第17話 心理戦の果て


 夜の生徒会室は、静寂と緊張で張り詰めていた。

 凌、真帆、瑠奈、そして颯馬――四者の視線が、互いに剣のように鋭く交錯する。

 封印テープと崩れ落ちた資料が机の上に広がり、まるで戦場の地図のようだった。


「……計画を守るために、どれだけの命を犠牲にしてきたんだ?」

 凌の声は震えているが、力強く、鋭く颯馬に突き刺さる。

 颯馬は口元に微笑を浮かべ、落ち着いた声で応じた。

「秩序を守るために必要な犠牲だ。君たちが理解できないのも当然だ」


 しかし、凌の瞳には迷いはなかった。

 彩音の声、封印テープの内容、資料の全貌――それら全てが、彼の背中を押していた。

「秩序を守るための犠牲なんて、存在しない! 命を奪ってまで守る秩序は、秩序じゃない!」


 颯馬は軽く肩をすくめ、机の向こうに座り直した。

「なるほど……君たちは正義を振りかざす。しかし、計画を暴けば、君たちも犠牲になる」

 その言葉には、心理的圧力と冷酷な計算が滲む。


 真帆が封印テープを持ち上げ、毅然と声を上げる。

「もう証拠は揃っている! これ以上、隠し続けることはできない!」

 テープの音声が颯馬の策略を覆す力を持っていることを、真帆は知っていた。


 颯馬は微笑を消し、冷たい視線を二人に向ける。

「……証拠だけでは、この心理戦を制するには不十分だ。

 君たちの感情の揺れが、最大の弱点だ」


 瑠奈は手を震わせながらも、凌に視線を送る。

「……凌、諦めないで……私たち、彩音さんのために……」


 凌は頷き、目を細める。

「そうだ……恐怖や怒りに負けず、事実だけを見ろ」


 副会長はゆっくり立ち上がり、二人の間に立つ。

「では……心理戦の結末を見せてやろう」

 その瞬間、室内の空気が鋭く震え、互いの呼吸が重く響く。


 凌は冷静に、しかし内心の怒りと焦燥を抑え、資料と証拠を見つめる。

 颯馬は一歩一歩近づき、言葉を巧みに操り、心理を揺さぶる。

 だが、三人は揺るがない。彩音の死、そして真実を守る決意が、彼らの心の軸となっていた。


 部屋の静寂が限界に達した瞬間、封印テープの声が響き渡る。

 彩音の震える声、しかし決意に満ちた声が、颯馬の冷徹な計算を崩し始める。


「……これで、終わりだ」

 凌の低い声が部屋に響く。

 颯馬の表情が一瞬揺れる。

 心理戦の果て、ついに均衡が崩れ、犯人は追い詰められた――。


 夜の校舎に、真実と決意が静かに光を放つ。

 封印テープと資料、そして三人の揺るぎない意志が、心理戦の勝利を確実にしていた。


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