11曲目 ”合法ストーカー”の完成
寝る前にメッセージを確認すると雪さんから待ち合わせ場所が指定されていた。
「とりあえず、代々木付近で待ち合わせしよう。朝六時。早いかな?」
さすが雪さん。ゲリライベントを理解している。雪さんの意見に異論なし。
「ありがと。賛成」
メッセージを返信して泥のように寝た――
◇◆◇◆
「行ってきまーす!」
翌朝、五時。
恋乃実の声が朝から元気なニワトリのように家中に響く。
インターホンはならない日――
日本全国一日店長ツアー。ゲリライベントの日。
諸君も思い浮かべてくれ、あの情熱的なテーマ曲。
『ヲタクの朝は早い』
ごほんっ。失敬。一度やってみたかった。
俺にはやっておくべき確認がある。
恋乃実が家を出た。
ドアが閉まった音がしたその瞬間から既にヲタクの情報戦は火蓋が切られている。
俺は、勢いよくベッドから起き上がると、照明をつけ、自室のカーテンを開けに向かう。
気持ちの良い日差しを浴びたいわけでは無い。
秋だし太陽は非ヲタのお寝坊さんだ。まだ昇ってきてない。
シャッっと勢いよく開けるのがポイントだ。
きっと、恋乃実……コノミが振り向く。
俺は、カーテン本体と、遮光カーテンの二枚を掴み、勢いよく音を立て開ける。
窓の外。
下で、三上さんに連れられ歩く、トップアイドルは予想通りこちらを振り向く。
辺りは闇に包まれているが、俺と諸君は、我が家の自動照明が仕事をするのを知っている。
ステージの照明でも玄関の照明でも、光り輝く我が推しのアイドルはこちらに笑顔で手を振っている。
これは、兄貴特権。最高だろ?
その笑顔はもちろん拝んでおくし手を振る必要があるが、本筋はそこじゃない。
背後に控える車両。
本日、コノミが一日中お世話になる車両とナンバープレートが最重要なのだ。
関東近郊だから、レンタカーではなく運営車両だろうと予想していたが、全く違う。
確認しておいてよかった。見慣れた車両ではなかった……。
売れて無い頃、メンバーを日本全国連れまわったワンボックスタイプの練馬ナンバーではない。
そこに居たのは、品川ナンバーで「わ」が表示された白色のファミリーカータイプの車。ナンバーには電飾が施されており、数字を正確に確認できた。
アイドルとして順調に売れてくれてよかった。
一日だけという少しの時間でも、遠慮なしに車は借りることができるらしい。
あれなら一日車内で揺られてもコノミの身体へ負担は少なそうだ。
俺らの汗水の証こと、巻き上げたお金は有意義に使ってほしい。
話が逸れた。
品川ナンバーということは、レンタカーは一日イベント終了後、即返却だろうか?
ゆえに本日のゲリラ最後の店舗。
第一候補はKARENの聖地、渋谷。
それくらいなら、他のヲタクでもたどり着けそうな、容易な解な気がしたが今はそういうことじゃない。
どれほど、下準備を進めて、自信をもってイベントに挑むかということが大切だ。
三上さんが一礼してこちらに挨拶してくる姿が見えた。
軽く、こちらも一礼しておく。
どうか、コノミを安全運転でCDショップへお届けしてほしい。
二人の意識がこちらから逸れて、車に乗り込む。
俺はそっと、携帯を取り出し、車種とナンバーをメモしておく。
さあ、雪さん。
俺らチームは日本一のアドバンテージを得た。
法律に抵触しない変態ストーキングができる系の超キモいヲタクだ。
昼は新宿、夜は恐らく渋谷。
この物語を楽しむ諸君も。
六時に代々木で会おう――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます