第3話『花びらと紅茶と、君の微笑み』

春の光が、やわらかくカーテンを透かす。

冬の間、閉じていた心が、

この光に少しずつ解けていくような気がした。


テーブルには、湯気の立つ紅茶と、開きかけの小さな花。

花びらがひらりと落ち、

まるで君がそっと笑っているように見える。


君と過ごした春の思い出は、

暖かく、でも切なく胸に残っている。

公園の桜並木を歩いた日、

君は笑顔で花びらを手のひらに乗せて、

「春って、世界が一度深呼吸するみたいだね」

そう言った。


その声を思い出すと、

心がじんわりと温かくなる。

悲しさはもう、ほとんどない。

ただ、あたたかさと懐かしさだけが残っている。


(ゆっくり息を吐く音)


この春の光の中で、

私は紅茶の香りを吸い込み、

ゆっくりと目を閉じる。


あの日の君の声、笑顔、仕草。

すべてがこの朝に溶け込み、

私の中で静かに生きている。


小さな風がカーテンを揺らす。

花びらがひらり、また一枚落ちる。

それは、君がそばにいてくれる合図のように思えた。


「ありがとう、君」

私は小さく呟き、

深呼吸と一緒に、春のやわらかさを胸に取り込む。



季節は巡る。

冬の夜、雨の日、春の朝――

どれも君との時間の断片。

でも、今はもう寂しくない。

君の微笑みが、私をやさしく包んでくれるから。

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