第15話 接触
ゴブリン狩りを終えて、おれは地面に落ちた石を拾ってシアの元へと戻る。
「ランクが上がって、明らかに魔物の強さが上昇したな。」
「マリーちゃん達には厳しいかもね〜」
まあ、ランク自体10段階しかないのだから、必然的にかなり強くなるか。
ただ、今戦った感じ、全然余裕そうなのはわかった。
人型の魔物が出現するようになったのは厄介ではあるが、まだまだ身体能力は低い魔物ばかりなので、一人でも余裕で勝てそうだ。
これくらいだったら、地元の近くにある森の方が断然危険度が高い。
おそらくオルエイの狩りで使われるエリアは、今までそういった経験がない生徒でも問題ない作りになっているのだろう。
ひとまず戦闘を終え、ひと段落ついた所で、おれはシアに聞く。
「また魔物を探すか?」
「賛成。次はゴブリンじゃなければいいなあ。」
……シアもゴブリンは嫌らしい。
おれ達は次の魔物を探しに再び探索を始めた。
しばらくして、次の魔物が見つかる。
少し大きめの’’ゴキブリ’’が、家の庭にて見つかった。
さて、戦おうか。
そう思った瞬間、予想外のアクシデントが起こる。
シアが急に悲鳴をあげたのだ。
「きゃあああああああッ!」
今までどちらかというと静か目だったので、突然の奇声に俺はびっくりする。
「し、シア?」
叫び声が聞こえたのか、ゴキブリが猛スピードでこちらへ突進して来る。
「無理無理無理! むりーーー!」
そう叫びながら、シアが抱きついてきた。
「ちょっ、シア!?」
なんだか、顔に柔らかい感触が伝わる。
ふわふわしたような、でも弾力があるような……
これはもしかして……
いや、それどころじゃない。
「シアッ! どいてくれ、前が見えない!」
「むリィいいいいいい!」
離そうとするが、なかなか離れてくれない。
華奢な体だが、思っているより力が強いのだ。
「ちょっ、頼むからどいてくれ!」
「え、エスタ、なんとかしてえええええ!」
「だからどけってッ!」
ゴキブリがこちらへ接近している音が聞こえる。
ガサガサと気持ち悪い音だ。
しかもかなりの速度だ。
俺は必死にシアを離すが、依然変化なし。
数秒後、俺達はゴキブリにふっとばされた。
かなり硬く、そしてスピードも相まって痛い。たぶん軽い打撲をした。
吹っ飛ばされたのち、ようやくシアが離れてくれたので、すぐに俺がゴキブリの討伐をする。
方がつき、魔石を拾ったのちシアの元へ駆け寄ると、一言、
「エスタ、ごめん……」
と半泣きで謝られた。
「なんだ……その……ゴキブリ苦手だったんだな……」
「ゴキブリというか、虫全般が無理なの。昔でっかい蜘蛛に食べられかけたのがトラウマで……」
「それはなんていうか……」
生理的に無理とかじゃなくて、ちゃんとした理由だった。
「まあ、次はなるべく早く倒すから、気をつけてくれ。流石に抱き付かれると身動き取れなくなっちまうから。」
「うぅぅ。このエリアに来るんじゃなかった。」
その後、彼女は一人でぶつぶつ後悔を言い続けていた。
☆★☆★☆★☆★☆★
今回の狩りは前回と比べて順調とは言い難かった。
ゴキブリに限らず、虫型のモンスターが数種類いて、シアが全く動けなかったのだ。
ゴブリンの方は簡単に狩れたんだが、虫型はいちいち苦労した。
特に一番やばかったのは蜘蛛型の魔物の時だ。
シアが虫嫌いになったきっかけだと言っていたが、実際に遭遇するとそれはもうやばかった。
突如シアが四方八方に魔法を連射し始めたのだ。
しかも肝心な蜘蛛には全くかすりもせず、逆に俺がなんども攻撃を受ける始末。
なんとか撃ちだされる魔法を避けながら蜘蛛を切ることには成功したが、彼女の火魔法で左腕を火傷した。
もう二度とシアと蜘蛛を遭遇させないと誓った。
今回の狩り、一人で来た方が効率がよかったんじゃないかと思えるほどには大変だった。
そんなわけで、受付で換金しても2450オルにしかならなかった。
