第6話 護衛からのプレゼント
「ふあ~ぁ……んみゅ……」
「メアリア、大丈夫……?」
「は、はい……ちょっと寝不足で……」
いつもの"仮面の魔女"の活動の後、更に魔道具作りのために徹夜しちゃったから、眠くて眠くて仕方ない。
ちょっとフラフラしながら登校した私は、アティナ様に支えられながら教室へ。
すると、準備万端待ち構えていた殿下と遭遇した。
「やあ、おはようメアリア。サンフラウ嬢もおはよう、いい朝だね」
「え、えっと……」
「ルカリオ殿下、おはようございます。ええ、いい朝ですね」
私がリアクションに困っていると、アティナ様が先んじて対応してくれた。
アティナ様曰く、ルカリオ殿下の名前は知っていたけど、今まで直接会ったことはなかったみたい。
なんだけど……このにこやかなやり取りを見ていると、ずっと関係を続けている友人同士にしか見えないよ。
これが、これが陽キャの対応力……!! ほぼ初対面だろうと関係なしにお喋りするなんて、私にはとても無理だ……!!
「どうしたメアリア、今日は元気がないな?」
「メアリアは、どうも寝不足みたいで……」
「ほう、そうなのか?」
ずいっと、殿下が私の目前にまで顔を寄せて来た。
うわっ、近っ!?
「おはようのキスをしてやれば、目も覚めるかな?」
私の顎に手を添えながら、にこりと微笑む殿下。
この人は女だって分かっているのに、中性的な顔立ちのせいか妙にドキドキしてしまう。
「こ、こんなところで、やめてください!!」
「はははは、つれないね、メアリア」
どうにか押し退けると、殿下はそれすらも楽しそうに笑いだす。
全く、殿下はもう……!!
「殿下~? メアリアも困っていますから、そのくらいにしましょうか~?」
すると、アティナ様が間に入って、私を助け出してくれた。
けど……気のせいかな? 大天使アティナ様から、何やら暗黒のオーラが出ている気がするんだけど。
「おっと、これは思わぬ伏兵がいたものだ。仕方ない、ここは退くとしようか」
え、殿下があっさり退いた!?
背中からでも分かるこの圧力、正面からだとどれだけのものなのか……ちょっと考えたくないかも。
「ほら、メアリア、行きましょ?」
「う、うん」
アティナ様に手を引かれ、今度こそ教室の中へ入っていく。
……あ、せっかく作った魔道具、渡しそびれちゃった。
愛人アピールをこなして、必要以上にベタベタされることを防ぎたいという目的を考えるのなら、みんなの前で堂々と渡すべきだと思う。
でも残念ながら、私にそれをする度胸はない。あったらとっくに友達百人作ってる。
だから、どうにか二人きりになれるタイミングを計ってるんだけど……意外と、見付からない。
「ルカリオ殿下〜! 握手して貰ってもいいですか!?」
「ああ、構わないよ」
「殿下! わ、私のこと、名前で呼んで頂いても……!?」
「ふふ、可愛いお願いだね、リサ。これでいいかい?」
「殿下、わ、私の名前を覚えて……!? はうぅ……もう、死んでもいいかも……♪」
「おっと……貧血かい? 気を付けないとね。保健室まで連れて行ってあげるよ」
「!!?!?!?」
殿下が女子生徒をお姫様抱っこして、教室を離れていく。
……いやいや、あんた最初、私に護衛して貰うには傍にいて貰わなきゃいけないからって理由でベタベタしてたよね!? 何を自分から離れてるの!?
ああもう!!
「あれ? メアリア、どうしたの?」
「ちょっとトイレ行ってきます!!」
アティナ様に断りを入れ、私も教室を離れる。
走って追い掛けると、私はすぐに殿下に追い付き……話し掛ける度胸もないままに、クラスの女子を保健室まで連れていくのを見届けた。
「さて……僕の愛しの子猫ちゃん。ずっと僕の後をつけたりなんてして、どうしたんだい?」
「誰が子猫ですか、誰が!!」
ふしゃーっ! と怒りを露わにすると、殿下は実に楽しそうにクスクスと笑う。
くそう、これじゃあずっと殿下のペースだ。何とか流れを取り戻さないと。
「ちょっと、付いてきてください」
「ふむ?」
殿下を連れて、向かったのは無駄にたくさんある空き教室。
他に誰もいないのを念入りに確認した上で、私は中に足を踏み入れた。
「そんなに警戒しなくても、誰もいないよ」
「どうして分かるんですか」
「これでも、僕は感知魔法が得意でね。周りに人がいるかいないかくらい、手に取るように分かるよ。もちろん、君が僕のいない寂しさに耐えかねて付いてきてくれたのも、すぐに分かったさ」
「勝手に人の気持ちを捏造しないでください!!」
誰が寂しがってるんだ、誰が!!
「ははは、冗談だよ。それで? 僕をこんな人気のないところに連れ込んだ理由はなんだい? ただ文句を付けに来ただけ、というわけじゃないんだろう?」
……全く、無駄に察しがいいな、この人。
「その……殿下にお渡ししたいものがありまして……」
二人きりならすんなり渡せるかなって思ってたんだけど……人のいないところでこっそり渡すって、それはそれでハードル高いな!? その気もないのに告白しに来たみたいな空気だよ、もう!!
「渡したいもの?」
「……こ、これです」
正直今すぐ回れ右して逃げ出したかったけど、徹夜までして用意した魔道具を腐らせるのも嫌だ。
何とか勇気を振り絞って、私は作ったばかりの勾玉のネックレスを手渡した。
「……これは……」
「魔道具です。魔力を込めると、自分の姿を完全に透明化して気配を遮断する幻影魔法が展開されて、私だけが分かる特殊な魔力の波長を飛ばしてくれます。要するに、もし私が居ない時に何かあっても、それを使えば一時凌ぎと救援要請が同時に出来るわけです」
若干早口になりながら、私は一気に魔道具の説明を終わらせる。
作ってる最中もずっと、どう説明すれば過不足なく伝わるか考えて、何ならカンペに文字起こしまでして練習したから、どこもおかしな部分はなかったはずだ。
……なのに、殿下は何も言ってくれない。ポカーンってなったまま、固まってる。
「ええと……だから……」
わ、私、何か間違えた!? やっぱり、もう少し詳しく説明した方が良かったのかな? 殿下の魔力量は見たところそんなに多い方じゃないから、限られたリソースで魔法強度と持続時間を両立させるために、殿下は最低でもこの王都内部にいることを前提に私の飛行魔法の最大速度から逆算して必要最低限の持続時間と限界強度を設定してるんだけど、そもそもどうして自衛手段が攻撃でも防御でもなく透明化なのかというと……って、そうだ!! そもそも私、大事な機能を一つ伝え忘れてる!! 私のバカ!!
「……ありがとう、メアリア」
頭の中で紡ぐべき言葉を必死でこねくり回していると、殿下がしみじみと呟きながらネックレスを胸に抱く。
その笑顔は、思わず見惚れてしまうくらいに綺麗で、可愛くて……。
「大事にするよ」
危うく、心を持って行かれるかと思った。
「いや、別に? それくらい大したものじゃないし? 私にとってはパパッと作れるものだから、別に殿下に感謝されたくて作ったものじゃないんだから、勘違いしないでくださいね!!」
「それでも、嬉しいよ。やっぱり、君は素敵な人だ……ますます惚れてしまった」
「こんなことで惚れなくていい!!」
ああもう、殿下と話してると調子狂うなぁ!
いちいちドキドキさせて来るし、ツッコミどころ満載だからいつになく大声を張り上げなきゃならないし……!
「愛人じゃなくて、友達なら……素直に喜べたのに」
独り言のつもりで呟いた私の言葉は、誰もいない空き教室に思った以上に響いた。
何となく気まずい沈黙に、私は何とか誤魔化そうと次の言葉を考えて……。
「友達か……悪いが、友達はあまり好きじゃないんだ」
「……え?」
「すぐに……離れて行ってしまうから」
殿下の言葉に、私は何も言い返せなかった。
言い返せるほど、私は友達っていうものについて詳しくないし、経験もないから。
だから私は、モヤモヤとした気持ちのまま教室へ戻って……。
殿下が首からぶら下げていた私の勾玉ネックレスを見て、アティナ様が一日中すんごい暗黒のオーラを放出し始めたから、すぐにそれどころじゃなくなってしまった。
なんでーー!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます