星刻のニーチェ

みんふん

1章 落日・黎明

第1話 星の大陸

むかし。

世界は6つの大陸に分かれていました。


妖精大陸【アラルガルタ】

竜大陸 【カラリ】

狼族大陸【ロギーニア】

巨人大陸【フロリオーディ】

鳥人大陸【ルカ】

魚族大陸【アウロディーテ】


各大陸では、修められてきた魔術、武術、技術、何もかもが違います。

そして、各大陸にはそれを統べる王様がいました。

数多の種族が生きる大陸を、強大な力で統治していたのです。

悠久とも思える時を過ごすこの大地にある日、

想像を絶する天災が訪れました。

『ノアの星雲』と呼ばれる大地震です。

大きな揺れにより大陸は動き、1つの超大陸に

なりました。


この天災により、多くの種族、大地が亡くなりました。

復興も間もない頃、各大陸を統べていた王様たちは戦争を始めたのです。


「超大陸に、王は2人と要らず。」


数百年にも及ぶ戦いの果て、王座に座ったのは、代24代目妖精王のアラリアでした。

アラリアは自身はもはや王などではなく、この

大地を統べる神なのだと言いました。


「これよりは、王などという下劣な者にこの大地は委ねん。我が、神だけが統治する。」


そうすると、アラリアは自身を皇帝アラリアと

名乗り、この超大陸全域をテレイオス帝国と定めました。この時より、「星刻1年」

として新たなる世界が始まったのです。


………


〜星刻220年〜


「もうアラリアの圧政にはうんざりだ!」


「あの寿命だけが取り柄の羽虫め!」


「我ら誇り高き妖精族の面汚しが…!」


喧騒が聞こえる。

栄えある6つの大陸は過去の栄光。

超大陸を巡る戦争からこの世界には戦火が絶えることは決してなくなった。


「村の爺さん達、なんであんな怒ってんだ?」


老人のピリついた空気とは裏腹に、脳天気な様子で藁に寝転がる少年が口を開いた。

少年の背中にはガラス細工のように繊細な翅が

生え、蒼く輝いた瞳と黄髪も合わさってどこか

神秘的とさえ感じる風貌だが、『妖精族』と言われる種族の中では至って一般的で平凡な見姿だ。


そんな少年の問いかけに何やら小難しそうな内容の本を読んでいるメガネを掛けた少年が答える。


「ここ最近、税の徴収量が著しく上がったからかな。」

「それに、退去命令に背いた人を王騎士団が切り殺してしまったらしいよ。」


聞く努力はしてみたものの、想像していたより

複雑な事情に質問をした張本人は何が何だか

さっぱりだという様子で首を傾げるばかりだった。


「うーん、俺にはまだよく分からないな!」


「ニーチェ、賢くなきゃ生きて行けないよ?」

「ここ数十年にかけて、アラリアの統治は年々暴虐的な支配と何ら変わりないものになっているらしいからね。」


「ランスの話は村の爺さん達の次に難しいんだよなぁ。まあでも、ランスがいれば俺は賢くなくても大丈夫かな。」

「俺が力担当で、ランスが頭担当だ!」


「ふふ、ニーチェ。僕に頼りっきりじゃダメだ。いつか君と僕も別れる日が来るかもしれない。」


「そんな日来るのか!嫌なんだけど!」


ここは外れの村オスタフィア。

妖精族の集団がひっそりと暮らしている。

周辺には街も村もないおかげか、戦火の土煙とは縁遠くそよ風の吹く村だ。


「あ、時間だ!ごめんランス!」

「俺行くわ!」


「うん。またね、ニーチェ。」


ランスに別れを告げたニーチェは村の少し離れにある丘に向かって駆け始める。

その背中を押すように、夏風が一吹きした。


「うーん、良い風!」


そよ風に乗せられ麦の香りがする。


目的地の丘に向かっている途中に、村に住む様々な人々がニーチェに声を掛けた。

