第14話 戦術兵器、最初の証明
『囁きの渓谷』。ゼノス・ブレイドがたった一人で暗部の工作員たちに立ち向かった瞬間、戦場の空気は凍りついた。工作員のリーダーは、かつての英雄の登場に一瞬怯んだが、多勢であると強気に叫んだ。
「たかが剣士一匹! 殺せ! この輸送を止めるんだ!」
工作員たちは一斉にゼノスに襲いかかった。彼らは毒を塗ったナイフや、破壊工作に特化した魔導具を携えている。動きは鋭く、獲物に対して容赦がない。
しかし、ゼノスはすでに武力の美学を捨てていた。彼の動きは、感情的な反射ではなく、精密に計算された最適な動作を選んでいた。
「無駄だ」
ゼノスは一歩踏み出し、工作員の一人が振り下ろした斧を、アレスの【時空干渉性・強化コーティング剤】が施された剣で受け止めた。キン、という金属音は鳴らない。音は鈍く、斧の刃がゼノスの剣に触れた瞬間、粘度の高い何かに絡め取られたかのように動きを鈍らせ、瞬時にヒビが入った。規格外のコーティングは、接触した物質の属性を一時的に乱し、強度を奪う効果を持っていたのだ。
「馬鹿な……特注品の魔鋼斧が、触れただけで!」
ゼノスは剣を振るうことすらせず、柄頭で相手の顎を打ち抜いた。規格外のアイテムが生み出す衝撃波が、工作員の頭蓋を内部から揺さぶり、彼はそのまま意識を失って吹き飛んだ。
(俺は道具だ。武力至上主義は、この一撃で終わった。俺に許された道は、アレスの戦略を遂行する『戦術の盾』となることだけだ)
武力至上主義という信念が崩壊したことで得られた研ぎ澄まされた思考力と、規格外の強化剣の圧倒的な性能が組み合わさる。
「回復ポーションを用意しろ! こいつはただの英雄ではない!」工作員の一人が叫んだ。
輸送隊の護衛隊長は絶望的な表情で首を振った。「無駄だ! 奴らが持っているのは、ベリアスが納入させた劣悪品だ! 回復どころか、体力を消耗させるだけだ!」
絶望が暗部の工作員たちを襲う。彼らは、目の前の剣士が持つ力が、自分たちが頼っていた王国の腐敗した物資の力を遥かに凌駕していることを悟った。
ゼノスは地面を蹴った。一瞬で工作員たちの間を縫うように移動し、無駄のない動きで喉元、心臓、関節といった急所を正確に叩き潰していく。彼の動きは冷徹で、感情が介在しない分、以前よりも遥かに効率的で速い。虹色の光を放つコーティングが、工作員たちの装備や肉体を容易に貫通させた。
数秒後、抵抗していた暗部の工作員たちは、すべて地面に倒れ伏していた。戦闘は、一方的な殲滅戦として終結した。
ゼノスは剣を鞘に収める。彼は重傷を負った護衛隊長の方を見ず、冷たい声で指示を出した。
「輸送を再開しろ。遅延は、戦略的資源の供給計画を狂わせる。俺の任務は、このルートの安全確保だ。貴様らが使用している劣悪なポーションはすべて捨てろ。自由都市へ到着次第、アレスが規格外のポーションを提供する」
隊長は、彼らを追放した男の指示に従わなければならないという屈辱と、命を救われたという現実の狭間で、ただ呆然と頷いた。
***
自由都市ギルド総本部地下。『空間整備(ファクトリー・ゲート)』の中枢室。
アレスは、大型の情報端末に映し出された渓谷の映像と、ゼノスの戦闘データを分析していた。
「戦闘終結を確認。所要時間、一分三十秒。工作員十三名、すべて戦闘不能。輸送隊の損害、工作員介入前と同じ。資源ルートの安全確保、完了だ」アレスは淡々と報告を読み上げた。
隣に立つ行商人リーナは、興奮を隠せない様子で、端末の映像を指差した。「見てくれよ、アレス! あのゼノスが! あんたの規格外の剣で、まるで人形遊びみたいに暗部の精鋭を蹴散らした! あんたの策略は本当に恐ろしいほど正確だね!」
アレスは顔色一つ変えず、冷たい笑みを浮かべた。「彼は最高の『戦術の盾』として、再構築された。肉体的な才能と、僕の合成アイテムの規格外の性能が組み合わされれば、結果は自明だ。彼は感情を排したことで、武力の美学という呪縛から解放され、真に効率的な戦闘手段を選べるようになった」
「これでベリアス大臣の残存勢力も、この資源ルートには手出しできないと理解したはずだね」
「その通りだ。ベリアスの最初の抵抗は、失敗に終わった」アレスは、情報端末の表示を、王都周辺の資源採掘所のデータに切り替えた。「資源ルートの安全は証明された。リーナ、次のフェーズだ。王国の硬直した資源、特に魔法素材は、すべて自由都市へ流れてくる。協力者たちに指示しろ。採掘所の流通を完全に僕たちの支配下に置く。これで、僕の**『大陸整備』計画**の原料庫は無限となる」
アレスは窓の外を見据えた。
「王国の硬直した流通を破壊し、資源を組み込む。これが、僕の世界を整備し直すための、完璧な準備だ」
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