18曲目 推しの膝枕と懺悔タイム
「ただいま~!!!」
元気な恋乃実が帰ってきた。
雪さんが固まる。
「……え?」
まだ、玄関の扉が元気よくバタンとしまっただけ。
でも、俺ら家族はおろか、雪さんも常日頃から聞き倒しているあの元気な声が家に響いたのだ、無理もない。
パタパタ、トントン。廊下に恋乃実の足音が響く。
マズいっ!!!!
リビングの扉が開いた――
「みんなのおりひめ」は俺の彼女にすぐに気がつく。
「あーーっ!!!おにぃの彼女さんですね!!!」
雪さんがリビングの扉へ振り返る。バタバタと近づいてくる恋乃実。
「はじめまして!妹の恋乃実って言います!よろしくお願いします!!」
恋乃実の手が雪さんの右手を掴んで握手する。
ぶんぶんと効果音が聴こえてきそうな勢いで振って離さない。
――俺は振り返って見えなくなった雪さんの表情を伺いに、正面へ回り込んだ。
「はへっ…!??!????!!??????」
恋乃実を見て固まるコノミ推しの女ヲタ、雪さん。
間に合わなかった……。
「え!!???コノミちゃん!?え????え?えええ!!!!???」
「あ!私の名前を知ってくれてるんですね?ありがとうございます!」
恋乃実が笑顔を向けて雪さんを見つめる。
「えええ????ふぁ??えぇ???なんで?……なんで?」
雪さんは事態が飲み込めていない。
「って言うかあれ?いつも応援してくれる女性の方だよね?ってことは、おにぃ?雪さん?」
コノミが彼女の正体に気が付いた。
流石、ファンを丁寧に殺していく我が推しだ。
今日イベントで飛んで行った黄色い歓声は届いてたらしいぞ、雪さん……よかったね。
そして熱狂的なヲタクなのは今だから言えるが、我が食卓でも話題に上がったことがあるぞ……じゃ、なかった。
――その刹那。
一日の標準コノミ摂取量を超過した雪さんは白目をむいて、リビングにぶっ倒れた。
◇◆◇◆
「おにぃ!ちゃんと説明してあげないとかわいそうだよ!!!」
「ごめん。タイミングがなくてうっかり」
「うっかりじゃないって!柚季さん……大丈夫かなぁ……」
雪さんは恋乃実の膝を枕にして、母ちゃんが急いで持ってきた濡れタオルを額に載せ、伸びてしまっている。
――恋乃実…コノミの膝枕。
起きた瞬間にまた雪さんは気を失ってしまいそうな光景ではあるが、幸運なことにどこかをぶつけたわけでもなく、気を失っただけ。
たぶん……安静にしていれば大丈夫だ。
「ごめんって」
俺は雪さんが無意識に恋乃実の膝を堪能している間に、大半の説明を終えた。
彼女が根っからのコノミの大ファンである雪さんであり、俺の彼女の柚季さんであるということ。
パタパタとうちわで雪さんを仰ぎながら、不服そうな目を恋乃実は向けてくる。
雪さんと恋乃実の体格は似たり寄ったりだったので今の光景はどちらがお姉さんか忘れてしまいそうだったが、眼福の極みだった。
美少女の膝に沈む美女――生きててよかった。
「んっ……」
雪さんが息を漏らすと
「柚季さん。大丈夫ですか?ここがどこだかわかりますか?」
恋乃実が目線を落として柚季さんに話しかける。
「あれ。私、孝晴君の家に行った後……っ!!!!!?????」
雪さんが目を開くと、目前には太陽様菩薩様と崇めたコノミの顔が下から映ったに違いない。自分で置き換えて考えても、破壊力が高ぎる。
「コノミちゃん……コノミちゃんだ……」
「はい。みんなのおりひめ、コノミちゃんですっ」
「って、なんで……」
――雪さんが恋乃実の膝枕の上で休ませてもらっていることに気が付く。
「!?!?っ!!」
間髪入れずに、雪さんが起き上がる。
「ごめんね!!!脚、大丈夫かな!!??アザとかつけてない??? えーとえーっと、寝心地は最高だったっっ!!!!!」
「大丈夫ですよ!ありがとうございますっ!!!良かったですね!!」
めちゃくちゃ気持ち悪い美人の柚季さん。
恋乃実が柚季さんに気を遣わせまいと振舞ってくれた。
「ちょっと、落ち着いて考えさせて……ふぅ、ふぅ」
柚季さんは頭を押さえて目を瞑り、深呼吸を繰り返している。
ここだ。
このタイミングで白状しよう。
懺悔しよう――
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