リンゴ売り、近所のおばさん、昼寝友達。

小さな村ではあるが、ここではそれ故に皆家族同然に暮らしている。

誰かが困れば全員で考えあい、誰かが悲しめば全員で悲しみ誰かが喜べばみんなで喜ぶ。


「よし!到着!!」


だがそんな妖精族とは違い独りで過ごす者もいる。ニーチェの目的地の離れの丘、そこには古びた家屋がぽつんと建っている。

勢いよく扉をこじ開けたニーチェは迷いもなく

室内に入り込んで行った。


「やっほー!トカリーおじさん!」

「今日も来たぜ!」


「相変わらずだな、ニーチェ。」

「元気だけが取り柄の鼻たれめ。」


「お、トカリーおじさんも俺の良いところがやっと分かってきたか!」


「はぁ、…。そうだな。」


トカリーおじさんと呼ばれた無造作な髪の毛に髭を生やした筋骨隆々の男。

だがその最もな特徴は狼族である男が持つ頭頂部に生えている長い耳だ。


だがその風貌とは真逆に室内は小綺麗で、壁一面は数え切れないほどの本で埋め尽くされている。


そんな途方もない本の山からニーチェは1冊手に取って開いた。


「この本、おもしろそ!」


「おお、鼻たれ坊主の割になかなかセンスがあるじゃねえか。」


「読んでいい?」


「ああ、いいぜ。」


「…。」

「英雄譚か〜!面白そう!!」


「ははは!そうだろ!」

「そいつァ俺のコレクションの中でも指折りの傑作だ!」


自らの厳選したコレクションを気前よく貸し出してくれるトカリーに、ニーチェはココ最近懐きっきりだ。


「少し気になったんだけど、何で

トカリーおじさんはこんなに本を集めてるの?」


意外なことを聞かれたトカリーは不思議そうに

しながら腰を下ろした。


「あん?仕方ねぇ。教えてやるよ。」

「この大陸では色んな魔術が栄えてるのは知ってるよな?だが中には禁忌とされた魔術もある。

そのうちの1つが『預言魔術』だ。」 


本を集める理由とはまた随分と関わりが無さそうな話を始めたトカリーに、ニーチェは首を傾げた。


「預言魔術?よく分かんないけど、禁止にするほど危ないの?」


「アラリアが禁止したのは、だ。」

「おそらく反乱分子の抑制が目的だろうな。」

「以前までのあいつなら、 こんな暴挙に出るはずもなかった……。あいつは自分がこの大陸の神だなんて言い始めた頃からおかしくなっちまったんだよ。」


「…。」

どこか物憂げそうに話すトカリーに、ニーチェは言葉を失ってしまった。

そんな空気を察したのか、トカリーが声のトーン少しあげて話し出す。


「それでだ。俺が本を集めてる理由だけどよ。」

「本の中の物語は、一種の予言みたいに思えるんだ。」

「多くの物語が、多くの英雄がいてよ。」

「いつかそんな物語みてえに、この国を根底から叩き直すやつが現れるんじゃねえかってな。」


トカリーの話を鼻で笑う者も大勢いるだろう。

今やこの大陸ではアラリアが絶対であり、それに反旗を翻すものは早々に処刑され見せしめにされる。

いつしか小競り合いは絶えずとも、アラリアに抵抗の意を見せるものは居なくなった。

しかしニーチェは、満面の笑みを浮かべていきなり立ち上がる。


「うん!俺も気に入ったよ!それ!」

「いつか俺が、本の中の英雄みたいになって、

トカリーおじさんの目指す世界を作ってやるよ!」


てっきり否定されるとばかり考えていたトカリーはニーチェの予想外の反応に意表を突かれるも、すぐにいつものペースを取り戻した。


「…。ふん。そうかい。」

「そうしてえならまず、口の利き方から覚えな。」

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