アーディア・アーカイブは静かに微笑むⅡ


 左腕には満足に動かない程の管。酸素マスクも付け、リクライニング状態の車椅子に横たわりながら、リッサは過学兵器を操作する。この苦境は、リッサからの情報不足が招いたとリッサ自身が思っている。せめて戦況を打開する為の武器の供給くらいはしなければならない。


「病弱ちゃん、無茶はしない方がいい。死ぬよ」


 横に付いているニーデンは痛々しい物を見る様にリッサを見ている。

 彼女の病魔について一番把握しているのはニーデンだ。現時点がどれ程不味いか把握しているし、どれ程の痛みかは想像も付かない。


「ニーデンさん。ボクの夢ってね、死に方の話なんだ。長生き出来ないのはわかってるからさ」


 ニーデンは知っている。リッサに竜宮城の前の記憶はない。今の医学では意識すら保てない程の激痛と難病。生まれてから何故か死なないだけだったリッサは、竜宮城の科学で身体を癒されるまで一切の認識も持てなかったのだ。献身だった家族も国の福祉も全て、リッサは知らない。


「……聞くよ。話せる余裕があるなら」

「ありがと」


 少し咳き込み、血を吐くがリッサはデバイスの操作を止めない。


「私はさ、仲間と共に命懸けで戦って、エルピスのみんなにいてくれて良かった、居なくならないで欲しいって思われながら死にたいんだ」


 科学ですら病状の悪化を緩やかにする事しか出来ない肉体。そこに宿る精神は、仲間の話しかしない。


「エルピスは、命懸けで仲間を守っている」


 リッサは痛みに耐えながら、覚悟の目を見せる。


「だから、僕も命懸けでみんなを援護するよ」




 空から降って来たミサイル。それはいい、正確にアレハンドロを狙っていたからだ。爆発する様子も無い、ミサイル自体にはアーディアは巻き込まれる心配はない。

 問題はその副産物だ。


「……うわぁ」


 あまりの惨状にアーディアはドン引きした。瓦礫に窓ガラス、歴史的な建造物がズタボロになっている。床は割れ、満足に移動できないアーディアは下の階に落ちないか心配になる。瓦礫などが掠らなかっただけでも僥倖と喜ぶべきか。


「全く、これだから油断ならない」


 ミサイルの横から、アレハンドロは驚いたような顔で出て来る。ケガはない、アーディアのミサイル爆撃を受けても無傷だったのだ。想像の範囲内だ。


「これで、貴女達の悪あがきは終わりですか?」

「いいや、今からだよ」


 手を拘束されたまま、アーディアはなんとか立ち上がる。

 口に笑みを湛え、嬉しい言葉を口にする。


「助けて」


 今更命乞いか、というアレハンドロの考えは足元に転がった、科学製の円盤によって過ちと気付く。その円盤に界華の焔が点り、一気に破裂する。


「これで貸し借りは無しですわよ、アーちゃん」

「私はエリザを助けた事を貸しだと思っていなかったよ」


 アーディアの後ろから新たな少女。高貴な金髪の威風堂々の立ち振る舞い。


「久しぶりですわね。わ、た、く、し、はエリザベート・ツー・ザイン・デイサス。ご存じでしょう、アレハンドロ・ディスワード大使」

「これはこれは、亡国の姫君。ご機嫌麗しゅう。離宮です、王族だけの隠し通路がある事を想定していましたが、それでも姫様が来るとは思っていませんでした。目の前にいる仇を見逃すなんて、クーデターを見逃した愚かな国王みたいですね」


