▽第15話 帰還、そしてもう一度敵の巣へ
「オッッ! がっ、はぁ……はぁ……」
マカルタの口、肛門から産まれ落ちる触手。水たまりになるほどの量が垂れ落ちた白濁の液体。
数分を掛けて、マカルタはようやく体内の触手を全て吐き出せた。
「マカルタ、大丈夫?」
「大丈夫ですわ、お母様……」
心配するマレイア辺境伯に、マカルタは息を整えつつ答える。
「うぇ! もうこんな成長してる!」
一方でルーシーは驚く。その視線の先にあるのはマカルタから吐き出された触手。
しかし吐き出された触手は一つに結合。星型の形で、成人並の体重と全長5mの大きさへと成長していた。
「全員離れろ」
ユウは言う。
TSbは賢い。周辺の触手が凍らされ、巣への結合と巣の拡大が出来ないとなると、すぐに次の苗床の対象を探すことに切り替えた。
「マレイアさん、マカルタさん、早く!」
ルーシーも言う。
TSbの触手が向く先はマレイア辺境伯とマカルタ。二人の背後を取っており、一番近くで狙いやすい位置にいる。
「まさかワタクシも!?」
「そんな、お母様!」
次の苗床の対象は二人に決まった。触手が伸びて、二人の体に絡み付く。
「間に合わない!」
「間に合わせる」
助けるには間に合わない。ルーシーが思う一方で、ユウはマナ制御で身体を強化。間に合わせるという宣言の通りに一瞬で走り寄り、二人に絡みついたばかりの触手を全て掴んだ。
「勇者様!」
「うおぉ! さ、さすがぁ!」
掴んだ触手から星型の本体にまで、ユウは思考型の氷魔法を再び放つ。
これでマカルタから産まれ落ちた触手は完全に凍結、無力化した。
「大丈夫ですか、お二人共?」
「なんとか大丈夫ですわ。マカルタは?」
「アタクシもなんとか……」
ユウの心配にマレイア辺境伯とマカルタは答える。
二人は揃って無事。新たに子種を植え付けられることはなく、苗床とならずに済んだ。
「よし、一旦転移で脱出します。俺に掴まってください」
「分かりましたわ。ほら、マカルタも」
「あ、はい!」
「オッケー、ユウ君! いつでも転移しちゃって!」
全員がユウに掴まった。
ユウは思考型の転移魔法を使用、全員揃ってTSbの巣から撤退した。
次に視界に映るのはルデンバ村から離れた場所──村から退避した村人と兵士の集まり。
「……帰ってこれた」
マカルタの独り言。触手を孕むだけだった暗闇を抜け、地上に生きて戻ってこれたことを実感した様子であった。
「あ、マレイア様──マカルタ様!?」
「マカルタ様だわ! マカルタが戻ってきたわよ!」
「マカルタ様が帰還なされたぞ!」
マカルタの帰還に村人と兵士は歓喜し、集まってくる。
「皆の者、ワタクシは再び救出に向かいます。その間は我が娘マカルタを頼みますわね」
「はい、マレイア様!」
「お任せください!」
「マカルタ様、こちらへ」
マレイア辺境伯は村人たちと兵士たちにマカルタを託した。
そこからはもう一度の巣への突入。マレイア辺境伯はユウとルーシーに合流する。
「勇者イサム、魔王ルーシー、救出の続きをやりますわよ」
「よっしゃ、全員救ってハッピーエンドと行こうじゃん!」
「フッ……了解」
ユウは笑みを浮かべる。
いつもは人間的な感情が薄くても、誰かを救って充足する感情と仲間との賑わい、前向きなルーシーの元気さには固い表情が崩れていく。
「お母様! 勇者様方!」
マカルタの呼び声。
体に付着した粘液を拭きとられている最中のマカルタが三人を呼び止める。
「全員を救って、必ず帰ってきてください!」
マレイア辺境伯は〝必ず帰る〟と応じるように頷く。
そんな見送りの言葉を背に、三人は再びTSbの巣へ出向いた。
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