6.

「あら、本当。明星君、ちょっと待っててね」

「はい」


そばに寄ってきた保健の先生が「結構擦りむいちゃったのね。きっと痛いでしょ」と訊かれたが、それに耳を傾ける余裕がなかった。

近くにあった椅子に座った明星は、手持ち無沙汰そうに机の上に置いてあった紙らしきものに目を通していたが、すぐに興味が失せたようで、遠くの方を見つめていた。


「ほら日向君、聞いてる?」

「⋯⋯あ、え、何ですか?」

「今ガーゼをやってあげるから、そこの椅子に座ってって言ったのよ」

「あ、はい、すみません⋯⋯」


背後にあった椅子に座った時、消毒液が傷口に染み、それに耐え、ガーゼに薬を付け、それを傷口に貼り付けているのをぼうっと見ていると、視線を感じた。

それらしい気配の方へそろりと視線を向けると、遠くを見つめていたはずの明星兄が背もたれに肘を着いてこちらを見ていたのだ。

ビクッと情けないぐらい身体が跳ねた。


「痛かった? こんなにもやっちゃったものね」

「あ、いえっ、大丈夫です」


誤魔化すように笑ったものの、まだ感じる視線に背中に氷を入れられたようなぞくっとする感覚を覚えた。

弟と同様、あの時見られたことがよっぽどお気に召さないのかもしれない。だから、先生がいなくなった隙を窺っているのだろう。

元はといえば、保健室のベッドであのようなことをしているのがいけないんだろう。こっちが友達の付き添いでたまたま見かけた程度で何であのようなことを言われないといけないのか。

ベッドで兄弟同士でイチャイチャして!──⋯⋯兄弟同士で?


「日向君、できたよ」

「は、はいっ!」


思わずその場に勢いよく立ち上がった。が、意外と傷口に響いたようで、じんとした痛みが走り、顔を歪めた。

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