お願いすれば・・
唐糸真司とは、殆ど絡むことが無かった。
同じクラスではあるが、休み時間はあいつはゲームをしていてクラスメイトと話すことは無い。
それどころか授業中寝ていることも多い。
謎なのは、寝ているのに先生がいつもスルーしていることだ。
他の生徒が寝ていると容赦なく怒るのに・・
だから、あいつの声を聞くことも滅多にない。
そう言えば、ここ・・
ハッとして後ろを向き鳥居の上に掲げて額束に書いてある神社の名前を見た。
「あ・・・唐糸・・」
そこには、唐糸神社と書かれていた。
「っぷ・・お前、何回も来てるのに・・クク」
下を向き肩を小刻みに揺らして笑っている。
唐糸の声は、想像より少し低かった。
「・・・・」
こいつ普通に笑うんだな・・と新たな一面を知れた気持ちでいると
「じゃ、俺帰るよ!バイトあるんだよね!ってか首が痛かったんだけどさ、お参りしたら治った気がする!神社凄いね!」
小鳥遊が言いながら唐糸の肩を叩いた。
「自覚症状あったのかよ・・」
そう言うのは、もっと早く行って欲しいと思っているうちに「じゃね!」と手を振りながらさっさと帰ってしまった。
「ま・・ここに連れて来たのは正解だよ。晴海ちゃん」
薄い唇の口角を上げ目を細めながら言った。
「っ!その呼び方止めろ!気持ち悪い!」
しかもバカにされたような言い方だ。
「良い名前じゃん?まあ・・ひねりが足りない気もするけどね~」
顎を摩りながらフフンっと小さく鼻を鳴らした。
どうやら顎を摩るのはこいつの癖のようだ。
「お前って、なんか・・イラつくな」
こいつが神社の息子だったことも知らなかったし、こんなに喋ったのも初めてだったが・・
話してみて、きっと友達にはなれないと思った。
「俺は帰る」
踵を返し帰ろうと歩き始めると、なぜか後ろから唐糸も付いてくる。
鳥居を潜り階段を下りても、あいつは直ぐ後ろを付いてくる。
「な・・なに?」
立ち止まり振り返った。
唐糸は目を細め微笑を浮かべた。
「小鳥遊に憑いていたやつさ~、しぶとい系だと思うんだよね」
「はい!?」
予想外の返事に体が固まってしまった。
「多分、また直ぐ戻ってくると思うよ?根本的な解決しないかぎり」
そう言って顎を摩りながら遠くを見るように目を細めた。
「は!?お‥お前・・視えるの!?」
今まで、俺と同じものを見ている奴に会ったことがない。
「フフ・・」
返事の代わりに小さく笑うと、俺の横をすり抜け軽快に階段を下りた。
「あ!ちょっと待てよ!」
慌てて俺も後を追った。
「小鳥遊は一応、俺の友人だしね・・今回は特別無料で祓ってあげようかな~と思ってね」
「へ!?」
また、予想外の言葉に言葉を失う。
いま・・なんて言った?
「ま‥待って!」
祓う・・と言ったか?それってもしかして・・と慌てて唐糸の肩を掴んだ。
「どうやって?」
「どうやってって・・ううん・・」
唸りながら腕組をして上を見た後、俺に視線を戻し
「どっかいって~ってお願いする感じかな」
そう言って、口角を上げて笑みを浮かべた。
「お願い?そ・・そんなんで良いの?」
お願いしたら、いなくなるものなのか?
「意外と、すんなり消えてくれるよ・・だいたいはね」
フフンっと鼻を鳴らすと、階段を下まで降りた。
「マジか」
言葉を失い、階段の下の唐糸を凝視した。
それじゃ、俺もお願いすればあいつら消えるのか?
「あ、でもお前が言っても無理だと思うから止めとけよ」
「そうなの?」
「だって、お前、神様信じてないだろ?」
「え?信じてるよ!」
見た事ないけど・・でも、神社には来れないようだし、そこに何らかの力があるとは思う。
「へ~・・」
俺の言葉に目を細め、フンっと鼻で笑った
「さあ、行こう」
「あ・・おう!」
歩き出した唐糸に俺も急いでついていった。
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