第7話 2度目の検索

「あぁ〜、カフェラテ美味しい♪」


 翌日の夕方。

 この部室のお姫様は、ジト目アンド『飲んでみたいの』攻撃でゲットしたカフェラテを美味しそうに飲みながら、座席に座ってる。


 それで例えば、だらしない格好でもしてくれたなら、俺も淹れたかいがあるのに、律儀な水野さんはきりっと姿勢良く座ってるから、スカートがめくれたり、形の良いアレがアレしてたりしない。


 まるで日本茶でもすすってるかのような行儀良さで、なぜか教壇に座った彼女は声だけテンションが上がってるわけだ。


 

「今日は何をするんだ?」


 このまま、ずっと水野さんの姿を見ていてもいいんだけど、一応聞いてみたのは、なんとなくだ。


「何って、消えた村の話はまだ探りきれてないわ!」


 どうやら、昨日の結論では納得しなかったらしい。パソコンで調べるだけなら楽だからいいんだけどさ。


 とりあえず俺は向かいあう生徒用の座席に座ってノートパソコンを取り出す。


 ちなみにこのパソコンは全生徒に配布されてるもので、部活動にも使っていいことになっている。


「生田くん……どうしてそんなに遠くに?」

「とりあえず昨日のスレッドを見てみようか。新しい書き込みがあるかもしれないし」

「ねぇ、前にも言ったことがあるかもしれないけど、無視は寂しいんだよ?」

「……」


 えっと……。


「生田くん。私、こう見えてもか弱い女の子だし、そろそろ泣いちゃうよ?」

「……」


 どういうことなんだ……。


「いいんだね? 君がそんな人だとは思わなかったよ……先生に見つかったら生田くんにイジメられたって言うよ?」

「ない……」

「何がないんだ? 私は本気だよ? もう遅いんだよ、生田くん」

「昨日のスレッドがないんだ……」

「えっ?」



 驚いたのか、水野さんは立ち上がって教壇を降りて俺の席に回り込んでくる。


 俺は気にせずスレッドを探すが、検索をかけても出てこない……。


「本当に? 文字を入れ間違えてるとかではなく?」

「アフリカの消えた村について語るスレだっただろ? そうメモしたはずだ……ほらノートのここに……」

「はっはーん。生田くん、理由がわかったよ」

「えっ?」


 なんだ?

 何を見つけたのかわからないけど、ドヤ顔水野さんになった。


「ほら、これ。アフリカの消えた村の噂について語るスレって書いてるでしょ? やだな〜、生田くん。びっくりさせないでよ」

「えっ? そんなはずは……」


 だが、入力し直して検索をかけるとそれはあった。



***


【不可解】アフリカの消えた村の噂について語るスレ【閲覧注意】


このスレは、SNSなどでたまに話題になる

「地図に存在しないアフリカの村」について情報交換するスレです。


・書き込みは自己責任で

・デマ、ネタ、オカルト歓迎

・現地に行くとかはマジでやめとけ

・次スレは>>980が立ててください


***


「ほらあったよね。私の言ったとおり。生田くん、疲れてるのかな? なんだったら私が癒やしてあげようか?」


 これだっけ?

 なんか違うような……?


***


1 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 yyyy/mm/dd hh:mm:dd:ss ID:abc123

この書き込みは存在しません


2 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 yyyy/mm/dd hh:mm:dd:ss ID:def456

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3 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 yyyy/mm/dd hh:mm:dd:ss ID:ghi789

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4 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 yyyy/mm/dd hh:mm:dd:ss ID:jkl012

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5 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 yyyy/mm/dd hh:mm:dd:ss ID:mno345

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10 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 yyyy/mm/dd hh:mm:dd:ss ID:Bcd890

この書き込みは存在しません


***


 いや、絶対違う……。

 こんなのありえない……。


「あっ、癒やすって、そういうことじゃないからね! 肩でも揉んであげるとか、そういうんだからね! お弁当をあ〜んくらいならいいけどって何言ってんの私!?」

「ちょっ……」


 画面から目が離せない……。


「どうしたの生田くん。ごめんね、変なこと言って……」

「水野さん、画面見て……」

「画面?」


 話に夢中な水野さんを促してしまったのは良かったのか悪かったのか……。


「これって……えっ……?」


 水野さんもこのおかしさに気付いたようだ。


 しかし……。


「なっ……」

「なにこれ……?」


 いきなり画面の中で崩れ落ちていくスレッド。


 怖い……。



 ぐしゃって音が聞こえてきて気持ち悪い……。



 これ以上見ていてはいけない気がする。頭の中がぐるぐるする。


 ふと横に視線を向けると、俺の肩の上からのぞき込んでいた水野さんも真っ青な表情になってる。


 これはまずい……。



 閉じろ……。


 ノートパソコンを閉じるんだ!


 そうすれば戻れる……どこに?


 動け俺の腕……逃げるの?


<抑えよ……>


 うわぁぁぁぁぁぁ!


 パタン




 なんとかノートパソコンを閉じた……。


 一気に温度が戻ってくる。


 もう声はしない。


 声?




「はぁっ、はぁっ……」


 俺の肩をぎゅっと握っていた水野さんの呼吸音が聞こえてくる……。



 あれ?

 俺達何してたんだっけ?



「ねぇ生田くん。今日は……」

「帰ろっか」

「うん……」

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