第24話 おこしやす、修学旅行は事件の香り4:ポッキーと揺れと赤面事件

京都での修学旅行も佳境に差し掛かり、舞妓体験で盛り上がった一行は、新幹線で次の目的地・大阪へと向かうところだった。




「うわぁ~、この車両キレイやな~!テンション上がるわ!」




「新幹線って、なんでこんな特別感あるんやろなあ」




クラスメイトたちは、車内でお菓子を分け合ったり、窓の景色を撮ったりと、思い思いに楽しんでいた。




そんな中――。




「はいはーい、勝負しよー!負けたら罰ゲームな!」




車内で始まったのは、トランプ勝負。男子も女子も入り乱れての大騒ぎの中で、運命のカードが配られる。




「――あ、あかん。うち、負けた……!」




鸞が力なくカードを伏せると、周囲から「おおおっ!」と歓声が上がる。




「よっしゃー!罰ゲーム決定ー!」




「じゃあ、ポッキーゲームで!」




「え、うちが?誰とやるん!?」




「そりゃもちろん……あずさしかおらんやろ」




「えぇぇえええっ!?」


「は、はぁっ!?!?」




二人の声がハモった。




驚愕に赤面、そして沈黙。




鸞もあずさも、互いを見て言葉を失う。その間、周囲のクラスメイトたちはニヤニヤしながらポッキーを一本差し出した。




「……やる、しかないんやな?」




「……しょうがありまへんな」




座席の隅っこで、半ば強制的に始まった、運命のポッキーゲーム。




一本のポッキーを挟み、顔を近づけていく二人。




「……あ、あずさ、顔、近い……」




「そ、それはこっちのセリフどす……!」




ほんの数センチ、もう息が触れるほどの距離。




――その瞬間。




ガタン――!!




予想外のタイミングで、新幹線が大きく揺れた。




「きゃっ!」




「うわっ!」




ぐらりと揺れた車内で、二人の顔がそのまま――ぶつかる。




軽く、けれど確かに、唇が重なった。




一瞬、時間が止まった。




「――――」




「――――」




そして。




「「な、な、なななな、なんでっ!?!?」」




二人の叫びが、新幹線車内に響いた。




周囲は爆笑と悲鳴の渦。




「写メ撮ったぞー!!」


「うちにも送ってー!」


「いやぁ~、リアルキス現場、拝ませてもろた~!」




「やめてぇぇぇ!!削除してぇぇぇ!!!」


「いまのは事故や!事故なんやぁぁ!!」




あずさも鸞も、真っ赤になった顔で叫んだ。




鸞は慌てて、スマホを構えたクラスメイトBの方へ詰め寄る。




「あかん!あかん!削除や、削除せえへんと、どつくでぇー!!」




「マテや、削除する前に、うちのスマホに送れや!!」と続ける鸞。




「へぇー(笑)」とニヤニヤ顔のB。




すると、あずさも控えめに手を上げて、




「……待っておくれどす。うちにも……」




「お前ら、なんやねん!!」




怒りと照れと恥ずかしさとで、鸞の関西弁がさらに激しくなる。




結局その場は、担任の先生に怒られて写真は削除され、騒ぎはおさまった――はずだった。




**




新大阪までの間、二人は――というと。




「あ……」




「……っ」




見つめ合うことができず、顔を背けては、無言のままスマホをいじる。




だが、あずさは赤い顔で、自分のスマホに残された一枚の“偶然の瞬間”を見つめて、ふわりと笑みを浮かべた。




一方、鸞は時々スマホを開いては、すぐ閉じる、を繰り返す。




そして、心の中でそっとつぶやいた。




(……ノーカン、やな)




(でも……もしもう一度、事故じゃない形でなら――)




新幹線の車窓には、夕焼けが差し込んでいた。




そして、ふたりの関係もまた、少しだけ変わり始めていた。

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