第37話 世界の真実②
昔、人間の世界と繋がってしまい戦争になったときは、まだ世界淘汰の仕組みはそのときの魔王様に伝わっていたみたいで、一進一退の戦いで両世界が疲弊する状況を打破するために、停戦を人間側に持ちかけゲートを封印することで一方の世界の消滅を避けたみたい。
私は賢い選択だと思ったけど、今回の侵攻で人間側の戦力が魔界側を上回っていたことを考えると、世界の管理者が戦いを誘発するように介入したのではないかとグノーシスさんは考えているようです。
因みに、真の魔王とか進化とか天の声というのは、魔界が窮地に陥ったときに発動する魔界の救済システムなんだとか…。
何それ?って思ったけど、魔界がそういうものとして生まれたのだから考えても意味はないと言われちゃいました。
魔界の神様とかがいて、本当に困ったら助けてくれていると思うことにしました。
エスターブ様が異世界の勢力を討ち破った戦いで、進化を重ねて生き残った仲間は、ニンフのカリン様とエントのナナベル様の2人だけだったんだって。
ナナベル様は『世界の存続』という最終ミッションを達成したことで最後の進化ができたんだけど、荒れ果てた魔界の大地に活力を取り戻すために、自ら『魔界樹』という進化先を選び、その後の魔界の同胞たちを見守る役目を担ってくれたそうです。
魔界樹様はナナベル様だったこと、そして魔界のために身を犠牲にしてきたことを思うと、絶対に助けたいという想いが強くなりました。
だって、ナナベル様は今もドレミーに助けを求めながら、人間たちに力を奪われ利用されているんだもの。
何世代にも渡って魔界の同胞が受けてきた恩を返さないわけにはいかないよ。
カリン様はニンフという精霊になったことで長命になったのだけど、エスターブ様が大樹海に引きこもった後に平穏に余生を送れるよう、他の部族が大樹海に踏み入らないようにすることを自分の最後の役目と決めたみたい。
人と交わらず長命すぎる故に、カリン様は次第に感情が抜け落ち役割を果たすためだけに大樹海に存在するようになったけど、龍人族はカリン様への感謝を忘れたことはなかったそうです。
何百年も前に、カリン様の肉体が自然に還ってしまったのか姿を確認できなくなったとき、龍人族は深い悲しみに包まれたとのことです。
ちなみに龍人族も長命で、グノーシスさんは幼い頃にカリン様に会ったことがあるんだって。
カリン様はエスターブ様のことが好きだったのかなぁ。精霊の身となってしまったから結ばれることは叶わないと思ってしまったかもしれない。
そんなことを考えたら、なんか悲しくなっちゃいました。
ラーテルさんやフィズさんも、魔界の未来のために精霊になる道を選んでしまったし、私が進化を決定したんだもの。
どうか2人の未来が幸せで楽しいものになりますように。
グノーシスさんにも魔界を取り戻すために協力してほしいとお願いしてみたのだけど、エスターブ様が次の異世界との戦いにおいて龍人族及び竜種は力を貸さないことを戒律として定めたため、協力することはできないと断られました。
自分たちの努力で犠牲を払い未来を勝ち取らなければ、魔界の平和の本当の価値を知ることができないからなんだって。
でも、人間たちに負けちゃったら魔界は消滅しちゃうのにいいのかな…。
それくらいエスターブ様の定めた戒律は龍人族にとって絶対的なものなんだろうね。
とても信じられないような内容も含まれていたけど、エスターブ様の子孫であるグノーシスさんが言うのだから信じるしかないよね。
竜種の協力が得られないのは残念だけど、何が起きているのか理解できたのは大収穫でした。
でも、魔界を取り戻せば戦いは終わりだと思っていたのに、魔界を存続させ人間の世界を消滅させる戦いだと思うと、少し気が重くなりました。
だって、気持ち悪いときもあるけど、キエムは元人間でも今は仲間だと思っているしね。
全ての人間が悪いわけじゃないのかなって今は思うんだよ。
実際、人間の世界に残っているもう一つの国は、隷属魔法に反対の立場だって聞いたしね。
なんか考えると憂鬱になっちゃう。
とりあえず、魔界を人間の支配から解放するまでは悩む必要のない戦いだから、それを達成するまで頑張るしかないよね。
私たちはグノーシスさんに大樹海を戦場にしてしまったことを謝罪して別れました。
魔界の平和を取り戻したら、改めてお礼を言いに来ようと思います。
まずは今すべきことに集中しよう。
私たちは辺境地域の全てを解放する戦いへ向け、南下を始めました。
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