 焔から遠ざかり、ゆっくりとエリザベートと距離を取る。距離さえ取れば負ける筈は無い、確信を持っているアレハンドロはゆっくりと歩き続ける。


「あらあら。自国での出世コースから外れ、片田舎でクーデターの尻ぬぐい。大層な人生を送られている大使様の言葉は勉強になりますわね」


 一方、エリザベートは足元に気を付けながら、ゆっくりとアレハンドロを追い詰める。即座に片付けて、主戦場に合流する。それがエリザベートの作戦だ。


「正直言って役不足ですわ。一兵卒としての器しか無いんですもの。無様ですわね、殺せなかった人間を殺し直すだけの人生なんて」

「調子に乗るな、負け犬」

「五月蠅いですわ。木っ端の役人の分際で人の国を踏み荒らしてわたくしの仲間を傷つけた報い、地べたに這いつくばって足を舐めさせて差し上げますわ」


 距離は十分とった。アレハンドロは界華を発動させると、周囲に三つの岩が浮かぶ。躊躇いの無い速度で発射されたそれは、的確にエリザベートを狙っていく。


「エリザ、煽り過ぎじゃないかな⁉」


 その岩は、アーディアの指パッチンによって操作された失効過学によって防がれる。縛られていたアーディアに失効過学は無かった。ではどこから? 答えは、撃ち込まれたミサイルだ。


「……正直ビックリしましたわ。投石って。目撃者の証言では、アレハンドロの界華は矢のような物だと伺っていたんですが」

「私がやられたのは確かにソレだったよ。こんな武器もあるんだ、って今びっくりしてる」

「わたくし、あんな大きな投石を防ぐ術を今は持ち合わせておりませんわよ」

「助けに来てくれたのに!」

「思ったよりヤバいですわね。どうしましょう、これ」


 アーディアはミサイルの中からやや小ぶりなビーム砲を取り出す。取り回しを考えたリッサの気遣いだろう。


「くらえ!」


 早速ビーム砲をアレハンドロへ向け引鉄を引く。空気中の埃と塵を燃やしながら、白い光がアレハンドロへと一直線に向かう。


「学習しませんねぇ。私の界華【城壁】は、どんな攻撃も通しません」


 ビーム砲を防ぐのは、半透明に見えるレンガ。どこまでも強固に見えるソレは、アーディアの失効過学もエリザベートの【劫火】も通さない。


「そして【城壁】は、数を頼みにする武器を生み出します」


 次に沸いたのは、大量の矢。アーディアを倒した技だ。


「エリザ! 寄って!」

「わかりましたわ! 助けてくださいまし!」


 急いでエリザベートはアーディアに身体を寄せる。それと同時か、アーディアは盾を展開し全方位からの攻撃を凌ぐ。


「ジリ貧ですわ! いつまで攻撃が続くんですの⁉」

「魔力が切れるまで……って言いたいところだけど、切れそうに無いね」


 むしろ攻撃の圧が増したように感じる。盾がゆっくりと軋みだしている。


「エリザ! 下に逃げるよ! 一瞬向こうが反応に遅れたところで狙い撃って燃やそう!」

「逃げるなんて言わないでくださいまし! 転進ですわ!」


 エリザベートは何かが引っ掛かっている様子だが、確かにこのままでは押し潰されるだけだ。アーディアと一緒に壊れた床から飛び降りる。


「――アーちゃん! 浮遊!」


 何かに気付いたエリザベートは反射的にアーディアに指示を出す。エリザベートの腕を掴み、アーディアは浮遊するが間に合わなかった。


「ッ……!」


 エリザベートの右足に、木の杭が刺さる。床の周囲には、木の杭が何本も。


「【城壁】は城の武器と言った筈です。下に乱杭がある事くらい不意打ちにもならないでしょう」


 勝ち誇ったようなアレハンドロの声が、上階から聞こえて来る。

 エリザベートは床の乱杭を全て焼き切るが、足の傷は塞がらない。


「エリザ!」

「大丈夫……とは言えませんわね。あまり自由に動け無さそうですわ」


 苦痛に耐えているが、弱音を吐く以上エリザベートのダメージは深刻なのだろう。流血も止まる様子が無い。

 勝利を確信したアレハンドロは飛び降りて来る等という無茶はせず、ゆっくりと階段を使い降りて来る。


「悪いニュースです」


 エリザベートとアーディアを見下しながら、アレハンドロは勝ち誇る。不意打ちに備えた防御は忘れていない。


「本体から通信が来ました。ヒイングを発見し、捕えた時の符丁です。この戦いは私の勝ちです」


 アレハンドロは通信を繋げる。死刑通告を与える様に。


『ほ、報告します!』

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