37.


「あんたが熱を出すなんてねぇ⋯⋯」


体温計を見ながら母はそうぼやく。


「本当に⋯⋯いつ以来だろう⋯⋯」

「朝から雨が降ってるのに、傘を持って行かず小さい子みたいにはしゃいでいたんじゃないんでしょうね?」

「そんな馬鹿なことはさすがに⋯⋯」

「自分のことを馬鹿は風邪を引かないって言ってたのに、昨日のテスト結果といい、ちょっとマシになったから出たのかしらね」


腰を当てて冗談混じりに言う。

テスト結果を家に帰って早速親に見せたら、眉を上げた後、改めてじっくり見て「本当に透羽とわの解答用紙なの?」と名前欄に顔を近づけさせた。

先輩の弟と同じような反応をするなぁ、失礼なと思っていたが、「あんなに苦手だったのに、あんたも変わるのね」とにこやかな笑顔を向けた。

親もずっと前から息子のテスト結果に頭を悩ませていた。だから、赤点回避できたことはそのような顔をするほど安心したということだろう。

親にそのような顔をさせることができて良かった。


「熱も高いことだし、今日はお休みね」


布団を掛け直した母に小さく頷いた。

仕方ないことだけれども、一日でも先輩に会えないのは寂しい。


「こんなに高くても、明日になったら下がっているでしょ。そんな顔をしなくても大丈夫よ」

「僕、変な顔してた?」

「そうね⋯⋯。誰かに会えなくて寂しいって顔をしてたわよ。そんなに誰かに会いたい子がいるの?」


心臓を見られたんじゃないかと飛び出しそうなほどびっくりした。

確かに先輩のことを思っていたからかもしれないが、顔にまで出ていたとは。


「あら、さっきよりも赤い」

「もうっ、もう大丈夫だから! 大人しく寝てるから!」


バッと布団まで顔を隠した。

布団の外で「あら、そう。じゃあ大人しく寝ててね」と言った母の足音が遠ざかっていく。

バタン、と扉が閉まったような音がした少しした後、外の様子を伺うように目だけ覗かせた。

いないことを確認できた日向は深く息を吐き、再び枕に頭を預けた。


全身がだるく、顔が火照っているが、それでもいくらかは元気だった。

昨日の先輩は寝ていても辛く、息するのさえやっとだった。

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