第34話 進化と条件③

フィズさんに換えの服を着てもらったものの、ちょっと微妙な空気感になっちゃったね。

フィズさんも、顔を赤らめて黙っているし…。

ちょっと話題を変えないとだよ。


「みんなに聞いてほしいことがあるんだけど。」

「どうした?何か困っているのか?」

ダルクさんが渡りに船とばかりに、私の言葉に食いつきました。


「えっとね、ダルクさんとリタ姉ちゃんとドレミーとキエムの進化のことなんだけど、なんか条件があるみたいなの。」

「なるほどね。バオー解放のときは全員が進化したのに、2人だけだから変に思っていたわ。どういう条件か、わかっているの?」

リタ姉ちゃんは興味津々のようです。

「なんかね、数の条件みたいなんだけど、ダルクさんは3分の2、リタ姉ちゃんは3分の1、ドレミーとキエムが1分の0ってなってるんだよね。これって何のことだろう…。」


みんなが何のことだろうと悩んでいると、意外にもドレミーがあることに気づきました。

「タレント持ちの人間を倒したのは、オルフィーとダルクとリタとフィズだけなノ。」

「確かに、俺が倒したタレント持ちは2人だし、リタは今回1人倒しているか。」

ダルクさんが頷きながら話を引き継ぎました。

「でも、オルフィーには条件がないのでしょう?それでは説明できないのではなくて?」

リタ姉ちゃんは納得いかないようなので、説明を補足しておこう。

「私の進化って、達成したミッションの数が関係しているのかも。前に3つ達成したから進化できるって聞いた気がするんだよね。」

ちょっと記憶が正しいか心配ではあるけど…。


「差し支えなければ教えていただきたいのですが、ミッションというのは、どういったものなのですか?」

ラーテルさんが不思議そうに質問してきました。

「教えてあげたいんだけど、実は私もよくわからなくて…。達成すると頭に『達成した』って声が響くんだけど、どんなミッションがあるのかもわからないし…。」


正直なところ、知っている人がいるなら私が質問したいくらいだもん。

「その声は初代魔王が聞いたっていう『天の声』だと考えている。お嬢ちゃんは、その声で『真なる魔王に至る』って言われたんだろう?」

「うん、たぶん進化を続けていくとそうなるよって意味だったんだと思う。」

私たちを囲むように話に耳を傾けていた犬人族や森人の皆さんがどよめきました。


「2代目以降の魔王は、部族間の争いや協議、投票など様々な方法で魔王と呼ばれるようになった統治者であって、仲間に力を与えたと伝わっているのは初代魔王だけです。オルフィー様が初代魔王のような尊い存在であることは疑いようがありません。」

フィズさんが胸を張り、とても誇らしそうに語りました。

その言葉に、犬人族の皆さんが「おー!」と歓声を上げます。

なんか、とっても恥ずかしいので話を戻したい…。


「進化の条件の話に戻すけど、フィズさんは2回目の進化だから条件がなかったのかもしれないし、タレント持ちを2人も倒しているから条件を達成しているのかもしれないよ。」

私の説を聞いたダルクさんが納得したように頷きました。

「お嬢ちゃんの考察は素晴らしいな。だとすれば、タレント持ちを倒すことで、まだ高みを目指せるということだな。」

「ドレミーも人間を倒すノ。」

ドレミーがやる気を見せて、アホ毛を震わせているのが可愛いんだけど。

「そういうことなら、キエムもタレント持ちを倒しなさい。もっと強くなってもらわないと困るわ。」

リタ姉ちゃんがキエムに冷たい視線を向けながら命令しています。

「リタ様のご命令とあらば、命を賭して達成いたします。達成の暁にはご褒美を期待してもよろしいでしょうか?」

またキエムの気持ち悪いところがでちゃったよ…。

「ペットがご褒美をねだるなんて生意気ね。躾が足りなかったかしら。」

リタ姉ちゃんが溜息をつきながら言うと、キエムは四つん這いになって躾を待っているようです。

リタ姉ちゃんに頭を踏まれて、地面に頬を押しつけられながら嬉しそうにしている姿に、私はドン引きしちゃったよ。

私の盾となって踏ん張ってくれたときは、ちょっと頼りになると思ったのに…。


そうだ、大事なことを伝えないと。

このまま攻めていっても、エピック級タレント持ちの人間に勝てなさそうだし。

「みんなに相談があるんだけど、魔王の宮殿を奇襲するという作戦を変更したほうがいいかな?」

「たしかに、反抗が知られている以上、奇襲という優位性が崩れてしまったわね。」

「まだ進化できるなら、遠回りのように見えても、町を開放しながら仲間を増やしていくほうが勝利への近道と俺も思うぞ。」

「オルフィー様の方針に従いますが、此度のようにオルフィー様の身に危険がおよばないように戦力を充実させることはいいことだと思います。」

「どのような決断を為されても、我ら森人は協力を惜しみません。」

「ドレミーはオルフィーと一緒なノ。」


私の意見でここまで来ちゃったのに作戦変更は申し訳ないけど、失敗は許されないことは私にだってわかるもの。

「じゃあ、人間に支配されている町の開放を優先しよう。」

私の言葉を受けて、みんなが頷いてくれました。


頼りない私だけど、みんなが支えてくれるから頑張れるって心から思いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る