第9話:異世界重機のオペレーション
俺は焼き木のシャベルを杖代わりに、畑予定地に立っていた。 目の前、結界のすぐ内側には、俺が投げ入れたこぶし大の木の実が転がっている。
そして、結界の向こう側には、二羽の巨大な緑色の鳥――仮に「オウムもどき」と呼んでおこう――が、興味深そうに木の実と俺を交互に見ている。
「……食われるか、耕させるか。どっちかだ」
俺は右手に意識を集中する。 いつでも「最強の炎」が発動できるように。万が一、奴らが木の実ではなく俺に突進してきたら、即座に焼き鳥だ。
俺は、木の実が落ちている場所の結界を、深呼吸ひとつぶんの時間だけ、「解いた」。
空気が揺らぐ。 結界の外の騒音が、一瞬だけ生々しく耳に届いた。
「グェ!」
速かった。 一羽のオウムもどきが、結界が消えた空間をすり抜け、俺の目の前――結界の内側に着地した。 デカい。見上げるほどの巨体だ。 もう一羽は、警戒しているのか結界の外で様子を見ている。
侵入してきた個体は、俺には目もくれず、一直線に木の実に向かった。 金属のようなクチバシで器用に実を拾い上げ、丸呑みにする。 そして、満足そうに喉を鳴らした。
……よし、第一段階はクリアだ。 俺は結界を元に戻す。
オウムもどきは、結界の内側に取り残された形になったが、特に慌てる様子はない。 俺をじっと見ている。その目は、明らかに知性を感じさせた。
「……さて、仕事だ」
俺は焼き木のシャベルを構え、まだ耕していない硬い地面を力いっぱい突き刺した。 「ザクッ」 そして、オウムもどきの方を見る。 「ほら、こうやるんだ」
オウムもどきは、俺の顔と、シャベルが刺さった地面を数秒見比べた。 そして、おもむろにクチバシを振り上げると、俺が突いた場所のすぐ隣に、それを叩きつけた。
ズドォォン!!
地響きがした。 焼き木のシャベルでは歯が立たなかった粘土質の土が、まるで重機で掘削されたかのように、直径1メートルほどのクレーターとなってえぐり取られた。 これが、天地返し……? いや、ただの破壊だ。
「……やりすぎだバカ!」
俺は慌てて叫んだ。 これでは土がひっくり返るどころか、耕作不能な穴ぼこだらけになってしまう。
オウムもどきは、俺の剣幕に驚いたのか、キョトンとした顔で首を傾げている。 「違う、そうじゃない。もっと浅く、こう……土を『ひっくり返す』んだ」 俺はシャベルで、土をすくい上げ、ひっくり返す動作を、大げさにやって見せた。
オウムもどきは、また俺の動作をじっと見ている。 そして、今度はクチバシの先端を使い、さっきよりずっと浅く、器用に地面を「すくい上げる」ように突いた。
ザクッ、ゴロッ。
見事だ。 俺が一日かかっても掘れないような量の土が、綺麗にひっくり返った。 これだ!
「そうだ、上手いぞ!」 俺は興奮して、報酬の木の実をもう一つ投げてやった。 オウムもどきは嬉しそうにそれを食べる。
学習した。こいつは使える! 「よし、次、ここだ!」 俺がシャベルで地面を指し示す。 オウムもどきが掘削する。 「ザクッ、ゴロッ」
結界の外で、もう一羽のオウムもどきが羨ましそうに鳴いている。 他の魔物たちも、結界の内側で堂々と作業している巨鳥と俺を見て、いつもより激しく壁を叩いている。
とにかく、木のシャベルでの絶望的な肉体労働は終わった。 今日から俺は、この異世界重機のオペレーターだ。 一反の天地返しが、今日中に終わるかもしれない。
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