヨムコンテスト11に参加しています。

もし宜しければ星と作品フォローで応援して頂けましたら嬉しいです!

https://kakuyomu.jp/works/822139838006385105


何卒宜しくお願いいたします!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る