あれだけ一つの戦闘で時間がかかっていたら減るのも納得だ。
しかし、せっかくランクが上がったのに、前回の半分だなんて世知辛い。
終了報告を終えて、狩りの受付所を出ると、シアにめっちゃ謝られた。
「エスタ……ごめん。」
「いいよ、気にしてない。」
まあ、全然うそだけど。
こちとらあんたの攻撃で火傷を負ったんだ。気にしてないわけがない。
ただ、シアも故意じゃないのがわかるし、ちゃんと何度も誤っているので、俺は今回のことは流すことにする。
「まあ、トラウマを治せとは言わねえけど、ちょっとずつ慣れたらいいな。」
「うん、私頑張るよ。」
そう言うと、シアは黙り込んでしまった。
なんだか落ち込んでいるようだった。
しばらく無言の時間を得て、小さな声で彼女は言う。
「……また一緒に狩りしてくれない?」
「いいよ、別に。」
「やった! やっぱエスタ大好き!」
彼女が思いっきり抱き付いて来る。
さっきは思いっきり振り払おうとしていたが、もはや慣れてきて何も感じなくなってしまった。
それにしてもなんでこんなに好感度が高いのやら。
俺、昔知らない所で、彼女に何かしたかな?
疑問が残るまま、おれ達の狩りは終了した。
☆★☆★☆★☆★☆★
帰り道。
おれは思っていた疑問を率直にぶつけることにした。
「なあ、シア。」
「ん? 何?」
「俺、昔君に何かした?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「いや、自分が好かれている現状が慣れなくて。なんていうか落ち着かない。」
「あ〜、なるほど。エスタ、苦労してきたんだね〜。」
「いや、まあそれなりには苦労してきた自信はあるが……」
俺がそう答えると、シアが少し悲しそうな目で語りだす。
「多分ね、エスタと私って似たもの同士なの。」
「似たもの同士?」
「私ね、吸血鬼なの。」
そのカミングアウトは、かなりの衝撃だった。
そして同時に頭の血が降りて来るのがわかった。
『吸血鬼』といえば知らない魔族はいないだろう。
寿命が長く、他の生物の血を吸うことで生きている種族だ。
そして別名汚れた魔物。
そう、この魔界において吸血鬼という種族は差別対象にある。
吸血鬼は生物学上分類が難しい。
人の形をしていて、魔族に分類されると言う人もいるが、一方で魔族とは生活様式や食事が違うことから魔物と分類する人もいる。
よって、魔族の皮を被った悪魔として迫害されてきた歴史がある。
今でこそ表向きに差別することは禁忌とされているが、昔からの歴史の影響は根強い。
彼らを良しとしない人も多い。
まさかシアがその一員だったとは。
彼女は聞く。
「驚いた?」
「ああ、かなりな。」
「それでどう? 吸血鬼だって聞いて、私への印象は変わった?」
「いや、逆に親近感が湧いた。」
「でしょ、だからエスタが好きなの。」
俺も、かつては魔族の子として扱われていなかった。
魔力が無いことによって、勝手に悪魔だとされ、虐げられてきた過去がある。
そう考えると、確かにシアは似たもの同士なのかもしれない。
「じゃあ、帰ろっか、エスタ。」
そう言って、彼女は寮に向かって足を踏み出していく。
なんだかはぐらかされたような気がするが、まあいいだろう。
時間はまだまだある。
またいつか同じ質問をしよう。
「ああ。」
俺はそう返事をしてシアの後を歩きだす。
もう時間は遅い。
ちょうど日が暮れ出していて、空がオレンジ色に染まっていた。
帰ったら筋トレと素振りをしよう。
そう思って歩いていると不意に知っている声が聞こえてきた。
「誰が帰るって? 俺様の許可なしに寮へ戻るのは許さねぇぞ、カスども。」
俺達はすぐに声の方を見る。
すると、そこには木によりかかったグレルが立っていた。
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