君を想う季節
ともね
第1話『夜風とココアと、君の声』
(静かな夜。風の音がカーテンを揺らす。)
夜の窓辺に座ると、
外の空気が少しだけ甘く感じる。
街はもう眠りにつき、
遠くで聞こえるのは時計の針の音だけ。
テーブルの上のココアは、
もう少し冷めてしまった。
でも、冷めたココアのほうが好きだ。
熱すぎないその温もりが、
どこか人の体温みたいで、
そっと心を撫でてくれるから。
君と過ごした冬の夜を思い出す。
窓の外は雪が舞って、
ふたりでカップを片手に話していた。
他愛もないことばかりだった。
「寒いね」
「でも、こうしてると暖かい」
そのやりとりが、なぜだかとても大切で。
今もその声が、
夜の静けさの中に溶け込んでいる気がする。
(ゆっくり息を吐く音)
君の声は、不思議だね。
どんなに時間が経っても、
ちゃんと胸の中で生きてる。
忙しい日々の中で、
心が擦り切れていく瞬間があっても、
その声を思い出すだけで、
少し息がしやすくなるんだ。
まるで、
冷たい風の中に漂うぬくもりみたいに。
夜風がカーテンを揺らす。
その音が、君の名前を呼ぶようで。
私はそっと、目を閉じた。
“君は今、どこでこの夜を見てるんだろう。”
同じように、
温かい飲み物を手にしてるのかな。
それとも、
別の誰かと笑っているのかな。
考えるたびに胸が締めつけられる。
でも、同時に不思議とやさしくなる。
想うことって、
寂しさと優しさが一緒に溶け合うんだね。
テーブルの上のココアに映る、
小さな灯りが揺れている。
その光を見つめていると、
まるで君がそこにいるみたいに感じた。
話す言葉がなくても、
そこに君がいてくれるだけで、
世界が少しあたたかく見えた。
今も、その記憶が
私をやさしく包んでくれる。
夜が深くなる。
時計の音が、静かに一秒ずつ刻んでいく。
時間は止まらないのに、
私の心だけが、
あの冬の夜に置き去りにされたまま。
それでもいい。
あの夜があるから、
私は今日も笑える。
君の声が、
今も心の奥で生きているから。
(窓の外の風の音が少し強まる)
夜風が頬を撫でていく。
その冷たさの中に、
少しだけあたたかさを感じた。
まるで君が、
「おやすみ」って言ってくれたみたいに。
私は小さく頷いて、
もう一度ココアを口に含む。
やわらかい甘さが、
喉の奥に広がっていく。
その瞬間、
君の笑顔が浮かんで――
心がふっと、静かにほどけた。
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