陰キャ魔女は異世界で友達百人作りたい~話題作りのために正体隠して無双してたら世界中からチヤホヤされる英雄になってました~

ジャジャ丸

第1話 陰キャ少女の異世界転生

 人の性格を形作るのが環境だというのなら、私は最初から躓いていた。


 物心ついた時にはもう、両親の仲が完全に冷え切っていて、顔を合わせれば喧嘩ばかり。

 それでも……喧嘩してくれていた方がマシだったと気付いたのは、私が小学生になった後だった。


 お金さえ置いておけば、私だけでも何かしら食べて生きていける歳になっていると気付いた両親は……ポストにお札が入った封筒を投函するだけで、家の中に足を踏み入れることすらしなくなったから。


 そんな私に、友達なんて出来るわけがなくて。

 家に帰るのも嫌だったから、暗くなるまでずっと、公園のベンチに座り込んでいた。


 誰かと喋ることもない、誰かと遊ぶこともない、ひとりぼっちの毎日。


 そうやって、虚無としか表現出来ないモノクロの日々を送っていた私の人生は、ある日唐突に終わりを迎えた。


 一日中、朝も夜も子供一人で暮らしている私のところへ、強盗が押し入って来たんだ。


 ロクな抵抗も出来ずに包丁で刺されて、冷たくなっていく体をどこか他人事のように感じながら……私は、思った。


 もし、生まれ変われるのなら……次は、たくさんの友達に囲まれる人生を送りたいな、って。





(そんな風に思ってたのは確かだけど……まさか、こんなことになるなんて思わなかったなぁ)


 気が付いた時、私は本当に生まれ変わっていた。


 ハインツラル王国の西の端、小さな男爵家の次女……メアリア・アースランド。

 生活はそんなに余裕もないけど、両親とお姉ちゃん、弟を含む家族五人、みんなとっても仲良しで、すごく温かい。


 何が何だかよく分からないけど、こんな素敵な時間をくれた神様に感謝して……今度こそ、友達をたくさん作って、憧れの陽キャ人生を歩むんだって心に誓った。


 大丈夫、前世はもう自分の力じゃどうしようもないところで周りから嫌われちゃってたけど、今回は普通の男爵令嬢だもん。


 友達百人目指して、頑張るぞー!






「…………」


 そんな風に、思っていた時期もありました。


「む、むりぃ……!」


 五歳になり、初めて参加した貴族同士の社交場から帰ってきた私は、ベッドの上で布団を被って打ちひしがれていた。


 最初はね? 五歳そこそこなんてみんな子供だし、前世の記憶がある分精神年齢の高い私が、しっかりとコミュニケーションをリードしようって思ってたんだよ?


 でも、無理だった。みんなが何を話しているのか、さっぱり分からない。


 どこそこのブランドのぬいぐるみや人形が可愛いだとか、どこそこのパティシエが作ったデザートが絶品だとか、どこそこのブティックが発表したドレスがとても綺麗だとか……五歳児の会話か? あれが?


 貧乏男爵家出身の私はその会話に全く入っていけず、気を利かせて話題を振られてもアドリブが一切利かない私の事を、子供達がいつまでも構ってくれるわけがなかった。


 私は、子供同士の小さな社交が始まってものの十分少々で、見事陰キャぼっち令嬢の称号を獲得してしまったのだ。


 転生したくらいで、骨の髄まで染み付いた私の陰キャ魂が浄化されるわけがなかったんだよ。泣きそう。


「これから、どうしよう……」


 このままでは、せっかく生まれ変わったのに前世の二の舞になってしまう。それは嫌だ。


 なら、私も今日話題に上がっていたお店について勉強するべき? って思ったけど、私は前世でもそれをして大失敗している。


 流行りの人気アイドルグループの話題についていくために、各メンバーのプロフィールや経歴、これまで歌って来た曲や出演番組に至るまで、一週間でばっちり完璧に予習してから学校に行ったら、「は? あんた未だにあんなグループ応援してんの? 遅れてるー(笑)」とか言われたトラウマが……!!


