第11話 傲慢貴族様

 問題が起こったのは、入学してからすぐ、次の日だった。


 朝7時。


 おんぼろ寮のおんぼろベッドで目覚め、おんぼろ飯を食って、学校の支度をし、おんぼろ教室へと向かう。


 途中でシアとローズマリーと合流して、ナルキ、俺、との昨日の4人グループが結成する。


 朝礼は朝8時半。


 朝はかなりゆっくりできるが、まだ入学したてなのもあり、念の為余裕を持っていく事にしていた。


 道中で見覚えのあるクラスメイトの顔がちらほらと見られる。


 まだ初日なのもあって皆早めに向かっているようだった。


 朝8時、教室に着く。


 相変わらずぼろぼろで今すぐにでも壊れそうな壁や抜けそうな床。


 しかし、寮の設備があまりにも悲惨なせいで、多少マシに見えてしまうのはすでに重症かもしれない。


 クラスメイトもすでに七割くらいが集まり喋るなり着席するなりしている。


 まだ初日だが、すでに仲の良いグループが出来つつあるのは、寮生活の副産物だろう。


 俺たちも自分達の席に荷物を置いて、ナルキの席の周辺で雑談することにした。


 朝8時10分、まだ朝礼まで20分もあるのに、クラスメイト20名全員が既に教室に到着している。


 流石、オルエイに受かる人達なだけあって、みんな真面目なようだ。


 問題はここからだ。


 全員が集まったのち、それを確認して複数人の男達が前の教壇に立ち始めた。


 まだクラスメイト達の顔と名前を覚えれていないので誰だかわからないが、1人だけ知っている顔があった。グレル。昨日先生に掴みかかって怒られていた生徒だ。


 彼は、前に立ったと思ったら急に思いっきり教卓を叩いた。


 突如、大きな音が教室中に鳴り響き、ザワザワと騒いでいたクラスメイト達は一瞬で黙り込んでグレルの方を向く。


 全員が黙り込んだのを見て、グレルは一言。


「テメェらは今から俺様の手下な。」


 何をするのかと思えば、突然訳のわからない事を言い出した。


 教室は彼の一言でざわつきだす。


 不快だったのか、彼は思いっきり机を叩き、他のクラスメイトを黙らせてから続ける。


「俺様はグレル・サーズティン。サーズティン子爵家の長男であり、このクラスの序列一位に君臨している。つまり、テメエらとは身分も実力も上って訳だ。テメェらには、俺様の下僕になる義務がある。」


 そう横暴に振る舞うと、彼は一人の少年を指さした。


「おい、テメェ。」


「は、はいッ!?」


 指の先にいたのは、メガネをかけた冴えない男の子だった。


「知ってるぜ、てめえ昨日狩りにいって金を稼いできたそうだな。」


「は、はい……」


「いくら稼いだ?」


「え?」


「いくら稼いだかって聞いてんだッ! 耳腐ってんのか?」


「200オルです。」


「ちっ、少ねえな。まあしょうがねぇ、なら100オルよこせ。」


「は?」


「貴族の俺様からの命令だ。100オルよこせ。」


 彼がそう言うと、ローズマリーが立ち上がって反論した。


「待ちなさい。ここは初代魔王の残した神聖なオルエイ高等学園。この学園の中では、身分を乱用する事は許されませんわ。」


「ああ? テメエは確かオルトー家のローズマリーだったか?」


「そうですわ。」


「はっ、オルトー伯爵家の落ちこぼれがよく言うぜ。」


「なっ! それを言うならあなただってサーズティン子爵家の後継者から外された落ちこぼれでしょう!」


「だが、テメェより順位は上だ。」


 グレルがそう指摘すると、ローズマリーは口を噤んでしまった。


 彼女が黙り込んだのを見て、彼は笑いながら言う。


「いいか? 全員これから狩りで得た金の半分を税として俺に渡せッ! もしそれができねぇなら、これからの学園生活、安全に暮らせると思うなよ?」


 彼の言葉に、誰も何も言わなかった。


 理不尽だとは思うが、誰も彼に刃向かうことはできない。


 この国は弱肉強食で強い奴が偉い。そして、グレルは、このクラスの誰よりも強くて、身分が高い。


 誰も刃向かえるわけがない。


 この場は完全にグレルが支配していた。


 しばらくしてチャイムがなり、教室に先生が入ってくる。


 すると、グレル一味は満足げに自身の席へと戻って行った。


 嫌なやつだな〜と思いながら、俺は彼らを見ていた。





 ☆★☆★☆★





 その日は、入学後初めての授業日だった。


 授業は50分の尺が4時限に分けられていて、午前中で終わる。今日は1時限目が数学、2時限目がギャルバン歴史、3、4時限目は魔法学だった。


 それぞれかなりレベルは高かったが、まだ中等学園などで、これまで習ってきた範囲の延長線だったのでわかりやすかった。


 そして四時限目が終わったら、俺、ナルキ、シア、ローズマリーは4人で昼食を食べに行った。


 場所は食堂。


 様々な店が並んでおり、いろんな食事が楽しめる。


 しかし残念ながら、新入生で尚且つFクラスの俺達は一つのレシピしか食べられなかった。


 店舗を回っていると、《クラス順位3以下お断り》や、《クラス順位5以下お断り》といった看板が貼られているのだ。


 俺たちはクラス順位6位。


 殆どの店が使えない。


 よって、昼食はバターが塗られただけのパンを食べる事になった。


「それにしても、あのグレルってやつ、そうとう感じ悪いね。」


 四人席に座り、ご飯を食べ始めてから、ナルキの最初の一言目がそれだった。


「あの人は昔からあんな感じでしたわ。」


 ローズマリーがそう言うと、ナルキが反論する。


「でも、いくら何でも横暴だよ。マリーにもあんなこと言うし。」


「仕方ありませんわ。確かに彼の方が私より優秀ですし。」


「だからって……」


「私は気にしておりませんわ。」


「むぅ……」


 ナルキは、ローズマリーに対して不機嫌そうに頬を膨らませる。


 対して、彼女は無料で飲める安物のコーヒーを上品に飲み、ナルキの言葉を軽く受け流していた。


 ナルキはパンを口いっぱいに頬張りながら愚痴をこぼす。


「そもそも何なのさ。収入の半分を渡せなんて。ちょっと僕達よりも順位が高くて生まれが良かっただけなのにさ。」


「ナルキ、それ、俺たち以外の場所では絶対に言うなよ。特に後半。貴族にその発言を知られたら、まともな学園生活を送れなくなるぞ?」


「わかってるよ。でもなんか悔しくない? すごい下に見られてる感じがして。」


「いや。まあ、気持ちはわかるが……」


 オレがそう言うとナルキは一瞬黙り込んでしまった。が、その後、何かを思い付いたかのようにシアに声をかける。


「ねえ、確かシアって、クラス順位2位だったよね?」


「え? うん。」


「なんとかあのグレルってやつ黙らせられない?」


「ん〜、出来ないことはないと思うけど、多分そんなに気にする必要ないと思うよ。」


「でもさあ〜。」


 ナルキはふてくしながら口を尖らせた。


「皆んな、思ってたより興味薄いね。」


 まあ、気にしてもしょうがないしな。


 相手は貴族だ。下手なことがない限り、関わりは持たない方がいい。

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