ゆうじ探偵、鷹井山旅館殺人事件

TCM出版(仮)@kampou

序章

※注意:王様ゲーム~けんとりなの場合~の続きです。



たくみ「それまで、俺たちも少し寝るか?」

なお「え?さやかを探しに行かなくてもいいの?」

たくみ「おやすみ。。。」

なお「おーい。」


──たくみは、静かな寝息を立て始めた。


なおがゆうじの隣でストレッチしながら言う。

「いろいろ頑張ったからね。ゆうじも眠っていいよ。私がさやかとりなを待つから」

「いや俺もまだ興奮して眠れない。一緒に待とう」

ゆうじはテーブルに肘をつきながら、なおとぼんやり会話を交わしていた。


二人は話したり、くつろいだりして、仲間の帰りを待っていた。


午前5時29分

突如──

部屋の電話がけたたましく鳴り出した。


二人ともびくりと肩を跳ねた。

ゆうじはそっと受話器を取った。

こんな時間に電話がなるなんて。


「……もしもし?」

『……ゆうじか? なおか? それとも、さやかか?』

聞こえた声は──

「たくみ……?」

すぐ隣で寝息を立てているはずのたくみの声だった。


ゆうじは思わず振り返る。確かにそこに、たくみは眠っている。

「たくみ、おまえ、何──」

遮るようにたくみは話を続ける。

『俺は一昨日から電話をしている。録音だけどな。俺を起こさず、なおに代わってくれ。』

どういうことだ?


ゆうじはなおに受話器を渡した。

「はいはーい、なおですー。」

『なおか? 昨日はありがとな。まだ俺は“一昨日”だから王様ゲームは始めてないけど、俺の計画通りに進んでたなら、きっと最後は活躍したと思うよ』


なおは不思議そうな顔をして、ゆうじを見ながら受話器に耳を寄せた。

『ところでお願いがあるんだ、窓が少し開くから、開けて上から何か落ちてこないか、見てくれないか。」

「え? うん、いいよー」

なおは受話器をゆうじに戻し、カーテンをシャッと開けた。


ギイ……とガラス窓を押し開け、そっと上を覗き込む。

──その瞬間だった。

コトン。

「いっ……!」

上から何かが落ちてきて、なおの頭に当たった。床に転がったそれは……

銀色に光る、プラスチックのおもちゃのナイフ。


「な、なお……?」

ゆうじは、息を呑んだ。

受話器から再び、たくみの声が聞こえてきた。

『なおか? 受け取ったか? 今──お前は死んだんだ。』

「……え?」

なおがこちらを振り返る。明らかに、意味がわかっていない様子だ。

『ゆうじに代わってくれ』

なおは不思議そうにゆうじへ受話器を差し出した。


『今の見てたか?なおはナイフで死んだんだ。だからお前が犯人を探しに行け。

今は5時半だよな。8時の朝食までに犯人を見つければ、ゆうじの勝ち。

見つけられなければ、金庫の中に罰ゲームがあるから。

なおは8時まで部屋から出ずに寝てもいいし、待っててくれと伝えてくれ。

さやかはナターシャが探しているから心配するな。』


『それから──俺を8時まで、絶対に起こすなよ』

──ツー……ツー……。


旅館の部屋には、再び静寂が戻っていた。


だが、確かに何かが始まっていた。

“なおが死んだ”。

“犯人を探せ”。

“本当の推理ゲーム”。

ゆうじはまだ現実感のないまま、テーブルの上のおもちゃのナイフを見つめていた。


続く

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