 一体、陽キャの人達はどうやってあの早すぎる時間の流れについて行ってるの? 陽キャって、みんな次に何が流行るか予知出来るエスパーなの?


「メアおねえちゃん〜!」


「ふわっ、ルル!?」


 一人で落ち込んでいたら、いつの間にか部屋に入って来た弟のルルに飛びかかられた。


 突然の事態に目を回す私に、ルルはにぱーっ、と笑みを浮かべる。


 うっ……! これは、本当に純粋無垢な子供にだけ許された、圧倒的高純度の陽キャスマイル……! 陰の存在である私には、あまりにも刺激が強すぎる……!


「ねえメアおねえちゃん、魔法みせて〜」


「えっ……ま、魔法?」


「うん! リリおねえちゃんにみせてもらってたけど、もうつかれた〜って」


 ぶーっ、と不満そうに頬を膨らませるルルに、私はどう答えようか迷った。


 私、魔法なんて使えないし……でも、可愛いルルに「えー……メアおねえちゃん、そんなこともできないの……? つまんない、もう話しかけてこないで」なんて言われたら、私は生きて行けなくなってしまう……!!


「……待って、魔法? ……そっか、魔法か……!」


 その時、私の頭に天啓が降りて来た。


 私には、陽キャみたいに次の流行りを予知する力なんてない。

 それなら、私が常に話題の中心にいればいいんだ!!


 この世界には魔法があって、強大な力を秘めた魔導師様は常に話題の中心だ。

 今日だって、この国の代表的な魔導師の中で、誰が一番素敵な人なのかって議論があったくらいだし。


 つまり、私もそんな魔導師様になってしまえば、常にみんなからチヤホヤされる存在に……!!


「……無理!!」


「うわっ、メアおねえちゃん、どうしたの……?」


 自分が大勢の人に囲まれて尊敬の念を集める姿を想像して、拒絶反応のあまり枕へ渾身の頭突きを見舞ってしまった。


 いやだって、前世でも私、似たようなことをやって大失敗しているのだ。


 あれは、中学に上がってすぐの頃。

 周りの流行りについていく事を諦めた私は、勉強でトップになれば、常に勉強という共通の話題を持つことが出来て、クラスメイトと仲良くなれるんじゃないかって考えて……見事、最初のテストで全教科満点を叩き出したんだ。


 ……先生の「すごいぞ、全部満点だった奴がいる!」って一声ですごく盛り上がっていた教室内が、私の名前を呼ばれた瞬間にシーーンって静まり返ったのは、ほんっっっとうにトラウマものだった。


 いや、お前かよ……つまんな。って心の声が、無数の視線となって背中を滅多刺しにしてくるあの感覚は、二度と味わいたくない。


「……つまり、私でなければいい?」


 私であって、私でない存在。

 例えばそう、変装して、誰も名前を知らない最強の魔導師になったとしよう。


 当然、みんなはそれを私だとは思わないから、理想と現実のギャップが激しくてガッカリすることもなく、話題に上げてくれるだろう。


 そしたら、それは他ならぬ私自身のことなんだから、私だって絶対に話題についていける。


 共通の話題を持って、一緒に盛り上がれる人……それはもう、紛れもない友達!!


「行ける!! これならきっと、私でもやれる!!」


「メアおねえちゃん〜、そろそろもどってきて〜」


「ルル!! 待ってて、お姉ちゃん、絶対にすごい魔導師を連れて来てあげるから!!」


「あ、もどってきた。……いやボク、メアおねえちゃんの魔法がみたいんだけど……」


 よし、そうと決まれば、今日から魔法の特訓だ!!

 誰にもバレないように、すっごく強い魔導師になって……その話題を使って、友達百人作るんだ!!


 呆れ顔のルルに気付くことなく、私は決意と共に拳を握り、天へ向かって突き出すのだった。

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